たすけてはちやくん!


-help 1-



「助けて鉢屋くん!!」

そう言って今日も彼女はやってくる。
廊下から聞こえてきた声に同室の雷蔵は「大丈夫かな?」と首を傾げる。ここに来るってことは大丈夫じゃないんだろう。

「不破くん鉢屋くん!!!」

部屋の扉が勢いよく開いた。
そこには肩で息をする彼女の姿がある。

ある日、天から降ってきた変な女。名前は静枝。
何があったのかは知らないが、こいつが来てから忍者学園は乱れに乱れている。授業も委員会も回ってはいるのだが、どれもこれもこいつに嫌われないためにやっているに過ぎない。
なんと一年から六年まで、彼女に骨抜きにされているのだ。
例外は、私と雷蔵のみ。私たちは彼女にそこまでの魅力は感じないのだが、みんなはいったい何を見ているのだろう。新手の色香の術かとも思ったが、そうなると私たちだけ術にかかっていないことが説明できない。

加えて彼女は……。


「かかか匿って…!!!」


極度の男性恐怖症らしい。

雷蔵はどうぞと笑い彼女を招き入れた。それから静かに扉を閉める。五年長屋は静かだ。他の連中はこいつを見つけるために走り回っているからな。こんな夜中までご苦労様。

静枝は私たちとは少し離れたところにちょこんと座る。慣れたとは言え、やはりまだ怖いらしい。

最初、彼女は私たちまで避けていた。私たちも他の連中と同じだと思っていたらしい。
それがこうなったきっかけは雷蔵だ。彼女が追われているときに雷蔵が図書室に匿った。その時、私たちは正常だということを伝えたらしい。始めこそ不信感たっぷりな目で睨まれたりしていたが、今じゃこの通り。率先して飛び込んでくる。

そんなに嫌ならばくの一教室に行けばいいと思うのだが、一度逃げ込んだ時、忍たま連中がくの一教室を荒らしに荒らしたらしく、申し訳なくて行けないのだと言っていた。お人好しなやつだ。

「今日は誰に追われてたんだ?」
「な、なな、まつさん」
「……………」

思わず目をそらしてしまった。
それは……かわいそうに。
雷蔵も苦笑いを浮かべていた。
彼女は瞳に涙をためると膝小僧に顔を埋める。

彼女が男性を苦手になった理由は父親にあると聞いたことがある。
父親が昔から暴力的だったらしく、男=暴力的で野蛮な物と認識したそうだ。今では、全員が野蛮ではないと頭では分かっていても心が受け付けないらしい。まあ、あんなに追われてたら受け付けないのも当たり前だろう。

「ごめんね………二人とも…………」
「ううん、気にしないで」
「ああ、気にするな」

静枝は膝小僧から涙でぐしゃぐしゃになった顔を持ち上げ、にこりと笑った。そして小さく「ありがとう」と。
思わず心臓が爆音を鳴らす。
そんな私に気づいているらしく、雷蔵はにこにこと笑っていた。

笑ってくれて結構。
それでも、小さく震える彼女に胸が高鳴る。涙を見るといてもたってもいられない。


笑い者だろう?
彼女を守る立場にある私まで、彼女に惚れてしまっているのだから。