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「助けて鉢屋くん!!!」
今日も今日とて忍術学園に静枝の救援要請がこだまする。
私は雷蔵の微笑みに見送られながら自室から廊下に出た。
すると足音がこちらに近づいてくるのが聞こえる。
私と静枝はもう既に恋仲であるのだが、他の連中は諦めてくれない。もう二週間はたっているぞ。いったいどうすればいいというのだろう。
「鉢屋くんんん!!!」
廊下の曲がり角から静枝が飛び出してくる。両手を伸ばして真っ直ぐこっちに。
もしかして、信じていないのか。他のやつらは。私と彼女が付き合っているということを。それは問題だ。
ならば、もっと分かりやすく証明しなくては。
私は駆け寄る静枝を抱き留める。彼女の肩越しに滝夜叉丸と三木ヱ門が見えた。今日はこいつらか。
「静枝」
「え」
私は彼らから目をそらし、腕の中にいる彼女に声をかける。
もうこんなに慣れたんだ。きっと大丈夫だろう。
「好きだ」
「え、え、う、うんっ」
「だから、許せ」
「え、……っん……………!?」
彼女の唇に、己のそれを重ねた。
静枝は目を見開いて固まっている。まあ、私も目を開けているのだが。
ちらりと二人を確認すると、呆然と立ちすくんでいた。これで分かっただろう。静枝は既に私のものだということが。
「は、ち、やくんっ…!!」
彼女がか細く呟く。私はそれにはっとし、唇を離した。すまない と謝れば彼女は真っ赤な顔で「好きだから大丈夫」と言った。
うん、可愛い。
「さあ、これで分かっただろう!」と二人を見ると、彼らは真っ赤な顔をしてわなわなと震えていた。なんだ、怒るのか?検討違いにもほどがないか?
「ひ、人前でくくく口吸いなど、は、ははは破廉恥な!!!!」
「あ、あり得ない!!!あり得ない!!!!」
「え?」
その反応は予想外だった。
二人は私に対し怒るというより軽蔑の視線を送ってきている。
まて、確かに人前で口吸いは破廉恥な行為だと思わなくないが、今までそれを強要してきたお前らが言うのか?
これは、明らかにおかしい。
「私は失礼させていただきます!」
「私ももう寝ます!」
滝夜叉丸と三木ヱ門は私を一睨みしてから四年長屋の方に身体を向けた。
これはどうなっている。私の腕の中の静枝も首を傾げていた。
「あ、静枝さん!」
四年長屋に向かっていた三木ヱ門が静枝を呼びながら振り向く。その表情は優しい微笑だった。
「おやすみなさい!」
また何かされると身構えていた私たちは、その言葉をしばらく理解できなかった。そして、私より早く理解した静枝が「二人も、おやすみっ」と挨拶を返したことにより、私もなんとか理解できた。
正常に、なっている?
まさか、と思ったが事実、その時から静枝は誰にも追われなくなった。そして、彼女を好きなのは私だけになったのだ。
不思議と五年以外はみんな彼女に惚れていた記憶がないらしい。なぜか記憶があった五年はみんな静枝に土下座した。というか私がさせた。
これで安全に暮らせるようになった静枝は今、くの一教室の方で事務員をしている。寝泊まりもくのたま長屋だから、少しもどかしいけれど彼女にとっては万々歳だろう。
「静枝!」
「あ、鉢屋くん!」
私は時々くの一教室の方に遊びに来ている。本当は余り出入りしてはいけないのだが、静枝に会いたいと言えば特別に許可が下りた。
くの一教室の事務室でお茶をして、談笑して、ただそれだけだけど幸せだ。
「静枝、触れてもいい?」
私の言葉に静枝はにこりと笑む。
こうして触れられるのは私だけだと思うと、やっぱり……。
「ぎゃあああ!!!!」
もうすぐで彼女の頬に触れるという時に、忍たま教室の方から女の叫び声が聞こえてきた。
「…………なんかデジャビュ」
「うん…私も」
私と彼女は顔を合わせて苦笑する。
終わった波乱がもう一度来る予感。
でもまあ、私には静枝がいるから、なにも関係ないがな。
−終幕−