みんな個性的


「祥音!」
「え、な、三郎!?」
「つーか、なに、え、女の子!?」
「お、おーい!大丈夫かよ!!」

私は痛む頭に鞭を打って身体を持ち上げる。付いた手はバシャッと水を跳ねさせた。そうだ……ここ川だった。
辺りから心配するような声が近付いてきた。私がぱちりと瞼を持ち上げると、双子の男の子と目が合う。彼の身体は完全に川に浸かっており、彼が助けてくれたということを短絡的に理解した。

「あ、ありがとうございます!!」

慌てて感謝を告げると彼はくすりと笑う。あ、めちゃくちゃ綺麗に笑う子だなぁ。

「大丈夫?怪我はしていないか?」

彼は私の頬を撫でて聞いてくる。私が大丈夫です!と告げると彼はまた笑う。

「あ、すいません今どきます!!」

そう言えば、彼の上に乗ったままだった。私は勢いよく立ち上がり後ろに後退した。その際また足を滑らせてしまう。

「きゃっ」
「ちょ、っと…!!」

そんな私を支えてくれたのは兵助だった。
「落ち着こう」と思考が訴えかけてくる。うん、落ち着こう。

「ごめん兵助……」
「慌てすぎでしょ」

と兵助は笑った。
私はなんとか一人で立つ。
落ち着けば転ばないはず。

私を助けてくれた双子の男の子はむくりと身体を持ち上げた。
というか、すごい筋肉でした。びっくり。
触っちゃったのは不可抗力です。

「大丈夫?三郎?」
「大丈夫大丈夫」

双子の男の子の片割れはそう言いながら私を助けてくれた方の男の子に手を差し出す。私を助けてくれた方の男の子はその手を掴み立ち上がった。並ぶとよりいっそうそっくりだ。

「君は大丈夫だった?」

後から駆け寄ってきた方の男の子にそう優しく聞かれる。慌てて大丈夫です!と告げると、それならよかったと微笑まれてしまった。

といっても少し服が濡れてしまった。男の子の方が濡れているから言わないけれど。いや、これはもともと濡れていたのだろうか……。
何はともあれ、結局兵助に服を借りることになりそうだ。

「というか、なになに、女の子じゃん!」

その言葉にハッとした。よくよく見ると、五人の視線が全部こちらに来ている。兵助だけは苦笑しているけれど。

私は慌てて頭を下げた。

「はじめまして!今日こちらに越してきました、樋野 祥音です!明日から学校にも通うことになっています、あ、中学二年生です!よろしくお願いします!」
「あー!君が噂の!」

言い終わるのとほぼ同時に声が上がった。ドレッドヘアを後頭部でひとつ結びにしている男の子だ。あどけない顔をしていて、年下にも見える。でも兵助と一緒にいるってことは同い年なのだろう。

「俺は尾浜勘右衛門。むずかしー名前だから勘ちゃんって呼んでね!」

ドレッドヘアの男の子は片手を挙げながら自己紹介をしてくれた。
器用なウインクがあざとい。都会にもこんなあざとい子はいなかった。

「俺は竹谷八左ヱ門!ハチって呼ばれてるから、ハチって呼んでくれていいぜ!」

勘ちゃんの次に自己紹介をしてくれたのは灰色の髪をした男の子。喜八郎くんより薄い灰色だ。銀髪に近い。
それにしてもこの子はいい体つきをしている。身長も一番高いのではないだろうか。

「僕は不破雷蔵」
「私は鉢屋三郎」
「え……?」

次に自己紹介をしてくれたのは双子なわけだが……。
名字が違う?
どうしてだろうと考えていると、双子は苦笑を浮かべた。

「僕たち、訳あって別姓を名乗ってるんだ。あまり気にしなくていいよ。あ、雷蔵って呼び捨てにしてくれて構わないから」
「私も三郎でいいよ」

これで全員の名前を聞いたわけだが……。
兵助、勘ちゃん、ハチ、雷蔵、三郎………。
みんな個性的だなぁ。

でも、すごく楽しくなりそうだ。

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