田舎っ子すごい


停留所で私に声をかけてくださったお婆さんは、綾部 喜子(よしこ)さんと言うらしい。
喜子さんは停留所の長椅子に腰かけると、孫の自慢話を始めた。

お孫さんは「喜八郎」くんと言うらしくて、大人しくていい子だとか。お手伝いをしてくれるだとか。穴堀りが趣味だとか……。そんな話をいっぱいしてくる。
特に穴掘りの話が多くて驚きだ。穴掘りが趣味って、どんな子なの。大人しい子が穴掘りって、めちゃくちゃアグレッシブじゃん。すごいな「喜八郎」くん。
悔しいけど、ちょっと興味わいてきた。

「それでねぇ、喜八郎が……」
「お婆ちゃん」

次はどんな穴掘り武勇伝が聞けるのだろうとワクワクしていると、停留所の外から声がした。そちらを見ると灰色の髪の毛をした綺麗な顔立ちの男の子が一人、立っている。
誰だろうと思っていると喜子さんは「おやまぁ」と呟いた。

「喜八郎、どうしたんだい?」
「お婆ちゃんこそ」

どうやら、彼が噂の「喜八郎」くんらしい。
喜子さんがなかなかに綺麗な人だったからまさかとは思ったけれど、これはすごくかっこいい部類に入るのではないだろうか。
これで穴掘りが好きなのか。意外……。いや、確かに、よくよく見ると腕の筋肉がすごい。穴掘りしているからだろう。
やばいな喜八郎くん。

「おやまぁ、あなたは?」

喜子さんと同じような言葉を吐いたのは喜八郎くんだ。その口癖、遺伝なんだ。

「えーと、はじめまして。今日この大川村に越してきました、樋野 祥音です」
「ああ、あなたが。噂は兼ね兼ね耳にしています。はじめまして、綾部 喜八郎です」

喜八郎くんはぺこりと頭を下げた。礼儀のなった、いい子だ。と、私が感心していると、喜子さんはくすくす笑う。

「いい子でしょう?」
「え、ええ、まあ……」
「嫁いでみる気にはならないかしら?」
「お婆ちゃん」

喜八郎くんの諌めるような声音に、喜子さんは冗談よ と笑う。そりゃあ冗談じゃなければ困る。あってものの数分で嫁ぐ嫁がないって普通じゃ考えられないよ。せめて友達からはじめなくちゃ。

「樋野さん」
「え?」

喜子さんを立ち上がらせた喜八郎くんは停留所から出て少ししてからこちらを振り向いた。そうか、喜八郎くんは喜子さんを迎えに来たんだ。本当に出来た子。

「また、明日」

そう言って頭を下げた喜八郎くんは、喜子さんを連れたってすたすたと歩いていってしまう。喜子さんはこちらを振り向いて、小さく手を振ってくださった。私も慌てて手を振る。

「ま、また明日ー!」

そうだ。
明日だ。転入するのは。
今日が日曜日だから。
明日。

なぜかとても不思議な気持ちになる。
ワクワクとも、不安とも違う。
どちらも織り混ざったかのような不思議な気持ち。

明日こそ、私が一番頑張らなければならない日だ。
と気合いが入る一方、女の子が一人という事実を思い出しては気分が落ちた。
いや、そんなことは言ってられない。
頑張らなくちゃダメだよね!

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