田舎、よくわかんない


こへ兄に言われた通り、外に出てみたが……。
驚きだ、人がいない。
がらーんとした道路を歩く。アスファルトで舗装されているけれど、車が通る気配はない。横を見ると畑やら田んぼやらが広がっており、時々何もないさら地。見える範囲で家は三軒ほど。その向こうには山々が連なっている。こんな近くで山を見るの、はじめてかもしれない。

しばらく歩いているとバス停が見えてきた。
なんだ、ちゃんとした移動手段あるじゃん。
確か、学校に行くのにバスを使うんだっけ。全然見当たらないからどこにバス停があるのかと思ったけれど、ここなわけね。
徒歩20分………。まあ、行けない距離じゃないか……。

私は誰かいないかと停留所を覗く。木造の停留所は雨風をしのぐための屋根と壁、それに三人ぐらいが座れる長椅子がある。壁には古ぼけて破けた栄養ドリンクのポスターと、手書きの時刻表。残念ながら人はいなかった。

私は諦めて時刻表を見てみる。


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平日

6|
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7| 17
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8|
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9| 37
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10|
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11| 42
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12|
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13| 42
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14|
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15|
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16|
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17| 32
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18|
−−−−−−−−−−−−−
19| 32
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20|
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21|
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22|
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23|
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凡例|
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えーと………?

「こ、れ………ほんと?」

こんなすきすきな時刻表が、本当に時刻表なの?
遊びに行く時とかどうするの?登校に7時のバスを使うのは分かる。分かるけれど。
本当に、次のバスまで二時間とかあるんだ……。

なんというか、もう。
田舎すごいわ。
私、これに順応できるのかな……?

「おやまぁ………女の子がいるわぁ…」

時刻表をじーっと見つめていると背後から声をかけられた。慌てて振り向くと、そこにはのほほんと笑うお婆さんがいる。
少し白髪混じりの灰色の髪がゆるくパーマされており、どこか上品に見える。
私は「こんにちは」と挨拶をしながら頭を下げた。
するとお婆さんはころころと笑い、「あなたが七松さん家に越してきた祥音さんね」と言った。どうやら村中で噂になっているらしい。

「ふふふ。この村に女の子が越してきてくれて嬉しいわぁ。なんせ、年若い未婚の女の子がいないものだから」
「え?そうなんですか?」
「ええ、そうよ。学校でも、女の子はあなた一人じゃないかしら」

お父さん、叔母さん、叔父さん、こへ兄。
私、そんなこと聞いてませんよ。
女の子一人ってどういうことですか。

「あら、そうだわ。これも何かの縁。あなた、うちの子にならない?孫が中学一年生なのだけれど、とってもいい子だから嫁いでいただけないかしら?」
「えええ!?」
「うふふ。ゆっくり考えていただいて結構よ。でも、女の子はあなた一人だからねぇ。みーんな、あなたを自分の孫や息子に嫁がせようと必死なのよ」

相変わらずお婆さんはのほほんと笑っているが、言っていることはとんでもない。まさか、こんなことになるなんて……。

田舎、よくわかんない……。

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