そんなんじゃないのに


ハチのお母さんとお姉さんに囲まれまったく検討違いの尋問をされてどうすればいいか悩んでいると、トイレに行っていた四人が帰ってきてなんとか説明してくれた。その流れで自己紹介までいけたのだが、なんと隙のないお母さんとお姉さんなのだろう。

佑香という名前のお母さんは「早とちりしてごめんなさいねー」と笑って台所に消えていき、静琉という名前のお姉さんは「ハチはいつ彼女つくんのよー」とハチをつついていた。
賑やかな家族だ。もっと厳格そうだと思っていたのに。

私以外の四人はまるで自分家のようにくつろいでいる。お夕飯まではまだ少し時間があるようでテレビを見たり、トランプで遊んだり様々だ。
私はじっとなんてしていられなくて料理の手伝いをしようと台所に向かったのだがその途中で静琉さんに捕まってしまった。

私の制止を無視して、静琉さんは静かに居間を出て隣の部屋に入る。薄暗いその部屋は少しだけ暑い。

「で、祥音ちゃん」
「え、え、なんですか……?」

静琉さんは私の肩をがしりと掴み、正面から見据えてくる。めちゃくちゃニヤニヤした顔をしていらっしゃる。

「あの五人で誰が好み?」
「え………えええ!?」

いきなり何を聞き出すかと思えば!

「わ、私まだ今日越してきたばかりで…!!」
「分かってる分かってる。でも、あの五人なかなかイケメンじゃない?ああ、ハチは中身が伴ってないけど。あんた折角ハーレム状態なんだから楽しみなさいよねー」
「は、ハーレムって…!!」

確かに、村の学校に通う女子は私だけだが、だからと言って別にハーレムってわけじゃ……。言い返してみるが静琉さんは「分かんないわよ〜」と首を振る。

「いやー、でも目指すならハーレムでしょ。男同士が自分を狙って争うんだよ!?めちゃくちゃ少女漫画みたいじゃん!最高じゃん!ねえ!」

そんな、同意を求められても。私、男女間の友情は成り立つ派だし、争うとこなんて見たくないし。そもそも、私に愛され要素はないわけでして。

「わ、私別に…!!」

とりあえずいいわけをしなきゃと、必死に言葉を探す。でもどれもこれも違う気がして言葉にならない。
どうしよう、と頭がいっぱいいっぱいになっていると静琉さんが口角を上げた。

「んー、まあ、今は別にいいや」
「静琉さん……」
「いずれ分かるから」

ほら、行こ? と静琉さんは私の腕を引く。
なにがわかるのか聞いてみたかったが、居間に入ると美味しそうなお夕飯の匂いが鼻をついて、考えていたことを全部忘れてしまった。


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