ちょっと待って


勘ちゃんと手を繋いでゆっくり歩いて、彼の話に耳を傾けたり、日本庭園を見て回っていると竹谷邸の玄関についた。他の四人はすでに玄関にいる。ハチはこちらに向かって「勘ちゃんも祥音もおせーよ」と唇を尖らせる。慌てて謝ろうとすれば、手を離した勘ちゃんが一歩前に出て、私を庇うように立ってくれた。

「悪い悪い。ほら、ハチん家の庭案内してたんだよ」

ハチは「まあ、それなら」と苦笑を浮かべてくれた。
勘ちゃん優しい。ズルい。
彼の袖を軽く引き、ありがとう と告げると勘ちゃんはにっこりと微笑んだ。やっぱりズルい。

「ハチ、お腹すいた」

先に竹谷邸に入っていた三郎が不満そうにハチに告げる。ハチは「うるせーな!」と言いながら中に入っていく。ハチが玄関に上がるのを追いかけて私も靴を脱いで上がる。「お邪魔します」と声を出してみるが家中には届いてなさそう。
余り誉められたものではないだろうけど思わず家の中を見渡してしまう。
天井が低い。玄関が広い。廊下が果てしない。襖に金箔が撒かれてる。なにこれなにこれ。豪邸すごい。

兵助と雷蔵、三郎と勘ちゃんの四人は家の構造を知っているのだろう。みんな一斉に同じ方向に歩いている。私がその背中についていこうとするとハチに肩を叩かれた。

「居間はこっち」

と、四人が歩いている方向とはまったく逆方向を指差される。え、でも と四人をちらりと見ると、ハチは「あいつらはトイレ」と笑った。ああ、なるほど。それは失礼しました。

「ただいまー」

ハチは居間だという部屋の襖を開く。中から冷気がこぼれている。ああ、もうエアコンつけてるんだ。今日暑いもんね。
私は慌てて居間に入り、襖を閉める。それからもう一度「お邪魔します」と声をかけた。

「あら」
「え」

「あ、始めまして……」

居間には二人の女性がいた。多分ハチのお母さんとお姉さんだ。私は二人に自己紹介をしようと頭を下げる。

「あら、あらあらあら」
「ちょっと、ハチー!?」

めちゃくちゃ至近距離で声がして思わず顔を上げると、ハチのお母さんの顔がドアップでうつる。驚きすぎて身体が固まった。お姉さんの方はハチの肩に腕を回しニヤニヤと笑っている。

「もーハチったら、抜け駆けなんだからぁー。お姉さんにどうして話してくれないの?」
「はぁあ!?」
「あらあらおやおや、八左ヱ門もすみにおけないわねぇ。うふふ。こんなバカ息子だけどよろしくねぇ」
「あ、あの、お母さん……!!」

きっと誤解をされている。誤解を解こうと挑戦してみるが「あらあら、お養母さんですって」と笑顔で塞がれてしまう。頼みの綱のハチに至っては完全にお姉さんに尋問される体制だ。

ちょっとちょっと、待ってよ!
ていうか誰か助けて!!


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