はじめからあなたが好きでした
斎藤タカ丸くん。
はじめて見たときから好きでした。
いわゆる一目惚れって奴です。
そのキラキラ輝くお髪とか、笑顔とか。全てが私を虜にします。性格を知って更に好きになりました。
でも私たちは忍だから、「三禁」は破れない。掟です。大切な。
だから私は伝えません。伝えてはいけません。自分の思いを。
隠すなんて造作もありません。辛くありません。
私だって、くのいちを目指しているのだから。

なのに、なぜあなたは。

「僕、名前ちゃんのこと好きなんだ!」

なぜあなたは、そんなにも易々と思いを伝えてきたのですか?
そしてなぜ、両思いなのですか?



「あ、ありがとうございます……」

出来るだけ感情を表に出さないように、淡々と感謝を告げる。本当は小躍りしたい気分だが、そんなことはやっていられない。

いやはやまさか。彼と私が両思いだったなんて、全くもって思わなかった。
だって、私、声をかけたことなんて一度もないもの。逆もまたしかり。
私たちの関係は、本当に希薄な物だった。それでよく好けたものだ。

「えーと、タカ丸くん……さん?」

一応同じ学年だが、年齢的には彼の方が上。だから呼び方を迷ったのだが、彼は呼び捨てでいいよと笑う。心の中で呼ぶ時すら「タカ丸くん」だったのに、いきなり呼び捨てなんてレベルが高すぎないか。
しかし、こんなところでうだうだは言っていられないので、私は彼を呼び捨てにした。「タカ丸」と。

「タカ丸」
「うん、なあに?」

ふわりと笑顔を見せる彼に、危うく思いを伝えてしまいそうになった。隠そうとしているのに。惚れた弱味とはよく言ったものだ。

「タカ丸はいつから私を好いてくれたの?」
「いつ?」

タカ丸は私の質問に「いつだろう」と首を傾げる。こんなちんちくりんな私を好きになったのだ。何か明確な時期、事件があるはずだ。
そう踏んでいたのに、タカ丸はあっけらかんと言う。

「はじめて見たときから好きだよ!」
「は…………?」

まさかの一目惚れに言葉が出ない。
ええ、じゃあ、あれだ。
はじめて目が合った時あったではありませんか。私がその時惚れたように、あなたも惚れてくださったのですか?

「あのね、綺麗な髪の子がいるなぁって思って見てたら目が合って…………。あ、目が合った時のこと覚えてる?」

もちろん。私が忘れるわけがない。

「なんかその時にびびびっと来ちゃったんだよ!運命みたいな!」

そんなの、丸っきり私と一緒だ。 完璧に好みだった。ドンピシャだった。

え、それならば、今までの努力はなんだったのだろう。

「えと、名前ちゃんは僕のことあまり知らないかもしれないけど……」
「滅相もない…」

照れたように笑うタカ丸の手をとる。彼はきょとんとした顔をしていた。

「私だって、はじめからあなたが好きでした。一目惚れ、でした」

流されるように掟を破ってしまった。忍になれなくても、タカ丸なら立派な髪結いになってくれるよね?

「え!本当に!?」
「うん、本当。私もタカ丸が好きだよ」
「ありがとう!すごく嬉しい!」

それは私の台詞だ。
こんなバカらしい片思いをしていたなんて信じられない。

だって、結果が一つしかない物語りなんて、詰まらないものでしょう?

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