たった一つのお願い

愛してると言って

藍くんがロボットだろうが、感情がなかろうが関係ない。
彼がそれに対してどれだけ悩んでいるのかなんてどうでもいい。
ただただ私は彼が好きで、全てを受け入れる。

ロボットだって感情がなくたっていいんだよ。藍くんは藍くんだもん。問題なんてないよ。それが藍くんらしさなんだから。

「キミはすごいよ」

と藍くんは不器用に微笑む。
この笑顔もプログラミングされたもの? ううん、絶対に違う。藍くんは感情をちゃんと学ぼうとしている。だから今の笑顔も本物。

「すごくなんかないよ」
「普通、ロボットなんて言われたらびっくりしない?」
「しない」
「普通の話だってば」
「そんなの分かんない。だって私は私。一般論なんて知らない」
「変だね。絶対におかしい」
「かもね」

恋は盲目なんて言うけれど、まさしくそうだ。藍くんのことならなんでも受け入れられる気がしてる。最強に無敵な気分。

「でも、ありがとう」

藍くんは泣きそうな顔をした。人だったらきっと彼は涙を流している。そんな顔されたら私が泣いてしまいそうだよ。でも私じゃ藍くんの代わりにはならないから必死にこらえる。私が泣いちゃいけない。私が泣くところじゃない。

「いきなりなに?」
「怖がられたらどうしようって」
「藍くんが心配事?」
「うん。らしくないでしょ」
「ううん。素敵」
「それはよく分からないや」

藍くんは私の目元を拭う。少し涙が滲んでいたみたい。恥ずかしいな。でも慌てて拭うのも恥ずかしい。黙って藍くんにやってもらおう。私は、知らないふりしていれば大丈夫。泣いてないよ。少しも泣いてない。

「私はちっとも怖くないよ。だって藍くんが好きだもん。大好き」
「好き?」
「うん。好き」
「好きだったら怖くないの?」
「うーん。私は怖くないかな」
「また名前の話だ」
「私は私」
「うん、知ってる」

藍くんはそう苦笑して、私の頭を撫でた。もしこんな行動がプログラムされていたとしたら、ずるいよね。魔法使いみたいだ。胸が痛いくらいに揺さぶられる。

「僕も好きだよ」
「ダメ……」
「え……?」

そんな風に言わないで。
足らない。足らないよ。

「やだ」
「やだ…?」
「藍くん、いなくなっちゃうみたい」

どうしてそんな風に思ったかは分からない。自然と口から溢れていたのだ。
でも私の言葉に、藍くんは違うよと笑った。

「違うよ名前。先にいなくなっちゃうのは名前だよ」
「え?」
「僕に命はないから。僕はずっとこのまま。キミだけが、先に行くんだ」
「あ…………」

私だけが年をとって、命を削って、藍くんを置いていくんだ。彼はずっと一人で、なくならない魂と生きていくんだ。これが彼の悩み。なんで、こんなに大切なことを私は蔑ろにしていたんだろう。

「怖い……」
「好きだったら怖くないんじゃなかった?」
「怖いよ……怖いっ!!!」

藍くんはまた優しく私の頭を撫でる。冷たい手、決められた動き、なのに心が満たされる感覚。
藍くんは覚悟してるんだ。自分だけが残される覚悟。

こんなのもう、どうしようもない。私がとやかく言うことじゃない。

だったらもっと、一分一秒を大切にしよう。

「好きじゃ、ダメ……」
「名前……」
「愛してるって……言って…!!」

もっともっと、強い思いにしよう。
離れ離れでも辛くないように。
言葉で行動で、心を満たそう。
思い出を増やそう。

「うん、愛してる………。アイしてるよ、名前……」

触れるだけの優しいキス。
精一杯のアイを込めて。



by アキ