たった一つのお願い

お姫様だっこして

「ねぇ、那月くん」

彼の仕事が休みの日。私は彼、アイドルの四ノ宮那月くんと私の家でお家デートをしていた。彼の部屋だといつ誰に狙われているか分からないからである。友達にも親にも内緒のお付き合い。最初はファンからスタートだったから、本当に夢のようだ。

私の冒頭の問いかけに、那月くんは間延びした声で「どうしましたかぁ?」と聞いてきた。優しい声にすごく安心する。

「私ね、那月くんにお願いがあるの」
「名前ちゃんが僕にお願い?なんでしょうか」
「大丈夫、とっても簡単だから」

よく分からないけど、大丈夫です! と、那月くんは単純な反応を示してくれた。まさかこれが素だったなんて思わなかったなぁ。可愛いし、そういうところが好きなんだけど、時々怖くなる。変な人に騙されないといいけど……。
彼女という気持ちより、保護欲が勝ってしまう。ちゃんと守ってあげなくちゃ。

「私、お姫様だっこされるのが憧れだったの!だから…」

私がちゃんと願い事をする前に那月くんは立ち上がった。いきなりのことだから思わず肩が揺れる。もしかしたらいけないお願いだったのかな。恐る恐る見上げると、そんな心配は杞憂だとも言いたげな笑顔が目に入る。

「いいですね!僕も可愛い可愛い名前ちゃんをお姫様にしたいです!」

その大きな手を私に差し伸べて微笑む那月くん。照れもしないでそういうことを言ってのけるから、ここで照れるのはなんだか悔しくて、私は平常心を保ちながらその手をつかんだ。那月くんはその手をひいて、立ち上がらせてくれる。立ち上がると余計に身長差が目立つ。

「さあ、名前ちゃん、僕の首に腕を通してください」
「う、うん」

私は緊張しながら彼の首に腕を絡ませる。余りにも近くて、ドキドキが止まらない。いつもは可愛い那月くんだけど、体つきは全然男の子で、むしろがっしりしている方で、そのギャップも愛しい。ああ、口から心臓が出てしまいそう。

「じゃあ、いきますよぉ……」

彼がそう言ったのと同時に身体が持ち上がった。思わずぎゅうっと抱き着いてしまう。すると彼はくすりと笑った。

「僕のお姫様、気分はいかがですか?」

至近距離に那月くん。身体の全てを彼に預けるこの感覚。ああ、おかしくなりそうなぐらいドキドキしてる。

「素敵すぎて、息が出来ませんわ、王子様………」
「それは光栄です……」

そう言って彼は抱えあげた私にキスを落とした。



by アキ