たった一つのお願い

take2

「ねえ!藍くん!愛してる!」
「はいはい、僕も好きだよ」

違う!と言えば彼は小さくため息を吐いた。

うざい?うざいでしょ。
それでもいい。

藍くんのシャツの裾を引っ張って、何度も名前を呼んで、でも藍くんはこっちを見てくれない。

めげない。めげないぞ。
藍くんのそっけない態度なんて慣れっこだもん。

「藍くん!藍くんってば!」
「うんうん」
「うんうんじゃなくて!」
「はいはい」
「はいはいでもなくて!」
「もう、うるさいよ、名前」
「藍くん〜っ」

ちょっと心配になっただけなのだ。
私ばっかりいつも藍くんを好きで。付き合ってるはずなのに一方通行で。何か、すれ違ってる感じが怖かった。

藍くんは私に「愛してる」って言ってくれない。
私が何度「愛してる」って言っても、藍くんは「好き」って言う。「愛してる」じゃない。大きさが違う。
いつもいつも、私だけだ。

「愛してる」って言ってくれたらそれでいいのに。そしたらこんな風にベタベタしない。……多分、やめる。

「藍くん!愛してるって言ってよ!」
「なんで?」
「愛してるがいいの!」
「うん、好きだよ」
「"好き"じゃなくて"愛してる"!」
「"愛してる"と"好き"ってなにが違うの?」
「え、っと、それ、は……」

"愛してる"と"好き"の違いってなんだろう。
やっぱり大きさ?
大きさだよね。
あとはもう感覚の問題。感覚とかそういうのが藍くんに伝わらないのは把握済みだから、大きさしかない。

「あれだよ。イルカとクジラみたいな」
「つまり、違うのは大きさだけってこと?」
「そう!」

流石藍くん。理解が早い。
私が頷くと何を思ったのか、藍くんは真っ直ぐこちらを見つめてきた。今日初だ。こうやってちゃんと向かい合うの。

「じゃあ、大きな声で「好き」って言えば"愛してる"と同義になるの?」
「それは、嬉しいけど違うよ………」
「じゃあ"好き"と"愛してる"は違うの?」
「いや、だから、一緒で……」
「難しいね……」

絶対に藍くんが難しくしてるだけだと思う。
融通効かないんだよなぁ、藍くんって。

どう聞けばいいんだろう。

「じゃあ、藍くん」
「なに?」
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「それなら……私のこと……」


愛してない?


そう聞くと彼は目を丸くしてから、小さく「ああ」と漏らした。その「ああ」はどういう意味かは分からなかったけど、肯定の意じゃないのはなんとなく感じる。

「ごめん、そうだね、うん」
「藍、くん……?」

心配になり顔を覗き込むと、彼は照れたように笑顔を浮かべた。

「愛してる…………、愛してるよ」

「藍くん……っ」
「ごめん、さっきみたいに聞かれてはじめて分かった。僕はキミを愛してる」

ずっと言われたかった言葉に頭が真っ白になる。呆然としていると藍くんがくすりと笑みを溢した。私は恥ずかしくて、うつむくしか出来なかった。



by アキ