たった一つのお願い

誓って

ぼちゃんぼちゃんと、目の前のコーヒーカップに砂糖が積まれていく様子を眺める。それをしている彼は満足そうだ。

「…ねえ」

「なんだ」

「今何個目かわかってる?」

「いちいち数えとらんな」

もはやコーヒーが見えない。砂糖とコーヒーの割合が7:3どころか8:2くらいになってる。

長いこと付き合ってきた彼の甘党には慣れてきたつもりだった。でも最近のカミュは甘いものの取りすぎだと思う。この前ロケでケーキバイキングに行ったと聞いた。そのあとスタッフさんの差し入れのケーキを食べたり、バラエティで特大スイーツを一人で平らげたりエトセトラエトセトラ。

とにかく、甘いものの食べ過ぎだ。

「よし、このくらいでいいだろう」

「そのコーヒーって黒かったよね…」

「何を言っている。ブラックコーヒーなのだから当たり前だろう」

当然のようにいい放ったカミュはもはや何が入っているかもわからないカップをかき混ぜる。ジャリジャリと砂をかき混ぜているような音がした。絶対溶けないでしょ…。

「…やらんぞ」

「いらないよ!!」

「仕方あるまい。マカロンくらいは食べさせてやろう」

ん、と差し出されたマカロンを一口かじった瞬間、吐き出すかと思った。

「甘!!あっま!!なにこれあっま!!最悪!」

「貴様にこの高貴な味はまだ早かったようだな」

「うえっ、うええっ!ば、バカじゃないの!?」

甘ったるい口の中を、何とか砂糖もミルクも入れてないブラックコーヒーで流す。いつもは砂糖もミルクも人並みに入れるのだが、それらをいれなくても丁度いいくらい甘かった。

「なにこれ…マカロンだよね…?不良品?」

「馬鹿なことを言うな。これは俺が直々に作らせたマカロンだ。前から甘味が足りんと思っていたのでな。」

「まさか…」

「そこの店主に頼んで砂糖の量を倍にしてもらったのだ」

「は、はあ?!」

わざわざそんなことをさせたのか。甘党にも度があると思う。偉そうに砂糖を飲んでいるこいつは、当たり前だというようにふんぞり返っていた。

「ほんと…いろんな意味で尊敬するわ…」

「ふっ、当然のことをしたまでだ」

「褒めてないよ…」

もらったマカロンを一口かじってコーヒーを飲む。カミュはコーヒーを飲んだあとそのマカロンをかじった。見てるだけで口の中が甘い。

「カミュ」

「…なんだ」

「せめて砂糖減らさない?」

「正気か?」

「いやあんたが正気か」

怪訝な顔で問われて思わず突っ込む。素でこれを言ってるんだからどうしようもない。

でも本当に心配なのだ。病気して早死にされて、一人残されたらたまったもんじゃない。

「ねえ、私本気で言ってるんだけど」

「これでも足りないくらいなのだ。これ以上減らしてどうする」

「ねえ!一つでいいから!一つ減らすだけ!」

バンッと机を叩いて言うと、私を見たカミュは考え込む。じっと目を見つめていると、渋々口を開いた。

「仕方あるまい、一つだけだぞ」

「誓える?」

「…………」

「誓って!」

「…わかった」

私に根負けしたカミュは、頷いてコーヒー入りの砂糖を飲む。よし、と内心ガッツポーズをしながら私もマカロンをかじった。



by 蒼