たった一つのお願い

デートして

夏というのは暑くてじめじめしてつらい。動くと汗も出るし、外は太陽がじりじりと皮膚を焼く。

そんな中、アイドルである音也を外へ連れ出すなんて酷なこと、私には出来ない。いくら付き合ってるとはいえ、一般業の私なんか比でもないくらい音也はアイドルとして働いてるのだ。オフくらいゆっくりさせたい。
という風に思ってはいるが、実際はデートしたいなと考えずにはいられない。

「デート、か」

まあ、無理かな。とため息を吐き、アイスティーを作り直す。それを持っていくと、音也はクーラーの下でアイスを食べながら座っていた。パタパタと風を送り込んでいる服の隙間から見えた引き締まった体に、思わず目をそらす。

「あ、食べ終わっちゃった」

「早いね」

「そう?でもまだ暑いや。アイスー!」

「2本目?」

「だって暑いんだもん」

「お腹壊しちゃうよ。あとあんまりクーラーにあたってると風邪引く」

そう言っても音也は大丈夫大丈夫、と冷凍庫を開ける。その隙にクーラーの温度を少し上げると、冷凍庫に顔を突っ込んだ音也が叫び声をあげた。

「なに?どうしたの」

「アイス、ない」

「さっき音也が食べたので最後だったんじゃない?」

「そういえばそうだったかも」

アイスの棒を口にくわえながら唸っている音也を見てため息を吐く。仕方ないなあ。なんだかんだいって、私はこの彼氏に弱いのだ。

「買ってくるから少し待ってられる?」

「え?いいよ、俺が行くから」

「音也、昨日の長期ロケで疲れてるでしょ?休んでて」

でも、と渋る音也を横目に財布とスマホを持った。近くのコンビニに行くくらいだから日焼け止めはいらないかな、と思ったが、窓から見た外はとんでもなく暑そうで、少し出ただけでも焼けそうな気がする。

「ねえ、やっぱり俺が行くよ」

「大丈夫だって。私は音也に休んでほしいの」

「俺だって名前に休んでほしいもん」

「私は大丈夫だよ」

日焼け止めを軽く塗って、準備完了。靴を履いていたところで、音也がまた声をあげた。

「どうしたの?何がなくなった?」

「違うよ!俺も行く!」

「だから、」

「そうじゃなくて!」

へへっと笑った音也は、待っててと私を置いて奥の部屋に入っていく。玄関口で待っていると、再び現れた音也が嬉しそうに笑っていた。

「じゃーん!新しく出来たカフェのクーポン券ー!」

「ああ、あそこの」

「昨日スタッフさんにもらったんだー!これ使うとね、アイス一つ無料でプレゼントなんだよ!」

「へえ、いいね」

「でしょ?せっかく久しぶりのデートなんだし、どこか行こうよ!俺準備してくるから待ってて!」

再び奥の部屋に入っていった音也をぽつんと見つめる。近くのコンビニに行くつもりだった私は当然ラフな格好。メイクはしてないも同然。

デートしたいと思った私の気持ちが届いたのだろうか。それとも分かりやすい顔してたかな。どちらにせよ音也とデートできることが嬉しくて嬉しくて、弾む胸を抑えながら部屋に戻り着替え直すことにした。



by 蒼