たった一つのお願い

添い寝して

信じられない。

ただでさえアイドルが彼氏ってのが信じられないのに。
まさか、アグナパレスって国の王子様だなんて。


確かにちょっと育ちの良さとか、気品を感じなくはなかったけど、せめて聖川くんや神宮寺くんみたいなお金持ちだと思っていた。

それが……本物の王子様だなんて……。

「怒ってますか……?」

王子様でありアイドルであり私の彼氏のセシルくんは心配そうにこちらを見上げてきた。
ここは私の部屋。今日は久しぶりのお泊まりだったりする。

それがいきなりのカミングアウトから始まるなんて。

「ワタシの国に一度来ませんか?」
「皆に紹介したいのです」
「未来の姫のことを」
彼はそう言った。最初は冗談かと思ったが、どうもそうではないらしい。

「怒ってないよ。………ちょっと、驚いただけ……」

まさか、自分が一国の王子様と何も知らないまま付き合ってたなんて。信じられない。
信じないわけではないけれど。流石に魔法を目の前で見せられたことがあるんだ、王子様だってあり得るに決まってる。それはいいんだ。

ただ……。

「私なんかがお姫様になれるのかな?」

そこが問題。
もちろんセシルくんと別れる気なんてない。
でも私は一般人だ。身分が違いすぎるんじゃないだろうか。

「名前、あなたが心配になるのもわかります。それでも、ワタシのことを信じてください」
「セシルくん……」
「ワタシは信じれませんか?」

セシルくんの優しい問いかけに私は首を振る。すると彼は「よかった」と微笑んだ。
彼は素直だから。私を騙せるほど器用じゃないから。それから、私は彼を愛しているから。だから、信じる。

「セシルくん…あのね」

だけど不安は残った。
私は彼の手のひらを掴む。するとやんわりと握り返してくれた。こういう細かい気配りもさ、大好きなんだよ。
セシルくんは何よりも私のことを大切にしてくれる。だから私も安心して好きだって言える。

「今夜は添い寝して?」
「添い寝…?」
「うん、一緒に寝たいの」

いつもの私なら恥ずかしくて言えないけど、今ならすんなり言えた。セシルくんは一度呆然としてからその双眸を輝かせる。

「いいのですか!?」
「うん」
「ホントウですか!?」
「疑り深いなぁ」
「いつもいつも、恥ずかしいからと言って、一緒に寝てくれませんでした!なのに、いいのですか!?」
「今日だけ、特別」

あんまりセシルくんが喜ぶから段々恥ずかしくなってきた。だけどそんな余裕のなさがバレないように精一杯大人ぶる。
彼はパアアっと、「よし」をしてもらった犬のように嬉しそうに飛び付いてくる。犬というか、猫なんだけどね。と、可愛らしい猫の姿をした彼を思い出した。

「今夜はずっとずっーと一緒です!」
「うん、ずっと一緒だよ」
「ずっとずっーとぎゅっとしていてもいいのですか?」
「んー、今日だけね?」
「っ…!! 名前!」
「ちょ、セシルくん!今日だけだから〜っ!!」

強い力で抱き締めてくるセシルくんに、先ほどまで感じていた不安がどこかに消えてしまった。
だってこんなに王子様が愛してくださっているんだもの。お姫様ぐらい、頑張らなきゃ、だよね?



by アキ