「おーい、姫〜?生きてる?」
オレの問いに地面に伏した姫が身体を起こす。
まぁた無茶してんなぁ、姫は。
「……生きてる………」
身体はボロボロのくせに表情に歪みはない。痛みを感じないってのは嘘じゃないみたい。
「あっそ。じゃあ早くしてよ、飯の時間だってさ」
「うん……」
なぜかヴァリアーはみんなで食卓を囲む。よく分かんないけど、まぁ、いっぱいおかず奪えるから万々歳。
オレは王子だから許されるしね。
姫はボスの妹。顔は似てないから多分養子なんだろうけど。
なぜかヴァリアー預かりになってる。戦闘には参加しないし、頭もキレないのにヴァリアーにいるから時々ムカつくけど、邪魔じゃないから追い出そうとは思わない。マーモンなんて使いっぱしりにしてるみたい。一応姫なんだから敬意ぐらい示せばいいのにな、しししっ。
「ごめんなさい」
早く屋敷に戻ろうと歩き出すと、背中から謝罪が聞こえた。振り向くと姫が地面に座り込んだままこちらを見上げてくる。
「足、折れてるみたい。動かない」
「で?」
姫はオレの言葉に目を伏せた。
いつもこう。姫ってば一言足りねーの。
素直に「助けて」って言えばいいのにさ。別にオレ、完璧に無慈悲ってわけじゃねーし?
うっさいサメなら今ごろぶちギレてるよ。
つーか姫は痛みを感じないから遠慮してるんだろう。完全に動けないわけでもないし、痛くて立てないわけでもないから。
姫頑固。
オレそーゆーとこだーいきらい。
「早くしないと飯なくなるんだけど?」
「ごめん…なさい」
そんなに必死に立とうとすんなよムカつくな。
まるでオレがやったみたいじゃん。
自分で飛び降りたくせに。
姫は時々部屋の窓から飛び降りる。受け身なんてとらず、完璧に死ぬつもりで飛び降りる。
多分痛みがほしーんだろうけど無意味。
姫、女のくせに生傷たえねーの。見てるだけでも気味が悪い。
「早く」
オレは仕方なく姫に手を差し出した。姫は一度目をぱちくりとさせ、掴まってくれた。
「ありがとう……ベルは優しい」
「うししし♪ま、オレ王子だし。紳士なのは当然じゃん?」
姫の手を引き、立たせると、彼女は左を庇いながら歩き出した。今日折ったのはそっちか。
姫の足や腕は折れすぎてかなり堅くなっている。ジレンマってやつだな。今じゃ簡単に折れねーみたいだし。今回はレアケース。
「ねぇ、ベル」
「なーにー?」
「今度の仕事、連れていって?」
「姫なんもしねーじゃん。邪魔」
「じゃあ、切ってくれていいから」
姫はオレを痛め付けてくれる道具だと思ってんだ。
一人だけで、正常に戻ろうとしてやがる。
そういうとこが気に食わなくて、大嫌いっつってんのに。
「うししし、仕方ねぇから連れてってやるよ」
「ありがとう」
「まぁ、オレ王子だし」
一番ムカつくのはこんなドMのことが好きになってるオレなんだけどな。