灯台下暮らし
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「おい、ハリー。暇んなったら直ぐに俺んとこ来いっつってただろが。何さぼってんだ…ってなんだ?その荷物」

あれから公園に行き、さて、どうしようと思っていた所に、ハンスさんが現れた。何時も突然だよなぁ、なんて思いながらぼんやりハンスさんを見上げた。

「…家出して来ました」

これからを、どうにもやる気がおきなくて、ぼそりと呟いた様に言ったが、ハンスさんには聞こえたようで、頭にその大きな手を乗せて来た。

「仕方ねえ奴だな…」

帰るとこ無い癖に…と淋しそうに聞こえたハンスさんの声に、僕は俯いて動けなくなった。ハンスさんも、両親はいないと前に言っていた。きっと、昔を思い出してしまったに違いない。昔の自分は、弱くて、泣き虫で、嫌いだったと教えてくれた。

「すみません。僕、逃げる事しか出来なかった」

リオを護りたい気持ちより、事実を受け止められない自分の気持ちが優先してしまった。だから、あの家から逃げた。

「ハリー、てめぇは、何で妹に話さなかった?」

「それはっ、っどうして…」

まだ何も話していないのに…読まれた記憶に、驚いていたら、ハンスさんはニヤリと笑った。

「魔法に決まってんだろ。それより、質問の返事」

「…」

僕はギュッと手を握りしめて、答える為に覚悟を溜める。

「リオは、普通だったから気付いて欲しくなかったんだ。リオにも、魔力があって、僕みたいな不思議な事を起こしたならそれは間違いなくおじさん達から憎まれる。それに、リオはパパとママが大好きだから」

「…それで?」

今にも泣きそうになりながらもなんとか言い切った僕に対し、話を聞いていたハンスさんの返答はそれは怒っているような声音で、思わず顔をあげた。

「大事な奴を理由も言わずに置き去りにしてきたのか?それって、お前の両親がした事と一緒なんじゃないのか?」

びくり

ハンスさんの言葉に、僕は漸く自分がしてしまった間違いに気付いた。

「ハ…ハンスさん…僕…」

握った拳が今度は別の意味で震える。ダメだ、僕はなんて事を…ダドリーに言われてショックを受けたそのままを、リオにやってしまったんだ。

はあっ

絶望的な顔で見上げて後悔に苛まれていると、突然溜息を吐いたハンスさん。その表情には先程までの、怒りの感情はなかった。

「…家に帰りたくない気持ちは分かった。お前等二人位面倒見てやるから、妹連れて来い」

呆れたような感じで頷いた後、連れて来いと苦笑したハンスさんを、僕は格好良いと思った。

「ハンスさん…ありがとう、ございます」

泣きそうに成りながら言えば、ハンスさんはやはり苦笑して僕の髪をくしゃくしゃと撫でてきた。

「その変わり、働いて貰うからな」
「はいっ」

勢いよく返事をすると、僕は一度プリペッド通りへ戻った。

* * *

プリペッド通り23番地。ダーズリー家に着くと、取り敢えずリオの気配を探った。おじさん達にああ言った手前顔を会わせたくなかったから、ハンスさんとの訓練で気配を探る事が出来るようになって良かったと思った。所が、リオの気配が全く感じられず、僕は固まってしまう。

(どうして、この時間なら帰っている筈なのに…)

まさかと思うが、僕が家を出てしまったから捜しているのだろうか、と思考を巡らせ、リオなら有り得ると考えた。そうして近所を散策するもその姿は一向に見つからない。ふとそこで、リオも家出をした可能性が出てきた。リオは利口で、妙に大人びて何でも卒なく熟してしまえるからこそ、こんな時に帰っていないなんて事はない。だとしたら、僕が帰らないあの家に留まる理由が無いように思えた。リオはきっとおじさん達といなくても生きていく術を知っている。それをしなかった理由は一つ。僕に辛い思いをさせない為。前に一度この家にいたくないと言ったら、自分は良いが、苦労するし、世間体に良くないから駄目だと言われた。その時は訳が分からなかったが今ならそれが大人の常識だと何となく分かる。何であんなに小さいリオがそれを簡単に口に出来たのかは不思議だけど、リオはきっと僕の為に実行しなかっただけで、リオはそれでも良かったはずで…

『私はハリーがいればイジメだって耐えられる。だけど、ハリーがイジメにあっているのは耐えられない。だから、イジメられたら隠さず話して』

ダドリーに初めてボロボロになるまでイジメられたあの日に、そう言っていたリオが頭を過ぎる。リオがどれだけ、僕を大切にしていたかを思い出す。言葉や態度の端々に、それは顕れていたと言うのに、僕は、リオを置いて行ってしまったんだ。

(僕がリオを護るって決めたのに!)

双子でも、僕は男で、兄だった。リオは女の子で、僕のたった一人の妹だ。
捜さなくてはいけない。
護って行かなくてはいけない。
そう決意し直した所で漸くダーズリー家のインターフォンを鳴らした。


ヴゥー

聞き慣れたインター音を聞きつつ待つこと数秒。ペチュニアおばさんが出て来た。

「あら、ダッドちゃんのお友達?」

「…え?」

「違ったかしら?どうしたの?僕」

気まずい気持ちを持って顔を合わせたと言うのに、いきなりの初対面のような対応に虚を突かれた。

「あの、ハリーですけど」
「ハリー?初めて聞く名前ね。ちょっと待ってて、今呼んで」
「あっ、いえ、ダドリーじゃないんです。リオ、いますか?」

念のため名乗ってみたが、全く嘘をついているでもなさそうな態度で、おまけにダドリーを普通に呼ぼうとするものだから慌てた。咄嗟に目的であるリオを出せたのは良かった。

「リオ?いいえ、家にはそういった子は遊びに来てないわよ」

考えたそぶりを見せた後のおばさんは、特別記憶に該当がなかったのか、直ぐにノーの答えが返ってきた。
おかしい。本当にわからないといった態度に、僕は首を傾げる。記憶を消されてしまったような錯覚。まるで、魔法…
そこで僕ははっとした。

「分かりました。ありがとうございます」

僕はお礼をおばさんに言えば、おばさんはいいのよ。と言ってドアを閉めた。

「リオも魔法が…?」

そこで一人、心当たりを思い出す。リオが勉強を習っていると言っていた大人の人。実は魔法使いではないのかと。

「見つかるわけないよ。リオはきっと魔法界だ」

隠されていた事実に、僕は軽く淋しい気持ちがあったけど、安全な人の所に行った様なので安心した。問題は、リオが僕もそうだと恐らく知らない事だ。

僕は直ぐにハンスさんの所へ戻った。



「ハンスさん」
「おう、って妹はどうした?」

まさか喧嘩でもしたか?と心配そうに聞いてきたハンスさんに、迷惑を承知で僕は言った。

「リオも、家出していました。それで、ハンスさんにお願いが…」
「家出って!お前っ!」

驚いて立ち上がったハンスさんに僕は、慌てて言葉を続けた。

「リオも、魔法界の人に勉強を教わってる可能性があるんです!それが誰か捜して欲しいんです」

「何だ、そうなのか。なら安心だな」

あっさり引き下がったハンスさん。全く焦った様子の無くなったその態度に僕が焦る。

「どうしてそんなに落ち着いてるんですか」
「マグルの中にいる子供に魔法を教えようなんて奴はそうそういない。何でかわかるか?」

急に質問を質問で返され、えっ、となった。その質問に一体何か意味があるんだろう。普通わざわざそんな事はしない理由って言えば…

「11歳になれば学校に通うから?」

「そっ。俺達魔法族においての法律では魔力コントロールは11で始める。それはスクールが変わるのと同時に成長期になって魔力が増すからだな。コントロール出来なきゃ魔力が暴走して大変な事になる」

以前にも聞いた説明に僕は改めて聞かされるには何かあるのかと頷く。

「僕に教えてくれた理由は魔力が年齢に似合わず強いからでしたよね」

「ああ。それに気付けるのも結構技術が必要でな。だから、恐らくハリーの妹も、そう言った魔法族の人間に認められたって事は、俺の知り合いの可能性が高いんだよ」

にっと、何か悪戯をする時の顔で笑うハンスさんに、僕は良かったと思う反面、嫌な予感がする。

「つまり、特公の人ですか」
「おう。つまりは俺の部下だ」

暫く放っておいて平気だ。と言い出したハンスさんを、僕は恨めしげに見上げる。

「放っておけません。僕は他の特公の人を知らないです。本当にそのハンスさんの部下の人がリオを預かって下さってるのか調べて貰えませんか」

そこでハンスさんはちらりと僕を見ると、にっとまた笑う。

「なら、ハリー、お前俺の部下になれ。今よりもうちょい訓練レベルを上げて、任務も多く出てもらう。んで、使えると俺に思わせろ。そうすりゃ部下に会わせてやる」

将来部下になれとは言われていたけど、それを今確定する様に言って来るハンスさんは、きっとただ人手が欲しいだけだと思った。

「ハンスさん、また仕事溜めたんですね」
「おう。家の部下共は皆書類が苦手何だよ。だから、俺がほぼ不備を直してやんなきゃいけないし、大変めんどい。そこで、ハリー、お前が正式に特公に入りゃ書類整理任せていいからな」

完璧都合上の問題に、僕は、振り回されるのか…
見つからない程度に溜息を吐くと、僕はそれしかないかと頷いた。

「分かりました。これからお世話になるんです。それくらいやらせて頂きます。宜しくお願いします」


灯台下暮らし


ここ数年報告書がまともになったと思えば、そういうからくりだったとはな。ま、ハリーにはまだ内緒にしておくか。

さあて、有望部下一人ゲットだ。こりゃ11になる前に一人前かな。


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