家出します
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「リオ、貴方達二人共ダドリーのお下がり着てるんだってぇ?」

ある日、もう何度も聞かされた貧乏ネタに絡んできた女子に、私はまたかと思いつつ、振り返る。無視をすれば、厄介な事になるのが女子だ。相手にするだけ無駄なんだけどな…

「私、もう着なくなった服あるから、あげましょうか?」

「そうね、そんなみすぼらしい恰好、女の子としてありえないし?」

うーん。端からみれば、良い言葉何だよね…とりあえず、首を傾げておく。

「その変わり、私のしもべとして働きなさい。私があんたのご主人になってあげる」
「あら、クリスってば優しい。なら、私も服くらいあげてやっても良いわよぉ。」
「申し訳ありませんが、丁重にお断りします」

にっこり、笑って、斜め45度の角度でお辞儀をした。最近女子の間で流行っているお嬢様ブーム。メイドと称して、貧乏な家の子をぱしってるのも、もはや、ちょっとした道楽になっていた。だから、私は真っ先にそれの標的にされていた。だからこその敬語だ。これでも前世は社長秘書、兼子守だ。子供の扱いも、社交場での礼節は慣れている。気品、出すなら私の方が上だ。

「貧乏人が、お嬢様ぶっても似合わないわよ」

すると、案の定、癪に触ったのか、いらつき始めたクラスメイトに私はにっこり笑って言葉を返した。

「お嬢様だなんて、そんな、滅相もない。品のない言葉使いで、お断りしては、失礼かと思っただけですが、気に触りましたか?お嬢様方」

「うっ…もういいわっ、さっさと行きなさい」

うん。対した事ないな。女子は暴力的な目立ったイジメは無い分精神にくる。だから、口は達者でなければならない。まぁ、前世で何度か物を隠されるのは当たり前だったし、お下がり着るのもすっかり慣れているから別に動じない。もっとも、大人になっていたのもあるけど、それより問題はハリーだ。男子は手や足が出る。身体にあちこち痣が耐えない。最近逃げる術を身につけたみたいで、減ったみたいだけど、ダドリーは嫌がらせが好きだからなぁ。双子はクラスが一緒にならないのはイギリスも一緒みたいで、まるで様子が分からないのが嫌だった。

「あっ、ハリー!」
「リオ!」

調度、昼休みでハリーの方に向かっていた所で目的の人物に出会えた。

「ちょっと、こっち!」

ぐいっと、腕を引かれて、通路の物置に隠れた私達。

「どこ行った、ハリー!」
「出てこいハリー」

バタバタと音を起てて去っていく男子をやり過ごした。どうやらハリーは追いかけられていたらしい。

「リオ、良かった擦れ違わないで。お昼?」
「う、うん。それより、平気?どこも怪我してない?」

ぺたぺた触ってハリーに怪我が無いか確認する。ハリーは我慢強いから、痛くても、言わない。一度それで高熱が出た事があって大変だったのだ。確認せずにはいられない。

「平気。最近は上手く逃げ切れてるから、大丈夫だよ。知恵を使えば全然恐くない」

にこりと笑って私の頭を撫でるハリーは、本当に、最近かっこよくなった。

「うん。良かった。ハリー、お昼行こっ」

今度は私がハリーを引っ張って食堂に向かった。


* * *


「おい、ハリー」

それは本当に何でもない日だった。ダーズリー家で今日も洗濯の手伝いをしていた時だった。リオは、おばさんと買い出しに出掛けていた。

「お前、最近どうやって逃げてるんだ。こそこそ隠れやがって、気に入らない」

最近、お菓子の食べ過ぎで、昔に比べて大分肥えてきたダドリーに、最早、追いかけっこでは負けないな、とその体形を見ながら聞いていたら、ダドリーはいきなり胸倉を掴んできた。

「お前、生意気!お前等弱いんだ!僕に従えよ!リオも女の癖に、僕に盾突きやがって!男子にも追わせてやるっ!」

そのダドリーのあんまりな言葉に、僕は目を見開いた。同時にどうしようもない怒りも覚えた。

「ヤメロ、リオはダドリーのおもちゃじゃない」

真っ直ぐにダドリーを見つめて、その手を掴んだ。ぎりっ、とダドリーの手首が音を発てる。

「いっ、いたい!いたい!ママー!ママー!」

途端に、大声で泣き出したダドリーに、はっとして手を離した。まずい、力が入り過ぎた。最近のハンスとの修行で力のコントロールを身につけたせいか、身体に魔力が馴染んでいた。つい、手だけの力ではないものが出てしまうのが、今の自分の悪い癖だった。

「おい、ダドリー大丈夫か!?悪かった」

「やめろっ!さわるな!捨て子が!」
「!」

ダドリーから発せられた言葉に、僕は固まった。

「捨て、子…?何言って。両親は、事故で…」
「パパとママが言ってたの僕は聞いたんだ!お前等は、家の前に置かれてたんだってな!」

一気に冷える、頭。信じ難い言葉。だけど妙に納得した。だから、この家の人達は、自分達に厳しいのかと。

「何を騒いでおるか!」

ダドリーの喚きにバーノンおじさんがやって来て、床に頃がって手首を押さえるダドリーと、立ちつくして、ダドリーを見下ろした僕を捉えた。

「この、ガキ!ダドリーに何をしたっ!?」

いつもの様に、凄い剣幕で怒鳴るおじさんに、僕は謝る事しかできなかった。

「すみません。僕がやりました」

ダドリーの手首には、見事に痣となって指の後が残っていた。

「〜〜っ!出て行け!」

びしっと、指で示された外。ああ、この家に、いちゃイケなかったんだ。

「リオは、置いてやって下さい」

家にいてはイケないけど、でも、リオには辛い想いをさせたくないから、今は黙って行こう。

「ふん、ダドリーに怪我をさせなきゃな」

「お願い、します」

そのまま僕は、リオが帰って来る前に簡単に荷物を持って――もとより荷物はほぼない様なものだった――ダーズリー家を後にした。

* * *

「出て、行った…?」

家に帰ってから洗濯をしていた筈のハリーの姿が見えなくて探していたら、おじさんから言われたのは、ハリーが家から出て行ったと言う台詞だった。私に何も言わずに行くはず無いと思う。だけど、妙な胸騒ぎが過あった。

「ダドリーに怪我させた。わしは部屋を出ていくよう言っただけだったが、あいつ、外に行きよった。ふん、どうせディナーには帰ってくるだろう」

「さ、探してきます」

おじさんの声を聞く前に私は家を飛び出した。


「ハリー!」

「ハリーどこなの!」

思い当たる場所に関しては全て探して見た。外には居なかった。スクール、図書館、公園、スーパー。もしかしてと、フィッグさんの家にも行った。

「フィッグさん、ハリーはここに来ていませんか!?」

「リオ?どうしたんじゃ慌てて。ハリーなら来ておらんよ?」

夕飯の支度でもしていたのだろう、フィッグさんは、エプロン姿だった。

「ハリーが、家を出たっきり、帰って来ないんです」
「なんじゃと?」

急に険しくなった表情に、違ったと思って愕然とした。もう、充てが無かった。

「しかし、何故じゃ?リオとハリーは唯一の家族じゃ。何故一人で家を出た?」

そう言われて、詳しく聞いていなかったと気付いた。

「何も…」

呆然と力が抜けてしまった私は、フィッグさんの言葉に、次のヒントがあると気付かされた。

「原因を探せば、分かることもあるじゃろ?一度、家に行ってみなさい」

フィッグさんの落ち着いた雰囲気に、冷静さを取り戻した。

「ありがとうございます!私、聞いてきます」
「ああ。気をつけてな」

手を振り見送ってくれたフィッグさんを見て、私はペこりと頭を下げると急いで家に向かった。


「おじさん!ハリーに何を言ったんですか!?」

家に入って噛み付く様に、おじさんに問い掛けた。こんな態度、養ってくれてる人に対してとるのは初めてだった。だけど、誰より大切な唯一無二のハリーを傷付けたのなら、私は、態度を選ばなかった。

「何を、だと?わしは出て行けとしか言っとらん。ああ、そう言えば、出ていく際にお前の事をよろしくだの言っていたかもな」

それは、明らかに私を置いていくような台詞だ。一体、どうして…そういえば、もとは、ダドリーの怪我だ。それが分かれば何か分かるかもしれない。

「何で、ハリーはダドリーに怪我をさせたのか、知ってますか?」

ハリーが出て行く程の何か、それは一体何だろう。

「知らん。ダドリー手を挙げた理由なんて構わんだろう。お前達にはダドリーに怪我させるなと、言ってあった。約束を破りおって…」

ぶつぶつ文句を言うおじさんは、聞く気は無いみたいだ。なら、直接聞く。調度病院から手当をされて戻ってきたダドリーが、リビングにおばさんと帰って来たので、直ぐに私はダドリーを問い詰めた。

「ダドリー、ハリーに何を言ったの」

いつもより、声を低くして、身長のあるダドリーなので、下から睨みつける。ガンの付け方は、パルスさん仕込みで、結構怯ませることは出来る筈だ。

「っ…!!ぼ、僕はただお前達が拾われ子だって言っただけだっ!」

「「「!?」」」

予想外なダドリーの言葉に、私意外にも、おじさん、おばさんも驚いた顔をしていた。どうしてそんな言葉…原作になる前の時期は、何があったか知らない。これだから、危険なんだ。

「ダドリー、何でそう思ったんだ?」

始めに復活して言葉を発したのはバーノンおじさんだった。

「パパとママが、こいつらが玄関前に置かれていたって言ってたから」

成る程。確かに嘘ではない。

「それで、私達はいとこじゃないって思ってた訳ね」

私の言葉に頷くダドリーを私は、諦めたように見て視線を外した。ハリーの気持ちが分かった。捨てられた悲しさは、両親が亡くなった物よりショックが大きい。自分の存在を否定されたのだから。
きっと、ハリーが私に言わなかったのは、知らない方がいいと思ったからだ。馬鹿ハリー。私に相談すらしないで一人で出ていくなんて…

「おじさん、おばさん、お世話になりました。私は、ハリーを探します。真実を隠し続けるのは今日で終わりです」
「待ちなさい!お前達が甥と姪だって言うのは事実です!」

私が淡々と言った言葉に対して、おばさんは、焦った様に声を出してきた。

「知ってますよ。私も、お二人の話は聞いてますから。だから、私は捨てられたなんて事思ってません。ただ、ハリーがいないこの家に居ても、仕方ないんです。ああ、安心して下さい。私達の記憶は消させて貰うので、世間は何も言って来ませんので」

にっこり、私は笑ってお別れを告げる。ハリーを今まで傷付けたお返しに、ダドリーだけは記憶はそのままにしておこう。

「さようなら」

ピイィィィ

杖はまだ持っていないので安定した魔法は使えない。だけど、無しでも魔力コントロールすれば、魔法は使える。私は指を口に入れて口笛を吹き、音を変える事によってそれを克服していた。

「なっ…リオ、貴方、ま、さか…」

おばさんは何かを言っていた。だけど、もう、いい。ハリーを失った私はここに留まりたいなんて感慨は無いのだから。


家出します

「ダドリー、貴方だけは特別に記憶は消さないよ。だから、この忠告を忘れない事。人を傷付けたりしたら、必ず自分にも返ってくるからね」

施設でいじめをしていた子に良く言っていた言葉だ。このくらいなら、まだ聞くだろうから、言っておく。

こくこく頷くダドリーに、うん、素直が一番だと思いにっこり笑って頭を撫でた。

「いい子にね」

手の感触が、なんだか懐かしく、鼻の奥がつんとした。


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