魔法使いに弟子入りました僕達は双子だ。もの心着く前から一緒にいて、唯一の味方。スクールに通い始めて、害のない人がいる場所に来れたと、二人して喜んだのはつい最近の出来事で、それが直ぐに違ったと認識したのも、ついこの前だった。ダドリーが、スクールの学年でのボスになっていたからだ。毎日先生に隠れて追いかけられる毎日で、リオは女子から、僕はダドリーら男子に嫌がらせを受けていた。男子は特に暴力的で、殴る、蹴る、突き飛ばすは当たり前。服から隠れる所はあざでいっぱいだった。それでも、耐えていたのは、リオがいたからだった。初めて、ダドリーからクラスメイト達と一緒になって暴力のイジメを受けた時、僕は痛さのあまり反撃をした。僕は肋骨にひびが入る大怪我。一方、体格差のせいで、腕に噛み傷しか残せなかった僕。正当防衛だってリオはそんな事を言っていて、先生はダドリー達を叱った。だけど、家に帰ってからのおじさん達には、僕こそ悪者なのだと怒鳴りつけられた。
『ダドリーに今度怪我をさせようものなら飯は抜きだ。勿論、妹もだ』
そう言って、その日の夕飯と、次の日の朝はご飯がなくなった。僕のせいで、リオまで辛い想いをさせた。それ以降、ダドリーからは逃げるだけに徹していた。リオは勿論、そんなのは横暴だし、ハリーが怪我する位なら、私の事は構わないからやり返してとその日初めて泣かれたのが、今でも忘れられなかった。二人に与えられた階段下の物置で、怪我による発熱に苦しんだ間ずっと看病してくれたリオ。護ってやりたい、そう思った。
「おい、ハリー、今日も妹とお手々繋いで登校かよ?弱虫め」
「リオちゃんは、お兄ちゃんと一緒にいないと泣いちゃうのよ」
ぎゃははは
クスクス
品のない笑いが背後で聞こえる。きゅっと握った手に、握り返された手の感触。隣を見れば、リオが笑っていた。
「ハリー、私は、ハリーが弱虫じゃないって知ってる。だから、あの人達の言ってる事は全部ウソ。気にしなくていいよ」
本当は誰より僕を分かっているリオこそ、悔しく思っているくせに、リオは僕を宥めるために、笑ってくれている。これじゃ、どっちが上か、分からない。僕はそんなリオに笑って頷いた。
「リオも、泣くなんてしないのに、あの子はリオの強さを知らないから、ウソつきだ」
お互い支えて生きていく。これが僕達が許された学校生活だった。だけど、いつかこんな生活から絶対抜け出す。自由を手にするために、リオを幸せにするために、僕は、賢く、強くなると決めていた。
そんな事を考えていたある日、リオは度々学校から直ぐに帰る事をしなくなった。先に帰るというわりに、僕より、遅くに帰るし、何処かくたびれている様に感じた。
「リオ、もしかして、女子からイジメられてるの?」
思い切ってはっきり聞いてみると、リオはけろりとした顔で
「違うよ?勉強してるの」
と言った。えっ…勉強?あんまりな内容に、思わず首を傾げる。ボロボロになる程の勉強って何、と。
「何処でなんの勉強?ボロボロになるなんて危ない事してないよね?」
心配で言えば、リオはブンブンと手を横に振ってそれをした。
「大丈夫!ちゃんと大人の人に習ってるもの!心配ないよ?ハリーこそ勉強するって言って、図書館毎日行ってるでしょ?一緒だよ」
「それなら、良いけど…」
僕は、とりあえず、知識をつける為に勉強すると言っていた。将来何が役に立つか分からないからだ。
「ほら、ハリー、夕飯食べ損ねちゃうよ」
そう言って物置を出て行ってしまった。
* * *
翌日、スクールは休みで、朝からリオは出掛ける準備をしていた。
「リオ、出るの?」
「うん。行ってくるね!お昼もそこで食べる予定だけど、ハリーは?もしここで食べるなら、一度私帰ってくるよ!」
一日通して勉強か。リオは偉いな。そんな事を考えつつ、僕はリオに返事をするべく首を振った。
「大丈夫。今日は図書館に行って一日過ごすから。最近図書館でお兄さんと仲良くなったし、今度お昼奢ってくれるって言ってたから大丈夫」
何故か最近、仲良くなったお兄さん。ちょっと粗暴な感じではあるけど、何故か構って来る不思議な人だった。本当は知らない人からお昼なんて申し訳なくて貰えないけど、リオに心配かけたくないからウソをついた。ごめん、リオ。
「そっか、それじゃ、行こう、ハリー」
手を繋いで家を出る。それはもう日課だった。
「「行ってきます」」
返事はないけど、勝手にいなくなるのは怒られる。普段手伝いはして来ているし、身の回りの物は自分達でやっているから、何処に行くとかは言わなくても、出掛けたと分かればお咎めはされた事はなかった。
* * *
「よ、坊主また一人で勉強か?精が出るね」
昼頃、例によってお兄さんは僕に近寄ってきた。相変わらず変な恰好で、細身なのに、鍛えられた身体つきのせいか、カッコイイのだ。正直、憧れる。
「お兄さんは、なんで僕に構うの?」
ふいに思った疑問に、つい口を滑らせてしまった。純粋な興味だったから仕方ないのかもしれないけど。
「ああ?あー何だかな、お前が…昔の俺に似てるから、か?」
「えっ、本当?」
こんな人に、似ていると、憧れた人に似ていると言われたら、ちょっと嬉しくなってしまう。
「まぁ、俺も、昔は弱っちかったしな…」
ぼりぼり頭をかくその仕種は照れている様だった。でも、僕はそんな事を気にしてる余裕は無かった。
「どうやったら、お兄さんみたいに強くなれますか!?」
「は?」
大きく身を乗り出して、お兄さんに問うと、驚いた顔をされた。
「俺、強そう?」
「はいっ」
即答だった。何か、直感的にそう分かったんだ。どんな大人の人を見ても感じなかった違和感のような物。お兄さんは持っていた。態度では分からないが、力強い何かを気配に感じた。
「やっぱり、似てんな。お前、名前は?」
ふっ、と笑ったお兄さんに、何となく親近感を覚えて、とくりと、自分が興奮しているのが分かった。
「ハリーです」
「うっしゃ、ハリー!お前、強くなりたいんだよな!」
「はいっ」
急にテンションのスイッチが入ったように、お兄さんも、身を乗り出す様に、腰を椅子から浮かせた。
「鍛えてやる。その変わり、お前俺の仕事手伝えよ」
「はいっ」
「よしっ、気に入った!俺はハンスだ。よろしくな、ハリー」
そう言って、握手を交わした。
「んじゃ、早速俺の隠れ家行くぜ!」
「はい」
手を繋がれて、図書館の出口に向かうかと思いきや、人気の無い通路に行くハンスさん。えっと思った瞬間、変わる視界に引っ張られる感覚。気付いたら、何処か書斎の様な場所に出た。
「さぁて、んじゃ、先ずは俺は溜まっちまった書類片さなきゃイケねぇから、ハリー、お前、ここにある本やら書類、整頓宜しく!」
「えっ、いや…はい」
ちゃっちゃと、書類に取り掛かってしまったハンスさんに、声を掛ける暇が無くなってしまい僕は、もう諦めて何だかわからないながら片付けをする事になった。
一時間後、漸く書類が終わったハンスさんに
「おお!片付いてる!お前、要領良い!流石、俺の見込んだ少年!」
「ハンスさん!ハンスさんは一体何者何ですか?」
流石に痺れを切らして、僕は尋ねた。今流せば、きっと確認する事が出来ない気がしたからだ。
「あれ?俺言ってなかったか…失敗、失敗。俺は魔法省、特殊公安課捜査官のハンス・ベイルだ」
いや、んなこた聞いてません。
「魔、魔法って、ハンスさん要するに魔法使い、ですか」
「んれ?気付いてたんじゃないの?」
「初耳です!」
あまりな適当さに、僕は年上だとかすっかり忘れて叫んでしまった。
「あちゃ〜俺とした事が、つい魔力あっから、魔法族の子供だと思っちまってたな…まぁ、気にすんな、ハリーもいずれこうなる」
「なれませんよ」
「ばぁか、俺が鍛えりゃ直ぐだって!んで、お前は将来俺の部下決定だから、宜しくな」
にやりと笑ったハンスさんに、僕は、選択、間違ったかもと後悔しても、もう遅いのだった。
魔法使いに弟子入りました「いやぁ、良い拾いものした!サボりついでにマグルの街は行くもんだな」
「サボりだったんですか!?」
「おう。こんな書類ばっかやってらんねぇだろが」
「…」
(リオ、僕、違う意味で強くなりそうだよ)
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