試験会場「君達で406人目だよ」
着いて最初に声を掛けてきたのは、中年の小柄なおじさんだった。
トンパと名乗ったおじさんは、ハンター試験のベテランだそうだ。全くもって、弱そうなおじさんだ。だけど親切にもハンター試験常連者の名前と戦闘スタイルまで教えてくれた。だけど、自分の事は話さない辺り、キレ者なんだろうな。
「ぎゃあぁ〜っ」
「!!」
急に訪れた叫び声に、ビックリして、ついそちらに目をやってしまう。
「アーラ不思議
腕が消えちゃった
」
そこにはまるでピエロの様な格好をした男がいた。声からしてまだ青年と言った所だろう。他の受験生と何やらトラブルでも起こしたのか、相手の腕が肘から先が消えてしまっていた。トランプできっと切り落としたと見れるそれは、常人では出来ない。
恐らく念の使い手だ。
「やばいかも…」
ゾッとする程鮮やかな傷。相当強いし、何よりあれは、戦闘狂。確か、名前はヒソカだった筈。忘れていた存在に出会って、益々命の危機を感じた。そんな私に相手が気付いた様子は無かったけど、出来るだけ避けようと思う。気付かれたら、きっと殺される。
「奴は去年試験官の他に20人の受験生を再起不能にしている。極力近寄らねー方がいいぜ」
トンパの説明をそこそこに聞き流し、私はキョロキョロと辺りを見回す。他に原作でヤバい奴が居た筈だったからだ。でも、思い出せない。はぁ、結局分からず会話を聞こうと意識をゴン達に向けた。
「ほら、お前さんにも。お近づきのしるしだ、飲みなよ。お互いの健闘を祈ってカンパイだ」
「え、ああ。どうも…」
ボーッとしていた間に話が終わってしまっていたようだ。ゴン達はトンパから缶ジュースを貰っていた。私も渡されて、反射で受けとったけど、何かあったような、とまたもや曖昧な記憶に首を傾げる。
カシュッと開けた缶のプルタブ。ちらっとゴン達を見れば、皆飲む気配だった。
(まぁ、いっか…)
そう思って缶に口をつけて、口にジュースを含む。と、
あっ?これって毒、ではないなぁ。
何だかジュースとは別に違った味が混じっていた。ころころと舌の上でテイスティングしてみる。
(ふぅん…なるほど、ね)
ごくっと音を鳴らして飲み込む。にやっと、トンパが含み笑いをしたのをちらっと視界に捕らえる。これ、ゴン達は飲まない方がいいな。
「トンパさんこのジュース古くなってるよ!!味がヘン!」
「え!?あれ?おかしいな〜?」
声をかけようとした所で、どうやらゴンは気付いたらしい。口に含んで直ぐに吐き出していた。ばれる筈ないと思って油断していたのかトンパは物凄く動揺しだした。
それに便乗したクラピカもレオリオもジュースを捨てていた。
あれ、結局私だけが飲んじゃったな。
「申し訳ないっ!!」
「いいよ、オレ、山とかでいろんな草や芽をためし食いしてて大体味で変なものがわかるから、気付いて飲まなかったし…それより、ユラギがジュース飲んじゃったから、そっちのが大変だよ」
ゴンが謝るトンパに対して平気だと言うが、私が飲んだ事はばっちり見られていた。
「そ、そうだったな。本当に申し訳ないっ!」
ゴンの言葉に私に謝罪をしてきたトンパ。私はどう対応しようか迷った。本当のとこ、トンパは信用ならない。確か新人潰しの受験者だ。
「あ…、ええっと俺なら平気。こう言うのなら食べ慣れてるから、お腹下す事はないし」
そう返せばゴン達はホッとした様子を見せ、トンパは驚いた顔をしていた。
始まる死闘毒草ばっかり食してた生活がまさか役にたつとはね。
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