魔女の弟子
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「今日はダッドちゃんのお誕生会なの!お前達は二つ隣のフィッグさんの家に行ってちょうだいね」
「「はい」」

預けられてもうすぐ3年。4歳になる季節に、私達より数日早く生まれたダドリーはママ友の子と友達になり誕生日会を家ですることになったそうだ。

その為、今までなら何かあれば階段下の物置に閉じこもるよう指示されて来たけれど、今回はどうやってもその人達に会わせたくないらしく、人に預けられる事になった。

ハリーはこの家から、この家の人間から漸く離れられると思って少し気分が高揚しているのが見て分かった。かく言う私も、他人の家だから気を使うかもしれないが、酷い侮辱言葉を言われるわけはないと、喜んでいた。


「それじゃあ、フィッグ。この子達を宜しくお願いしますね」

ペチュニア伯母さんに連れられ、二つ隣の家まで来た私達。
そのおばあさんを見て、私達は一瞬固まった。

「はいよ、任せなさいって。一人暮らしにゃ賑やかになって丁度良いわい」

「それじゃあ、後で迎えに来ますので」

そう言ってペチュニア伯母さんは私達を一瞥してそそくさと帰って行った。

「さぁ、待っていたよ!中へおあがり」

にやっと笑ったフィッグさんは、はっきり言って、妖しかった。

「リオ、ぼく、物置でいいから帰りたいかも」
「うん。私もだよハリー…」

さすが双子、思う事は全く一緒だったみたいだった。それでも帰る訳にはいかないので、大人しくフィッグさんの家に招かれる事にした。

「ひひ、実はお前達の話をペチュニアから聞いた時には嬉しかったんじゃよ?ハリー、リオ!会えて光栄じゃ!」

フィッグさんの家は、なんと言っていいか…個性的だ。
そこら中に猫の写真。ランタンみたいな古ぼけた家具類もあり、日の当たりは良いので暗くはないが、ハリー曰くキャベツの臭いがするとか…はっきり言って、何をしている人ですか?と問いたくなってしまう。

そんな人が何故か私達を迎え入れる事を喜んでいるだなんて直ぐに分からなかった。

「お招き頂きこちらこそ光栄です」
「ごめんどうかけると思いますが、よろしくおねがいします」

とにかく、先ずは礼儀としての挨拶をする私達。前世で施設で育った私はとにかく、子供達に礼儀と心配りはするようにと教えてきた。新しい親、里親に、所詮捨て子、施設育ちのまともな教育を受けていないと言われない為だ。
それで初めての人で悪く思う人はいなかった。だから、ハリーにもこれについては教えてきた。

「はっはっはっ、こりゃ賢い子等じゃ。先が楽しみじゃの。
そうじゃ、あんた達わしの猫の写真でも見んかいな」

そうフィッグさんは言って、私達の前に猫の写真を並べだした。猫は確かに可愛いかった。


* * *

「ハリー?」

お昼を食べて少しすると、ハリーが急に大人しくなったと思って隣を見ると、すっかり寝てしまっていた。
可愛いな。つい、過去の記憶の子供達を思い出してしまう。
それでも、この子は大きな宿命を持った子供だと思えば、護ってあげたいと思うのは、私のエゴでしかない。それでも失う怖さを知っている私はどうしても過保護になってしまう。

「リオは寝ないのかい?」

ハリーの頭を撫でながらそんな事を思っていると、フィッグさんは私を不思議そうに尋ねてきた。その瞳は優しさが込められていて、私はここが安全である事を理解した。それでもやっぱりちょっとフィッグさんを怖いと思うのはその魔女のような風貌のせい何だけど…

「フィッグさんて、魔女さんみたいね」

ぽつり、思った事を口に出してしまってはた、と気付く。そういえば、この世界は魔女が実在するんだったと。

「ひゃひゃ。鋭い事を言うのう。じゃが、残念。わしは魔女にはなれんかったスクイブなんじゃよ」

"スクイブ"

聞いた事のある単語に私は、前世の記憶を引っ張り出した。
そうだ、フィッグさんは魔法界の人だった。ハリーの裁判の時に証人として出ていた。

「どうすれば魔女になれるの?」
だとしたら、魔法を教えて貰えるかもしれない。私はハリーのように不思議な事が起きていなかった。あの時、ヴォルデモートが家を襲った時のあれは、ハリーの力だと思う。私はただ、見ていただけ。きっと私もスクイブだから。

「ふむ。時が来れば、ホグワーツから入学状が届く。魔力を持った者は制御を覚えるために学校に行くんじゃ。わしは、確かに学校から来たが、結局魔法は上手くは行かなかった。ほんの少しあっただけじゃったからの。今では殆ど使えんのじゃよ」

「そう、ですか…」

魔法を習うのは学校からの案内が来てから。確かにそうなんだけれど、それでは遅いんだ。
だって、ハリーは入学してしまったら、それだけで危険がいっぱいあるのだから。
私も力になりたいけど、魔力があるかも分からない今、ハリーの隣にはずっといれない。

「リオはどうしてそんなに魔女になりたいんじゃ?」

落ち込んだ私を見兼ねてフィッグさんは、気分を変えようと話題を振ってくれた。だけど、それこそ理由だった。

「ハリーと一緒に居たいからです。私は、ハリーとは違うから、強くならなきゃいけないの。魔女になれば、助けてあげられると思う、から」

無力だった自分を思い出して、目頭が熱くなる。泣きたく、ないのに、涙がでそうになる。じんわり歪み始めたフィッグさんの顔を見ながら、私は涙がこぼれないように瞬きを抑えた。

「うむ…時がくればリオなら魔女になれるぞ」
「私、すぐに力が欲しい」

こんな事、初対面の人に話して良いわけないのは十分承知だ。それでも、赤ん坊になって、何も自分一人では出来なくなってしまった自分自身に、憤りがあった。これは八つ当たりみたいなものだった。通る筈のない希望。わかっている。でも、この3年間で、私達はあまり良い育ちをして来なかった。ハリーはまだ幼いから分かっていないから良い。だけど、もの心ついてきたら、きっと今より辛い。理解出来るのは、良い事ばかりじゃないんだ。

「わかった、わかった。リオ、そこまで言うなら、知人を紹介しよう。じゃが、会った事は秘密じゃ。わしが紹介した事も秘密じゃ。良いな?」

私の中の葛藤を何となく読み取ったのか、フィッグさんは観念したように言葉を発し、秘密だと言う人に逢わせてくれると言ってくれた。

「いいんですか!?」

私は驚いて、涙もひっこみ、フィッグさんを見つめ返した。

「4歳じゃと言うに、騎士団に劣らぬ対した覚悟を見せられりゃ、しょうがないじゃろう」

騎士団、はきっとヴォルデモートに対抗したあの組織の事だろう。フィッグさん、何者、とは思っても今は流す事にした。

「ありがとうございます!フィッグさん」

ぎゅっとフィッグさんの手を握ってお礼を言えば、フィッグさんは嬉しそうに笑った。その笑顔は、さっきまでの魔女のような妖しさではなく、純粋に、優しい女の人の笑顔だった。

「いいんじゃよ。リオ達の両親には世話になったんじゃ。恩返しじゃよ。ただ、ちょっと直ぐには無理じゃ。忙しい奴でたまにしか会えんから」

「はいっ、待ってます」

お父さん、お母さん、ありがとう。フィッグさんのその言葉に素晴らしい両親を持っていたと言う事を改めて実感した私は両親に心の中で感謝をしたのだった。

* * *

3ヶ月後――

フィッグさんからスクールの帰りに、声を掛けられて、家に行った。たまたまその日ハリーは掃除当番で、先に帰って良いと言われて一緒ではなかったので調度良かった。

「この子じゃよ、パルス。魔女を希望している子は」

そうして会ったのは、私の前世での国日本にあるような狐を模った面をして、服は下は黒でヒールのないブーツとエンジ色のショートパンツ。上は迷彩色のタンクトップの上から藍色の半袖のロングパーカーを着ていた。紙はブロンドのロングだ。

「おばちゃん、将来有望な魔女がいるから会えって言ってたよね?」
「ああ、言ったのう」

呆然と変わった恰好のお姉さん?を見上げていたら、意外と低め、アルトより低めくらいかな。の女の人の声が、フィッグさんに声を掛けていた。

「どう見ても、プライマリスクール通い始めたばっかのチンチクリンじゃないか!」

うん、結構口悪いな、このお姉さん。悪い人ではないと思う。けど、なんか、ガラが悪いチンピラみたいな印象を受けてしまった私。どうしよう、と思ったところで、フィッグさんはその人に何やら分厚い本を差し出した。

「ほら、約束していた本じゃよ。これをやる変わりに子供を弟子にする約束じゃったろ?パルスも人材が増えると喜んでたのに、撤回するつもりかい?」

「うっ…わかった!!教えりゃ良いんでしょ!!」

フィッグさんの言葉に、パルスさんは、自棄になった様に叫んで、私を見下ろして来た。

「あんた、名前は!」
「リオです」

あまりの威圧感に、一瞬びっくりしたけど、叔母夫婦に普段から怒鳴られ慣れているので、怯みはしなかった。
そんな私に気付いて、パルスさんはへぇ、と感心した様に呟いてからしゃがんで目線を合わせてきた。

「あんた、根性はありそうだね。歳は?」
「4歳です」
「…あと七年か。よしっ、鍛えてやる。その変わり、泣き言言ったり、逃げたりしたら、辞める。いいな?」
「はいっ!よろしくお願いします!」

兎に角、教えて貰える言葉を貰えたので、私は反射のように、返事をして頭を下げた。

「よしっ、私はパルス。覚悟しなよ?お嬢ちゃん」

お父さん、お母さん、私、これから強くなるから、見守ってください。


魔女の弟子


「ところで、フィッグさんとはどういうお知り合い何ですか?」

「んあ?保護者だよ、あの人私の里親」

「ああ、それで」

(頭が上がらない訳なんだ)
何だか一気にパルスさんがいい人に見えた。

「何だ?」
「あっ、いえ、私と同じ境遇なんだな、って親近感です」

「…(こいつ、実は苦労してるんだな)」

急に黙ってしまったパルスさんに、私は首を傾けた。

「ん、なんか辛い事あったら言いな。先輩としてアドバイスはしてやるよ」
「へっ?あっ、ありがとうございます!」

優しいお姉さんができました。


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