護れなかった笑顔
bookmark


バン、と言う壮大な音に、驚きを隠せない両親。
いつか来てしまうこの日を思って、母が使ったと言う本を読んだけれど、果たして私に魔力があるか分からなかった。

「ジェームズ!!」

「リリー!ハリーとリオを連れて逃げるんだ!」
「っ、わ、分かったわ」


「見つけたぞ!ポッター!大人しくガキを渡せ」


低い声に、人を見下すような口調。吊り上がった口角は相手に恐怖を与える様に笑う。

渡せない。
初めて知った両親と兄弟のいる人生。誰に似ているなんて知らなかった過去より今が好き。目の前で人が死ぬのも、何も護れないで死ぬのも、もう…嫌だった。

「ううっ、」

ビキリ

ビシビシッ

家全体が、軋む音がする。
殺させない。

ギュッ。
握り閉められた手に、力が沸いて来る。

ああ、ハリーも一緒だよね。
止めよう。
家族は離れちゃいけない。


「!?な、何だ?」

「ハリー!リオ!」

「そいつらか!」


ヴォルデモートがお母さんに近い私達に目を移し、杖を構える。
来る。
跳ね返しの呪文なんて知らない。両親からの加護呪文もない私達。でも、ハリーと一緒なら、何故か、返せる気がした。
父は杖を取り出そうとしていたから、吹き飛ばす。

ばしん

「…なっ!?」

ダメ、今、ヴォルデモートの視界に入って良いのは、私達だけ。

母も、私達の前に来ようとしたから、盾を作る。

「リオ!ハリー!」

頑張れ、ハリー。
私も頑張るから。

痛いくらいに握りあった手は振るえていたし、逃げ出したいくらいに怖かったけど


「アバダケタブラ」

バキン ガガガガガガラ
バシッ

「!?」


魔法の跳ね返る音。
同時に走る胸の痛みに、決着を確認する余裕がなかった。

「「ハリー!リオ!」」

覆いかぶさってきた両親に、視界を遮られ、私達は意識を失った。

真っ暗になる中、私は大きな何かがぶつかる音が聞こえた。


* * *

「…なんでわしらが!」
「でも捨てたりしたらっ…」

大人の男女の潜め、怒ったような声が聞こえて目が覚めると、見知らぬ天井だった。

ぼんやりする頭で、意識を失う前の事を思い出していると、近くにいた声の主である男が私に気付いて嫌そうな顔をした。

「…だあれ?」

声に出た幼い音に、自分でもびっくりして体が固まった。

ああ、そうだ。
私は今リオに生まれ変わったんだった。

混乱していた記憶が徐々に蘇ってきて身体の力が抜けた。

「フン、お前達の両親はここにはいない。仕方なく遠い親戚だと言う理由でわし等が預かる事になった」
「バーノン…」

おじだと言う人の隣で、その人を不安そうに見て声を発した女の人。おそらくおばだろう。見知らぬ人の登場に、驚きはしたけれど、私はそれより重要な事に気がいって気にしていなかった。

"ここにはいない"

親戚だというおじさんに言われた言葉が頭を反芻する。こことはつまりこの世の事だろう。子供に言うには都合の良い言葉。不安にさせない為に言葉を変えてくれたのはありがたいけど、私にはその言葉の本当の意味を捕らえる事が出来てしまうから、生まれてくる感情は悲しみと後悔でしかなかった。

「い、いない…」
「ああ、おらん!」
「ええ…いないのよ」

意外とあっさり言葉を理解した私に対しておじさんもおばさんもそれをもう一度繰り返した。

「うっ…」

大切な人をまた、失ってしまった。分かっていたのに、止められなかった。
子供になった事でゆるくなった涙腺が、じわじわと感情と一緒に涙を出そうとした時、

「うあああっ、ああああん」

子供の泣き声に、思考が一瞬止まった。

「うえ…、あっ、ハ、ハリー?」

聞き覚えのある声。呼ぶ、声。
ああ、私には兄がいた。大事な片割れが。

「フン、あっちも起きたか」

鼻を鳴らして、嫌そうに言うおじさんを私は無視をして、ハリーの声がする方へ顔を向ける。

「ハリー、リオだよ」

泣きじゃくるハリーを見つけ、私はハリーの手を握る。
小さな手。私と一緒の体温。

「あっ、う、リオ…いた」

泣き止んだハリーに、私は笑顔になる。

「うん。いるよ。ハリーが一緒で良かった」

「リ、オ?」

さっきまでの悲しみだけだった私だけど、たった一人でも大切な家族が残っていた事に安心した。それでも、やっぱり、あの優しい両親を失ってしまった事は悲しくて、私は笑いながらも涙が止まらなかった。

「ハリー、私達二人になっちゃったっ…」

手を握ったまま、私はハリーの同じ高さにある肩に顔を埋めた。ハリーにこんな事、言いたくない。私は大人だったんだから…
なのに、ハリーの前では何故か弱くなってしまう。

ぽん

ぽん、ぽん

泣いている私の頭に乗せられた、小さな温もりに、私は止まらなかった涙が止まった。

「リオには、ぼくがいるよ。だから、ないちゃめっ」

子供なのに、大人の様に甘えを許してくれるハリーに、私は恥ずかしい。半面、でも凄く嬉しくて、今まで可愛いと思っていたハリーを、初めてカッコイイお兄ちゃんだと思った。

「う、うん!ハリーが居てくれるなら私、泣かないよ」

ぱっ、と顔をあげて笑うと、抱き着いていた身体を離れさせた。

その時見たハリーの可愛い笑顔を私は一生忘れないと誓った。

「おい、餓鬼ども。今日からここに置いてやる。だが決してわし等はお前等の親じゃないからな。甘えは許さんし、わしの言うことはちゃんと聞くようにな!」

とたんに後ろからした声に、振り向けば、ムスッとしたおじさん。不安を現にしたおばさんが立っていた。

そうだ、思い出した。

"ハリーポッター"と言う本では確かハリーはホグワーツからの手紙が来るまで11年間叔母夫婦に虐げられていた筈だった。と言う事は、これが、今から私とハリーの苦難の始まりだ。

「返事は?」

すごむおじさんに、私は1歳児にする態度ではないと確信する。

ギュッと、握ったままの手とは反対の手を握り閉める。
ハリーだけに、辛い想いなんてさせない。私達はせっかく双子なんだから。

「「はい」」

同時にした返事に、ハリーも実は同じ気持ちだなんて、この時は思わなくて、凄みに怯んで返事したんだと思ってしまっていた。

だって、本のハリーはそうだったから。

お父さん、お母さん。
私に力がなくて、二人を護り切れなくてごめんなさい。
これからもずっと後悔して生きて行くけど、それは、私が前世で誰も護ることができなかったせいです。


護れなかった笑顔


ハリーと双子に産んでくれてありがとう。
だから私、今は一人じゃないって強くなれる。
今度こそ、強くなって、護って見せるよ。




prev|next

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -