〜side K 2
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そうして、修業を見る為に話し出した慰霊碑について。

どういった物か、既に知っていると言ったイロハちゃんは、本で知ったと言ったけど、それは本当に今生で知ったのか、それとも前世でなのか、俺にはわからなかった。


エキストラ〜side K 2


「そうか…」

呟いて見つめた先には慰霊碑。
これを見る度に馬鹿だった自分、弱かった自分を悔やみを込めて佇んでしまう。

もう何年も経つというのに。

「私は、そこに名前を刻みたくないです」

はっきりと言い切ったイロハちゃんのは言葉に、俺はまたしても驚く。はっきりとした意志のある声は、まるでオビトをダブらせた。

「死ぬのは怖いし、英雄と称えられても、それでも戦闘の犠牲者にはなりたくない」

そう言ったイロハちゃんは、本当に、そっくりで…


「大切な人に、恨みなんて抱いて欲しくないし、もちろん、大切な人の名前だって、載って欲しくないんです。後悔しない為にも、私は、強くなりたい」

まるで、俺の後悔を知っているような口ぶりに、やっぱりと思う半面、励まされてしまう。
そうだ、だからこそ俺は、強くなる為にがむしゃらに任務を熟した。暗部に入ったのも、その為だった。

今は、戦争が終わって任務は減った。だからこそ、後悔ばかりが責めてくるけど、今はまた護りたい子がいるんだ。だから、俺は、まだ強くいなくちゃいけない。

「ははっ、まいったな。まさかこんな小さい子に励まされるなんてね」

本当に、この子には悪いが、オビトに怒られたみたいでつい嬉しくなってしまった。
この子がオビトの生まれ変わりなんて事があればいいのにと思うけど、まさかそれはないだろうと否定する。だってあいつなら、きっともっと俺を盛大に怒った上に、修業つけろって偉そうに言うに違いないから。

さて、修業、始めるか。


* * *

「カカシ、最近いい事あった?」
ある日、ナルトの下にいつものように訪れて、修業を見ていると、ナルトは鋭く聞いてきた。

日に日に成長して行く二人の子供達は、凄いスピードで上達していくものだから、正直手間なんかかからなくて、楽だけど、いつ追い付かれ、追い越されるか、冷や冷やとする。一方で、そんな二人が出会えばもう、意気投合すること間違いないと思うと、漸く一歩幸せになれそうな兆しに嬉しくなるのは仕方ない事だ。

「んー、最近ね、一人生徒が増えたんだけどね」

「ふーん」

ナルトは俺が上忍師をやっている事を知っているから、特に何も興味は無いようだ。だけど、俺がことごとく下忍を落としてるのを知らないから実は珍しい事なんだけどなぁ。とは黙っておく。

「俺の昔のチームの奴に似てて、面白い子なんだけど…」

「へぇ」

ちょっと興味が湧いたのか、ナルトの声のトーンが上がった。ナルトは面白いと言う言葉にはわりかし積極的だ。誰かさんに似てるな、とつい微笑ましくなってしまう。んじゃ、次の言葉。

「ナルト、会ってみない?」

「んー…って、は!?」

案の定、驚きを隠さずに、俺を振り返ってきた。瞬間に投げたクナイも見事的のど真ん中に命中。ん、さすがナルト。

「カカシ、寝言は寝て言いなよ」

「いや、俺はちゃんと起きてるって。それにナルト、教えてくれてる人に対してそれは失礼じゃない?」

「うっ…ごめん」

「うん、いいよ」

ナルトは素直だ。これも誰かさんに似ているなぁ… 本当にいい子だ。

「でも、カカシ駄目だよ。俺は人と会っちゃいけないんだ。大人はじいちゃんとカカシ以外みんな俺を九尾として見てくるし、子供はその親から反対される。たがら、俺は、自分を守る為にも、里人を怖がらせない為にも、ここから出ちゃいけない。俺も、もう痛い目には遭いたくない」

ズキリ、ナルトの言葉は、大人達の犠牲になった証拠で、俺は胸を痛めると、またあの日を思い返してしまった。


ナルトは俺がここにくる一歳半まで、様々な虐待を受けて育ってきていた。
暴力、毒、リンチ。
そのどれもを受けても死ななかったのは、九尾の回復力のお陰。
幼いナルトはその抵抗なんて、出来なかった。

「カカシ、化け物強くなりたい」
一人称が、化け物。それを聞いた瞬間怒りでどうにかなってしまうかと思った程だ。
三代目は一体何をしていたんだと、何故、俺はもっと早く任務を終わらせて帰ってこれなかったんだと。
結局、三代目もそれまで知らなかったらしく、ちゃんとナルトは世話をされていたと報告を受けていたらしい。たまに様子を見ても、ナルトはまだしっかり喋れる程言語を理解できていなかったし、傷も治癒した後では分かるはずなかったんだ。やっと、俺がナルトと話すようになって、ナルトが痛い事をしない人だと俺を認識して、漸く知った事実。
俺は直ぐに暗部を引退して、上忍だけになった。ナルトを引き取る為に。それでも俺が任務に行く時はどうすると上層部は許さず、結局火影邸預かりになってしまったけど、何とか俺が信用する部下と火影直轄の暗部で一致した奴に頼んで食事だけは毎食無事に捕れるようになった。どうしてもな時は忍犬を口寄せする時もあるし、まぁ、なんとかナルトは無事なわけだけど、その分、極端に人との関わりがなくなってしまった。


だから、先ずは友達を作れれば、と思って言ったのだけど…

「ナルト、絶対気に入るって!それに、その子もまだ友達がいないみたいだから、ナルト、友達になってあげない?」

これは確信。イロハちゃんならまずナルトを傷つける事はしない。人の心を傷つけるのを極端に嫌う子だから。
それに、九尾の事も、実は知っている様な気がするから。

「友達いない、って…カカシ、その生徒は一体いくつなの?」

「ん?ナルトと同い年だよ。それじゃ、明日連れて来るから、待っててね」

「ちょ、カカシ!」

ナルトはまだ良いって言ってないけど、もう決めたから。こういうのは勢いが肝心だ。
ユウの許可も実は昨日貰ったから、明日待機所に連れてきてくれる筈だ。

* * *

「ここだよ」

「はい」

翌日イロハちゃんを連れてきて、ユウには逆になんかお願いされてしまったし、後は、二人次第だ。

俺とナルトで掛けた結界も、あっさり解いてしまったイロハちゃんに、やっぱり、なんて感心してしまって。それをごまかすように頭を撫でれば、本当に、年相応に笑うものだから、前世の記憶を持っているなんて忘れてしまう。
それでも、中に入る時に見れば、なんとなく緊張していて、同い年の子と会うのは初めてだからか、それとも、中に誰がいるのか知っているのか…

いずれにしても、イロハちゃんはしっかりと向き合おうとしてくれて、本当に助かる。


「ナルトに今日は俺の生徒を会わせに来たよ」

「いらない」

きっぱりとした拒絶の言葉に、俺は苦笑をもらすしかない。

「初めまして!私はイロハ。半年前からカカシさんには修業をつけて貰ってるの。ナルト、って呼んでもいい?」

背を向けたままこちらを見ないナルトに、イロハちゃんは丁寧にも自己紹介をしてくれた。やっぱり、イロハちゃんの方がお姉さんかな?

「カカシに何を聞いた」

会わせるって言うくらいだから、当然説明なんかをするのは当たり前だろうけど、なんでかな、イロハちゃんにはそれは必要ない気がしてそのままついて来て貰ってしまった。

「何も?会わせたい子がいるって聞いてきたの。外から結界を見た時、内側から出られない様にと、外から入れない様に二重になってたから興味が湧いたの。ただの子供にする仕打ちなら、外からは入れて可笑しくないのにね」

ああ、本当、イロハちゃんは面白い。普通は怒るだろうに、しっかり顔も見えない相手に返答している。しかも、正直過ぎるくらいに。それでも振り向かないナルトには、もうちょっと情報が必要か。

「ナルト、この子も、ナルトと一緒で、普通の子じゃないんだよ」

イロハちゃんには悪いけど、俺にはナルトと一緒で君が普通にはどうしても思えない。だから、それを利用させて貰うよ。

「やっぱり、私も普通の基準からは外れてますよね。でもどうしてそれを今まで言わなかったんですか?」

今更な言いように、イロハちゃんが不思議に思うのも無理はないか。でも、やっぱり自分で普通じゃないって分かっていたんだと、これではっきりしてしまった。君は、その知識にきっと苦しんでるんじゃないだろうかと、今はそう思うようになってしまっていた。

「確かに、普通じゃないとは思っていたけど、俺が別にそれを嫌だと思わなかったし、何よりイロハちゃんが、そう思われるのを嫌がっているようだったから」

始めに調べた時の印象を伝えれば、目を見開き驚くイロハちゃんは、きっとまだまだ忍の恐さを知らない。だからこそ、力不足と自負しているんだろうけど。

「…気付いてたんですか?」

「そりゃあ、生徒のことだからね。周りに修業を隠しているって事と、他の人の前では子供っぽい態度でいるのはそういう事でしょ」

「…ん」

悔しさからなのか、それとも、隠さなくて良かったと知った安心からか、イロハちゃんはその大きな目に涙をいっぱい溜めていた。
ああ、我慢なんてしなくていいのに…頭を優しく撫でてやれば、子供扱いするなと一瞬見上げられたけど、やっぱり俺から見れば子供なのには変わりなくって、だから思いっきり頭を掻き混ぜてしまった。子供はそうやって甘えてなさい。ついに涙が零れ出したイロハちゃんに女の子の髪くしゃくしゃにしたのはまずかったか、と改めて髪を戻してあげた。ナルトと違ってさらさらとしたその毛質に、彼女もそうだったな、と目を細めた。

「…ほら、ふきなよ」
「ふぇ?」

漸く、イロハちゃんが気になって振り向いたナルトは、泣いているイロハちゃんを見て慌てた様だった。汗を拭くのに良く使うタオルが側にあったのをとっさに差し出していた。あはは、ナルトも男の子だねぇ

「涙、出てる」
「あっ、ありがとう!」

ナルトの慌てぶりに気付いてなかったイロハちゃんは、泣いているのを見られて恥ずかしいようで、真っ赤になりながらも、ナルトに困ったようにお礼を言っていた。
それに対してナルトはお礼なんて言われた事がないものだから、いいよ。なんて嬉しそうに笑い返していた。

なんだこの二人…異常にかわいいんだけどっ!

一生懸命な二人を見ていて、うわっと悶えてしまったのは、二人を好きな大人からしてみたら、仕方ない事だと言いたい。

「ナルトも、泣いて、いい、よ」
ふと、イロハちゃんが何を言い出すかと思えば、ナルトに向かって泣いて良いと頭を撫でていた。
ああ、やっぱりイロハちゃんは知っているんだ。ナルトがどんな子なのかを…ナルトは、強い子で、泣いてもどうにもならないと知っていたから、泣いた事がないし、きっと泣き方を知らないんだと思ってた。だけど、今目の前で泣くを実践しているイロハちゃんに、それを言われると、なんだかナルトも泣ける様な気がした。

「ふっ、ふぇっ」

ああ、ほらそうだよ。
もっと早くにナルトは泣くべきだったんだ。

「私は、ナルトの事、好きだよ」
俺は、君達二人がとても好きだよ。だけど口に出すのが苦手だから、今まで言った事なかったな。だけどイロハちゃんは、しっかりとナルトに向き合って、素直に言葉を言ってあげていた。
ナルトもその言葉に漸く安心したのか、盛大に、声を出して泣いてくれた。

「ぅっ、うあーっ」


「そうだよ、ここには君達の見方しかいないよ」

この日、ナルトが泣いてくれたのは嬉しい誤算だった。

初めて泣いた二人を見て、俺は、漸く救われた様な気がした。

奇跡なんて、信じた事はないけど、この時ばかりは実感してしまった。イロハちゃんを巡り会わせてくれたどこかの誰かさんに、心のそこから感謝を贈るよ。どうも、ありがとうございます。


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