エキストラ〜side K「あのね、忍者の修業をつけてもらいたいの」
「ここで、生き抜く為です」
同僚の上忍の妹、最近周りをちょろついて来る無邪気な子供。
ただそれだけの認識だった子供に、突然言われたお願いが、大切な師の大切な子供と重なって、思わず感情を普通に出してしまったのは、この子がまた、あの子と同じ事で悩む子なんだと思ってしまったからだ。
エキストラ〜side K
イロハちゃん、それがあの子の名前で、家族構成はいたって普通の忍びの家系。
旧家でもなければ、特別な血筋でもない。一般人だって親戚には沢山いる子だ。
まだ2歳。
そんな子は、忍に憧れてもまず修業は望んだりはしない。
例え両親が忍でも一般職って言う道はある。もちろん下忍試験に落ちてからの話だけれど…
なのに、この子は僅か2歳で生死を考えているのは、特別な何かがある証。
テストをすると言ったのは、口実で、実際は身辺調査期間だった。
あの言動以外は至って普通の子供そのもの。
両親は存命で、娘であるからと、可愛がられているし、上忍待機所でも絵本を読んだり、知り合いの上忍とは隠れんぼをして遊んでいる。
ただ気になるのは、同年代の子供との交流が一切ないと言うこと。
一体何処にあの凶器のような雰囲気の原因があると言うのか…
さっぱり分からなかった俺は、兄である上忍、ユウに話を聞く事にした。比較的彼に一番懐いているようだったから。
「ユウ、ちょっと、聞きたいことがあるんだけど今いいかな?」
「えっ!カカシさん?別に手は空いてるんで良いですよ」
「ここじゃ、なんだから、移動しても?」
「はいっ」
きりっとした時の返しや、柔らかい創りの顔は流石兄妹、似ていると感じる。
* * *
「実は、妹さんについてなんだけど」
「えっ、イロハですか?まさか、カカシさん…だ、ダメですよ!いくら、俺より強くても、イロハより年上過ぎるのは!」
「あのね、俺はロリコンじゃないし、そう言う話じゃないから」
自他共に認めるシスコンとは聞いていたが、いきなりの勘違いに呆れるしかない。良かった。移動して。
「あっ、そうですよね。あははっ。俺どうもイロハの事になると、感情的になっちゃって…」
あからさまにほっとしている彼は、憎めない顔と性格をしていて、成る程、異性にモテるのも分かる気がする。
「ま、ある程度聞いていたから。気にしてないよ。
それより、ユウ、君のその大切なイロハちゃん、他の子と違う所とかないかな?もちろん、一般的な2歳児の子供と比べてって意味でね」
明らかに、可愛いだのなんだのとシスコントークが始まりそうだから、初めに念を押しておく。まぁ、仮にも上忍。中忍の両親と違ってきっともっと見ている筈だから、2歳児の隠し事位見抜けて当然だろう。
「…イロハをどうするつもりですか」
明らかな敵意。
四代目の弟子だった事もあり、比較的火影に近い位置にいる俺は、もちろん上層部にも関わる事がある。だからこそ、上層部にあまり良い印象を持たない者からしたら、厄介な相手と思われても仕方ない。
ユウもきっとその中の一人。
でも、俺もそうなんだよね。
「んーこりゃ、何かあると見た」
飄々とした俺の態度は相手を挑発するのには適している。けど、誤解もされやすい。ユウ相手にはあまり向かないよな。
「はぐらかさないで下さい!イロハに何かしたら、いくら貴方でも、赦せません」
大切な人の為に、体を張る姿はまさに忍として、人として好感が持てる。だからこそ、俺もまだ忍をやっている訳だし。
「イロハちゃんに、修業をつけて欲しいと頼まれた」
「!」
動揺する瞳に、ああ、俺もユウも似た者同士だと思う。
「イロハが、カカシさんに?」
「至って普通の2歳の子供が、兄に心配掛けたくないからと、そこまで気を使ってわざわざ俺まで頼みに来た。普通じゃそこまで頭は回らない。何かあると考えるのが大人、だ」
隠すなとはまだ言われていないから、正直に話してしまっても、問題ないだろう。それに、まだはっきり教えると決めていないし、見つかった時に、この兄がどうするかなんて考えただけでめんどくさい事になる。そういった面倒事は、嫌と言うほど経験済みだ。
「イロハは、何かを知ってるんじゃないかと思うんです」
「知ってる?」
ぽつりと観念したように、心配を現にして話し出したユウに、俺は耳を傾ける。
「始めて会ったのは、イロハが生まれて漸く目が開くようになった日でした。次に会ったのは、長期の任務から帰った一年後。イロハが漸く一歳になった日、久しぶりに会ったその日に間違いなく、イロハは俺を兄と認識して呼んでくれた」
「写真とかで、見ていたんじゃないのか?」
「始めは、確かにそう思いました。だけど、両親が数日不在でも、消して泣かないし、殆ど一緒にいた事のない俺が抱きしめても、全額嫌がったりしなかった。何より、俺が気配を消してどこかに行った振りをしてみると、一人で本を読んでいたんです。それも、絵本ではなく、忍術書を。まだ字すら教えていない1歳の乳幼児が、です」
ナルトの時と似ている。でも、それだけで、ユウは知ってるなんて言うだろうか?
俺は緊張を隠して先を促した。
「確かに、始めは、奈良上忍のところの子みたいに頭のいい子なんだと思ったんですけど、だけど、決定的に違うのが、その隠し方です。
あの子は誰に何を言われるでもなくあれを自然に、尚且つ冷静に切り換えている。自分が変だと思うのは、あくまでその普通基準を目にした時か、誰かに教えられてです。なのに、イロハは両親にも、俺にも、待機所の中でさえ普通の2歳児にしか見えない。唯一比べる筈の同年の子供とも会っている様子がないときたら、それは、どこで、身についた物だと思いますか?」
「生まれる、前?」
ごくり、ついに核心を得た答えを提示してきたユウに、俺は信じられない答えを口にした。
「もしかしたら、イロハは前世か何かの記憶を持って、しかも、忍術書や修業を読む位だから、一般人だったのかも…忍にならなくてもいい家庭にいるのに、それをしているって事は、イロハはきっと、何かを知ってるんだと思うんです。しかも、きっと強くならなければいけない事情の内容の」
しん、と静まる空気の中、俺はこの先の事が急に心配になった。
もし、この事実を他の人間が知ったら、どうするだろうと。
「イロハちゃんに、聞いたりしないのか?」
「イロハはまだ子供です。回りに見方がいるかも解らない状態で、そんな事を問い詰めて何になりますか?それに今はイロハはそれを隠したがってる。なら、、イロハがもう少し成長するまで守ってやりたいと思うのが、兄じゃないですか?」
だから、あの極度のシスコンでは堪ったものではないが、成る程、ユウは、現状を維持していくつもりらしい。
「分かった。このことについては、ユウに任せるよ。俺は誰にも言わないと約束する。ただ、イロハちゃんの修業はどうする?ユウ、君が教えるかい?」
そこまで知っているなら、彼が教えるのがいいかと思える。いくら本人から頼まれたとは言え、第三者は関わらない方がいいだろう。
「いえ、カカシさんが良ければ、イロハに修業をつけてやって下さい。俺じゃやっぱり、厳しく教えられませんし、イロハに気を使わせるのは、堪りませんから。ああ、俺が許可した事は是非伝えてやって下さい。俺はイロハに嫌われるような事だけはしたくないので」
「ん、分かった。何かあれば、ユウに報告は必ずするようにしよう」
どうやら、俺は厄介事に巻き込まれるのは嫌いじゃないみたいだな…なんて思いつつ、大切な子の事を考える。
暫くしたら、二人を是非会わせてやりたいと思った。
「あの、カカシさん!」
「ん?」
「大変な事を頼むのはわかってます。だから、俺に出来る事があれば、何でも言って下さい」
「分かった。ありがたく受け取っておくよ」
ニコリ、真面目な兄さんでイロハちゃんは幸せだな、と思った。
きっとナルトと会わせることも、いつか承諾してくれるに違いない。
「カカシさん、イロハが修業を頼んだ相手が貴方で良かったです」
「ははっ、俺も君みたいな上忍がいてくれて良かったよ。それじゃ、また」
「!ありがとうございます!」
真面目なユウと別れての帰り道、ふと思ったのは、俺もナルトの事考える時は、端からみたら、ブラコンみたいだろうな、と言うことだった。
ああ、だから、ユウは嫌いじゃないんだな。
まぁ、子供達の明るい未来の為にも、一肌脱いで頑張るかな。
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