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「さて、テストを始める」

「はいっ」

あれから数日後、カカシさんの任務の無い日に実力を見て貰う事になった。
場所は例の、原作で七班が行った演習場に来ています。


エキストラ


体術か、それとも忍術か…
正直、私はまだ知識と気配の読み方、消し方くらいしかまともに出来ない。印はマスターしているけど、チャクラの練り方を学んでいない。一人でそれをやってのけるには、術の反動が怖くて出来なかったから。

「それじゃ、先ずはこの演習場にある石碑についてだが…」
「慰霊碑、ですね」

「…知ってるのか?」
「はい。家にある本はこの一年で読みましたから。その中には、もちろんこの石碑の事も」

「そうか…」

哀しい雰囲気を出すカカシさんは、きっと大切な人の事を考えているんだろう。
大切な人がいなくなるのは哀しい。でも、この世界、実力があれば助かった命も沢山あった筈だ。それも、今のカカシさんならきっともっと後悔しているに違いない。

「私は、そこに名前を刻みたくないです」

「!?」

突然の私の言葉に、カカシさんは驚いて私を見遣った。

「死ぬのは怖いし、名前が載って、英雄と称えられても、それでも戦闘の犠牲者にだけはなりたくないです。自惚れかもしれないですけど、大切な人が私を思って泣くのは、必要とされていたと思えて嬉しいんですけど、ここは、加害者が、その大切な人を殺した相手がいると言うこと。私の大切な人に、恨みなんて抱いて欲しくないし、もちろん、大切な人の名前だって、載って欲しくないんです。後悔しない為にも、私は、強くなりたい」

ぽつぽつと、誰にも言った事のない本音をついカカシさんに言ってしまった。

こんな事、言うつもりはなかった。2歳の子供がこんな…
ああ、馬鹿だな、私。
カカシさんを見ていたら、思わず言ってしまったんだ。
だって、余りに普段とは違って、見ているこちらが痛くて仕方ないんだもの。悔やむなら、もっと気持ちが分かる人の前でやって欲しい。
私はだって、まだこの世界で大切な人は失っていないから。その後悔を知らないし、知りたくない。

こんなに引きずる人を私は知っていたから。


「はは、まいったな。まさかこんな小さい子に励まされるなんてね」
「あの、私は別に…」

励ましたつもり、なかったんだけどと続けようとして、それはカカシさんの表情を見て止めた。
なんだかすっきりした表情になっていたから。

「イロハちゃん、テスト合格」
「えっ!?」

何もしてないのに、合格ってのはありえない。と言うことはまさか…

「忍は掟を守らない奴はくず呼ばわりされる。だけど、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」

あっ、この台詞は、原作でナルト達に言っていた言葉。
だから、大切な人を考えての私のさっきの言葉は合格と言う事。

(はめられた、のかな?)

そう思っても、とにかく教えてもらえるんだし、いいかと思う。

「イロハちゃんの言葉、目から鱗だったよ。さて、修業、始めようか」

「は、はいっ!」

なんだかこんな私でも、カカシさんは受け入れてくれたみたいなので、凄くほっとした。
やっぱり、カカシさんはいい人だ!


* * *

「イロハちゃん、今日は会わせたい子がいるんだけど、ちょっと良いかな?」

カカシさんに修業を見てもらい始めて半年。この身体は飲み込みが速いらしく、大人の理解力も手伝って私は下忍飛ばして中忍くらいの強さを手にした、と自分の原作イメージでは思う。
前世ではイメージのなかったチャクラも、この身体は当たり前のように出来て驚いたのは記憶に新しい。

まだ忍としての覚悟の様なものは、現代っ子だった私にとっては決めかねていたけれど、せっかくつけた力を使わないのも勿体ないので、忍の道に進んで見ようと思う。

それと、前世に比べて頭も大分吸収が宜しい見たいなので、できるなら、医療忍術を習ってみたいと思っていた。その為に変化の術を覚えてからは図書館で本を読み漁っていた。
余談だけど、私は速読をマスターしました!
本当にそんなんで読めているのか、と思っていた私だけど、実際それが出来てしまった時には感動だ。確か前世では本を開かず読む事のできる子がいたので、目下私も訓練中だ。
どうやらこの世界では脳の活動が、私のいた世界とは比べられないくらい活発らしい。チャクラも速読も一種の超能力と何だと私は思う。ので、私みたいな子がいても特別変ではないのだろう。
まぁ、私の基準がまだ根底にあるので、隠しているけど。

そんな事を繰り返している内に、すっかり同年代と接する機会を逃しまくってしまった私を心配してか、ある日カカシさんが修業ではないのに声を掛けてきた台詞が始めの言葉だった。


「あっ、はい。もちろんです」

私は気を使わせてしまったと、申し訳なくて、二つ返事で了承した。

「カカシさん!イロハを、お願いします」
「ん!分かってる」
「?行ってくるね!お兄ちゃん」「ああ、行ってらっしゃい」


結局、カカシさんとの修業はお兄ちゃんにはばれてしまった。
うん、口止めはしなかったし、お兄ちゃんは上忍で私の保護者みたいなものだから、カカシさんが言うのも当たり前だよね。
でも、親は知らないみたいだし、絶対反対すると思っていたお兄ちゃんが知っても頑張れ、って(熱い抱擁つきで)応援してくれたから、私はほっとしていた。


* * *

「ここだよ」

「はい」

幾重にも掛けられた結界と幻術に、ここにいる私に会わせたい子と言うのが、何となく分かった。

ただの子供なら、こんなにも内側からも外側からも閉じ込められるはずがない。

ここにはきっと、ナルトがいる。

「解けるかい?」
「やってみます」

カカシさんは、このトラップが解除できるか聞いてきたって事は、私をきっと試してる。
カカシさんにお願いすれば簡単だろうけど、でもそしたらきっとこの中に入る資格が無くなる。
もちろん、ナルトに会う資格も。

別に、私が望んで来た訳ではないし、ここに来て、これを見るまでわざわざナルトに会いに行こうなんて思ってなかった。
だって彼はあの時があったからこそ、屈強な精神と思いやりを持った子に育ったから。

でも、実際これを目の当たりにして、気付いてしまえば知らんぷりなんて、出来るわけなかったんだ。それに、会わなきゃいけない気がした。


パンッ


「!…さすが、かな」
「何がですか?」
「んや、よく出来ました」

結界全てを一気に解いた私に、カカシさんは一瞬驚いたけど、カカシさんが教えてくれた事なのだから。私からすれば、当たり前だと思うのに、褒めて頭まで撫でられてしまえば照れるしかない。

「えへへ」

今の所、忍でもない私は全て隠しているから、カカシさんの前でしか忍術は使っていない。
だから、こうして役に立つのは嬉しい。
いつか、お兄ちゃんにも見せてあげたいな。なんて、十分お兄ちゃんっ子になってしまった自分に苦笑しながら、それを想像して口許を緩ませる。


ガチャリ、カカシさんがドアノブを回して開けて行くその向こうに、私は今更ながら緊張して中を覗き込んだ。
暗がりだけど、白を基調とした空間なら調度いい明るさの部屋。
そこに、幼いナルトはいた。


「カカシ?」

澄んだ高い子供独特の声に私は、あっ、と気付いた。

「ナルトに今日は俺の生徒を会わせに来たよ」

優しいカカシさんの口調に、ナルトの事を大切に想っているんだと分かる。

「いらない」

拒絶の言葉、それに私は確信する。ああ、ここはあのナルトのいる原作の世界ではないんだと。

「初めまして!私はイロハ。半年前からカカシさんには修業をつけて貰ってるの。ナルト、って呼んでもいい?」

入った時から背を向けたままこちらを見ないナルト。だから私は近付いて、ナルトに向かって声をかけるしか出来なかった。

「カカシに何を聞いた」

ナルト、と言った時に微かに揺れた肩。それでも振り返る事をせずにただ質問を、質問で返されてしまった。

こういうのは、正直苦手だ。

私は心理学なんて習っていないし、ずばり思った事を言うと、傷付ける可能性がある。だけど、何も言えないのは、ナルトを同情している様で嫌だし。

「何も?会わせたい子がいるって聞いてきたの。外から結界を見た時、内側から出られない様にと、外から入れない様に二重になってたから興味が湧いたの。ただの子供にする仕打ちなら、外からは入れて可笑しくないのにね」

言葉は選ばない。ナルトはきっと私を信じないだろうし、疑って掛かる。なら、本音を言っても構わないと思ったから。

ああ、本当、この世界の主要キャラは、どうしてこうも、放っては於けないんだろう。私みたいなエキストラがいた所で、特別な意味なんてなさないと言うのに、関わろうとしてしまう。
何より本音を、ぶつけてしまう。

「ナルト、この子も、ナルトと一緒で、普通の子じゃないんだよ」

と、そこでカカシさんによるフォローが入る。でもそれは、今更過ぎて、なんだか他人事の様に聞こえた。

「やっぱり、私も普通の基準からは外れてますよね。でもどうしてそれを今まで言わなかったんですか?」

ここまで落ち着いて話せるのは、きっとカカシさんが私を受け入れてくれているのが分かるし、そんなカカシさんの大切な子も普通じゃないから。
自分でそれを受け入れて、それで相手もそれを受け入れてくれれば怖いと思わなくていい。

そんな相手、私は前の世界では見つけられなかった。
唯一家族には割と本音を言えたから、大切だった。

ああ、そっか。
私には、もうカカシさんが大切な人の枠に入ってしまっていたんだ。

「確かに、普通じゃないとは思っていたけど、俺が別にそれを嫌だと思わなかったし、何よりイロハちゃんが、そう思われるのを嫌がっているようだったから」

ずばり、カカシさんのおっしゃる通りです。

「…気付いてたんですか?」

「そりゃあ、生徒のことだからね。周りに修業を隠しているって事と、他の人の前では子供っぽい態度でいるのはそういう事でしょ」

「…ん」

何、もうカカシさん大人過ぎる!嬉しくて、涙が出ちゃったじゃん!

頭を撫でられて、子供扱いするなと思うのは、やっぱり私が元24歳なのと、こんな泣いてる姿を見られて恥ずかしいからだ。
でも、そうやって受け入れて尚優しいから。思わず好きになりそうだなんて思ってしまったのは無かったことにしたい。

この年の差は犯罪だしね!


「…ほら、ふきなよ」

「ふぇ?」

いつの間にか、振り向いてくれたナルト。さっきまで振り向いて欲しくて話し掛けてた筈なのに、なんで、今のタイミングで!

「涙、出てる」
「あっ、ありがとう!」

うわわわっ
なんてカッコ悪いの私!
年下、っても精神年齢がだけど!の子にまで泣き姿見られた上に、ハンカチまで貸されてしまうとか!

恥ずかしさで死ねる!

もう、真っ赤になりながらもぐちゃぐちゃな頭でなんとか、ナルトにお礼を言えば、いいよ。なんて優しく笑う笑顔が見れました!

か、かわいいっ!
思わず、今度は実際に頭を撫でてしまったのは、かわいい物好きなお姉さんには仕方ない行動だと許してください。

「ナルトも、泣いて、いい、よ」

ぐずぐずした状態で言えばそうなるのは当たり前。だけどきっと、ナルトも泣きたいに決まってる。だから、カッコ悪かろうと、我慢しない方がいい。だってまだナルトは子供。こんな大人を慰めている場合じゃないんだよ。私の泣き顔見た罰だ。泣かしてしまえ、なんて意地悪を考えて頭をぽんぽんしてる(触り心地が凄い気持ちいい)と、ナルトもだんだんと顔が崩れてきて、

「ふっ、ふぇっ」

よしよし、その調子。

「私は、ナルトの事、好きだよ」
止めの言葉を言ってあげる。
うん。これは本当のことだし。原作を読んでいて、そう思ったんだから嘘じゃない。それに、この目の前で私にハンカチをくれたナルトが今はその気持ちより遥かに好きだからだ。

「ぅっ、うあーっ」




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