「買い物行く人ついといでー」

「はぁーいっ!」

「行ってらっしゃい」


「「……」」


呼び掛けに返ってきたのは、花丸をあげたくなる元気な了承と冷たい拒否。

思わず財布を持ち上げた手が固まる。



「…何だよ、行かないのか?」

「なぁぁぁんでそんなシロクマもビックリの冷たさなの傑ぅぅぅぅぅ!?そこは“オレも行く”って言うところでしょうが!!」

「どうせ荷物持ちさせられるんだろ」

「男の宿命だ!」

「子供に背負わせるな」

「えぇー兄ちゃん行かないの?一緒に行こうよ!」

「…駆が言うなら」

「オイィィィ!?何だその格差!年上を敬うって礼儀を知らんのかブラコン!」

「なら年上らしい所見せたらどうだ性格おっさん」

「…イタイ、心がイタイ」


前回といい皆的確に人の弱点突いてきやがってあん畜生。
私のライフはとっくにゼロだよ!



「…傑と買い物に行きたいの。オ・ネ・ガ・イ」

「き・も・ち・わ・る・い」

「ンなもん知ってるわ!つべこべ言わずについてこい!」

「…紗弥、今日の卵はお一人様いくらなんだ?」

「97円です!」

「それが本音か」



見るからにやる気のない傑を引きずる私に駆は微笑していた。
当の目的を知られてしまったからには協力を惜しむでないぞ子供達!

灼熱の太陽にも負けない熱さで家を出た私はいざスーパーと言う戦場へ向かった。

当然両手に花状態で。

うむ、余は満足じゃ。





−−−−

そして見事勝ち取った戦利品にホクホクしていた所…。

事件は起きてしまう。


「おっ紗弥じゃねーか?ひっさしぶりだなぁ!」

「どどどどどちら様でしょうか私にそんなムサゴツい知り合いいませんが」


涼しいオアシスの筈のスーパーが一瞬にして地獄へと変貌した。
真正面に立ち塞がるスマートな男は、爽やかな笑顔を携えて私に話しかける。



「相変わらずだなー、その性格。てか三年間苦楽を共にした仲間を忘れんなよ」

「何が『苦楽を共にした』だよざっけんな!お前が巻き込んだんだろ一方的に!」

「つれないコト言うなって」

「お前の記憶が良いように美化されてる件について問いただしたい」



毒を吐いてもこの脳まで筋肉バカには理解できないらしい。
正に暖簾に腕押しな状況を打ち破ったのは、私の後ろからひょっこり現れた天使さまだった。


「…紗弥ちゃん、誰?」


愛らしい上目遣いで尋ねてきたエンジェルボイスに、男への怒りも忘れて頬が緩む。
しまった何でデジカメ持ってこなかったんだ私のあんぽんたん!



「え、何々紗弥それ隠し子!?」

「ちょっと一回黙ろうか」


駆とコイツを天秤に掛けるまでもなく、私は駆の質問を優先して答える。
…傑ってば大人しいな、人見知り?



「ほら、この間話した高校の時の野球部キャプテン(筋肉馬鹿)」

「…あれっ。今聞こえないハズの声が聞こえた気がしたような」

「あは、もうボケが始まった?脳内筋肉馬鹿野郎」

「はい確実に聞こえたー!いま絶対聞こえましたー!
筋肉の何が悪い!
ていうかその子達紹介しろ!」

「バカは否定しないの?
この可愛い可愛い兄弟は、私のご近所さん。訳アリで預かってる。以上。さようなら」

「シロクマもびっくりの冷たさだなオイ!」

「さっきも使ったそのネタ!同じツッコミすんなよ!」



ああもうめんどい。
ムカつきはするが波長の合ったやり取りに自然と高校時代が回想された。




『紗弥ー!も、あンのサッカー野郎許せねぇー!まじ一辺シメてやんよ!』

『あ、そう。勝手にすれば』

『…』

『…なに、行かないの?』

『なに、お前は俺に一人で行かせる気なの』

『行けよチキンが。あんたの代わりに練習メニュー組んでるの誰だと思ってるんだ』

『ついてきてくれよぉぉぉ!寂しいだろぉぉぉぉ!?』

『知るかぁぁぁ!!男なら一人で戦ってこい!!』

『なんて非情なマネージャーなんだ…!ナイーブなキャプテンのガラスハートが傷付きましたー!こうなったら部員全員道連れにしてやる!!』

『だから巻き込むなっつってんだろ!!』




(ああ、あの後サッカー部と大乱闘になったんだっけ…)



変わらない、と言われたがコイツの破天荒な所なども昔のままだ。
苦悩の日々を思いだし青冷めていく私を不思議そうに見てくるので鳩尾に一発パンチした。


「イッテ!?何すんだ紗弥!」

「私の平凡な青春を返せ」

「平凡なんてつまんないだろー?…っていうかお前、子供たちは?」

「え―――、」





腹部を押さえながら私の背後を指差した所には、ひょこひょこする黒髪さえ見えず。


店内のBGMも人の話し声も耳から遠退き。



瞬時に全身から血の気が引いていくのが分かった。








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