「そーいやアンタ達って何か習ってんの?」 逢沢さんから息子の大会があるから預かって、って言われてたんだけど。 朝食の目玉焼きを頬張って聞くと、点となった四つのおめめが私を見つめていた。 いやんお姉さん照れちゃう。 「にやけんな気持ちわりぃ。ていうか紗弥…何にも知らないで俺ら引き取ったのか!?」 傑が玉子焼きを持っていた箸をこちらに向けて相変わらずな言葉を寄越してきやがったので、慣れた私も応戦する。 「ったりまえだろ!アンタらのお母様には多大なる恩恵を受けてたんだ、詳細を聞く余地もなく引き受けるにきまってんでしょ」 「いばんじゃねーよ忘れるから聞かなかったんだろ!」 「な…っ!?ふざけんなよ傑何でお前そんなに私のこと分かってんの!?」 「二日も一緒に居たら誰でも分かるっつの!」 箸を突きつけ合いの争いはヒートアップしていき、かなり話題からそれてしまっていた。 そんな醜い論争を鎮めたのは、鶴の一声ならぬ天使の一声。 「もぅ!兄ちゃんも紗弥ちゃんも箸で人を差さない!お行儀悪いよっ」 画像でお見せ出来ないのが非常に残念です今の光景。 上目遣いで頬っぺたに食べ残しつけてるとかそれ何て楽園。 にやけが止まらないのはデフォルトですもう。 「ごめんね駆!もうしないから、そのまま一枚撮らせて?」 「…お前いつか本気で通報されるぞ」 「大丈ー夫、私がこんなにデレデレなのは二人だけだから!」 「…変態め」 「どーも!駆、ココにお弁当ついてるよ」 「ありがとー紗弥ちゃん!」 その時傑に背を向けて駆の頬を拭っていた私は気付かなかった。 傑が照れて赤くなっている、世にも貴重なベストショットを逃してしまった事に…(畜生!) 落ち着いた私達(主に私か)は改めて朝食を再開させる。 最近手元にデジカメを常備させるようになったのは致し方ないよね。 可愛い奴が悪い。私悪くない。 「大分ずれたけど、結局二人は何で旅行いかなかったの?」 「それくらい最初に聞いておけよ…。サッカーの大会があるからだ」 私が今度は玉子焼きを食べながら尋ねると、目玉焼きに醤油をかけていた傑が呆れながら答える。 私は目玉焼きには胡椒派だな。 「サ、ッカー?」 「僕たち地元のクラブに入ってるんだ!」 出てきた単語に首を傾げると、サラダをもさもさ咀嚼していた駆が元気に言った。 好き嫌いしないなんてマジ天使ちゃん。 「サッカーねぇ、懐かしいなー」 「…もしかして紗弥、サッカーやってたのか?」 傑が目を輝かせて尋ねてきた。 何だお前可愛いな!サッカー馬鹿だったのか可愛いな! 「うんにゃ、私がやってたのは野球。高校からはマネージャーだったけど」 「そうか…でも野球って意外だな」 「良く言われる。でも好きだからさ。それにサッカーも少し出来るよ」 私の昔話に興味を持ったのか、ジッと聞き入る子供達。 純粋な瞳が恥ずかしくて、つい明後日の方を向いてしまった。 「あー…リトルの時は、足腰を鍛える訓練ってサッカーやらされて。中学はそのリトルチームの助っ人してたから。んで、高校が…」 懐かしの思い出は脳裏に焼き付いていて、まだ鮮明な事に驚いた。 しかし高校時代を思い返せば、次第に青ざめていく顔。 「紗弥ちゃん?」 「…紗弥、どうした?」 「うっ…高校はね、何でか野球部とサッカー部は犬猿の仲でさ…!事あるごとにお互い突っかかっていくから揉め事が絶えなくて! 真剣勝負だか知らんけどサッカーと野球合わせた“蹴り野”っつーので戦ってさ、男どもの破天荒な試合に私まで巻き込まれたんだよ…」 何度命を風前の灯火にしかけたか…と顔を覆って悲しみに暮れる。 流石の傑も辛口は言わなかった。 「ま、楽しかったから良いんだけどね。だからアンタ達も楽しんでやんなよ!」 「無理やりまとめようとしてないか」 「聞こえませーん。禿げたくなきゃもっと人生おおらかに生きな傑。それより今日も練習あるんじゃないの?」 私が時計を指せば慌てて食べ進めるハムスター(頬袋的な意味で) 可愛かったのでパチリとシャッターを切って、満足気に笑う。 コレクションは着実に増加傾向です。 「「ごちそうさまでした!」」 「はい、お粗末さま」 礼儀正しく両手を合わせる彼らに感心していると、準備にドタバタ忙しない音がする。 「ほら駆、早くしろ!」 「ま、待ってよ兄ちゃん!」 我が家も賑やかになったなぁとゆるく微笑む。 紗弥、と呼ばれて振り返れば、小さな頭身が揃って笑いかけた。 「「いってきます!!」」 嬉しいような、むず痒いような。 そんな気持ちを抱えながら、私も元気に返す。 「いってらっしゃい!!」 ハッピースマイリー! (笑顔は三文以上の得!) 「あ、言い忘れてたけど紗弥。今度は玉子焼きか目玉焼き、どっちか一つにしろよ。太るぞ」 「…ツッコむの遅いわ!だって両方食べたい気分だったんだもん!」 |