夢のような一週間から日は過ぎて



私のありきたりな日常が帰ってきた






「む…」


不満げな声で眉をひそめる。
手にしている買い物袋にあるのは牛乳パック。
しかし収納しようと思って開けた冷蔵庫には既に同じものが収まっていた。

兄弟がすぐ空にしてしまうのでストックするのが癖になっていたのだ。


「…こんなに飲めないっつーの」


しょうがない、今日の夕飯をシチューにして消費しよう。
決めたものの人参がないことに気付いて再び家を出た。



「いってきま…」

言いかけて口をつぐむ。


そうだった、もう答えてくれるちびっこはいないんだった。


****


何よりも充実していた七日間だと思う。
けど味をしめてまえばもう普段の生活には戻れなかった。


前の私はどうやって過ごしていたか、一人で何をしていたかなんて思い出せない。
静かな空間が寂しい。


私らしくない弱気な心に嘲笑して、人参を携え自宅の扉を開けた。


さて今日も虚しく一人ご飯しますかね、とリビングに足を踏み入れた瞬間。



「こら紗弥ちゃん!帰ってきたなら『ただいま』って言わなきゃダメでしょ」

「…ワォ。遂に幻覚を見てしまった。病院行かなきゃかなコレ」

「今更だな。紗弥はもう手遅れだろ」



…天使と小悪魔がいらっしゃいました。
寂しさのあまり頭が都合の良い幻を見せたのかと思ったらけど、どうやら違うらしい。


「っ紗弥ちゃん?」

「だから抱きつくなって暑苦しい!」

「…本当に…本物だ。羨ましいもち肌だ…」

「相変わらず気持ち悪いな」


両手いっぱいに抱き締めると、人肌の温度に甘いにおい。
それだけでひどく安心し、胸がスゥッと落ち着いた。


「え、でも何で…?」


疑問を隠せない私が尋ねれば、目の前に突き出された我が家の鍵。


「合鍵。返すの忘れてたから。ていうか近所なんだし一生会えない訳ないだろ」

「大げさだなぁ紗弥ちゃんは」

「そ、そっか…そうだよね…ハハ」


言われて見れば彼らの言う通りで、絶望にうちひしがれていた自分が少し恥ずかしくなった。
いい年した大人が馬鹿みたいだよ…!


「…なぁ紗弥」

「?」

「コレ、やっぱ持ってていいか」

「何で」

「何でって、そりゃ…」


様々な羞恥心に身を沈ませていたので傑の真意が図れず聞き返した。

しかし傑は途端に口ごもってしまう。
すると、真っ赤な顔した小悪魔ちゃんが威勢よく発した。



「だから!いつでも好きなときにここに居たいんだよ!ここは…落ち着くからっ」

「できるだけ紗弥ちゃんと一緒にいたいからでーす!」



―――ああ神よ、楽園はここにあったのですね。
今なら私、ガチで昇天出来ます。


お前ら…お前ら私をどうしたいんだ!


「…っもちろん365日24時間いつでもドンとこい!ちくしょう馬鹿、お前ら大好き!私、宮越紗弥は病める時も健やかなる時も変わらずお前らを愛する事を誓います!」

「ボクもちかいます!」

「変なこと言うな紗弥!誓わんでいい駆!」



こうして我が家はまた騒がしくなった。

七日間じゃ足りなかった思い出を、これからも綴っていけたら良い。

秋も、冬も、また次の季節も。


このカッコ可愛いちびっこたちが成人したら、お酒の肴にしてやろう。
そんなうんと遠い未来に思いを馳せて。




(眩しくて幸せなそれは)



「紗弥ちゃん、今日お泊まりして良い?」

「おうよ!紗弥お姉さんが何でも言うこと聞いたる!夕飯はシチューです!」

「紗弥、オレ今日カレーが食べたいんだけど」

「…カレールーがねぇよ」

「何でも言うこと聞いてくれるんだろ?紗弥お姉さん」

「…っ可愛い笑顔しやがって傑の小悪魔ヤロォォォォ!!」

「オレが嫌いになったか?」

「ばーろー好きに決まってらぁ!!買い物行ってきます!」



(…オレだって好きだよ。気付けバーカ)


−−−−−

これにて『姉俺僕』完結です!

無理やりまとめた感満載ですが気にしないで下さいすみません。

こんなノリが大好きで始めた連載ですが、無事に終える事が出来て良かったです。
傑さんがやたらと出張っているのは私の趣味です…。駆くんがあんまり出せなかったのが心残りで。

機会があれば番外編も書きたいと思っています。
駆視点でのお話や未来のお話など!

連載を続けてこられたのも、一重に閲覧して下さった皆さまのお陰です。
本当にありがとうございました!

11/04/04




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