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翌日――――部室に呼び出した祐介に思惑を告げる。




「…ちぃ、俺の聞き間違えかもしれないからもう一度言って」


「だから選手登録票に駆の名前書いていい?ゆーたん」


「ああぁやっぱり聞き間違いじゃなかった何言ってるんだ馬鹿!」


「うわ…ゆーたんがこんなに取り乱してるの初めて見た」


「それだけの事を仕出かしそうとしてるのはちぃだろ!?」


混乱のあまりあだ名呼びにも気付かない彼を落ち着き払った目で眺める私。



こんな姿ファンの子達には見せられないね。

一方的な険悪ムードを仲裁したのは、私の協力者である奈々だった。



「無茶は承知してるわ。けど、どうしても駆を公式戦に出させたいの…!お願い佐伯くん!」


「私からもお願い。このままじゃ後悔しか残らないよ。責任は全部取るから…」

二人で頭を下げると、向かいから深いため息が聞こえる。
断られても食いつこうと拳を握るけど、次に届いたのは意外な言葉。


「全く…俺が先にやろうとしてたのに」


“うちのマネージャー達はほんとカッコいいな”

と微笑する彼に私達は唖然とした。
真意を尋ねるように問いかければ、頼もしい声が返ってくる。



「俺だって一度も駆が公式戦出来ないままはイヤだからな。喜んで協力するよ」


「ほ…本当に!?」


「ああ、どうせ登録人数に余裕あるし。監督も見やしないだろ」


「ありがとう、佐伯くん」


イケメンに拍車をかける気前の良さに奈々の笑顔が綻んだ。
…え、何か…良い雰囲気ってヤツですか。



「な、奈々はあげないかんね!」


「「…千鶴?」」


「感謝はしてるけど私の奈々だから!いくらイケメンオーラでたぶらかそうったてこの目が黒い内は手出しさせないんだからね!」


ギュムッと奈々を隠すように抱きついて言うと、双方から哀れみの視線がじわじわ突き刺さる。

まるで私が空気読まないことしたみたいな…。


「…佐伯くん、ごめんね」


「いや、いいよ。…慣れてるから」


祐介が影を背負い、何故か庇った筈の奈々に無言の圧力を頂いた。

何でだ!






****



「なぁ千鶴…明日の試合、勝てると思うか?」



いつもの帰り道、固い声音が通り抜ける。
あまり弱音を吐かない彼が珍しく見せた不安。

少し言葉に窮したけど、はっきりと答えた。



「…あのスタメンじゃまず無理。優勝候補に挑む面子じゃないでしょ」


いくら祐介の技術がずば抜けてても、その能力を生かせる動きがなければ力は半減する。

それに祐介はトップ下じゃなくてボランチ向きだ。


「やっぱり守備の要だった国松さんがいないのは痛いよ。それに…」






傑も、いない






「…だよな、特にFWが弱い。正直、西島と榊じゃ湘南大付属のDFは破れないと思う」


言えなかった私を気遣ってくれたのか、祐介はその話題に触れなかった。
その機転はありがたかったけど、心は情けなさでいっぱいになる。


(まだ、引きずってるんだ…)



「…駆がいたら、可能性はゼロじゃないのにな」



祐介の言葉は白い息となって霧散していく。


それきり私達は口を開かなかった。



****



いてもたっても居られなくなった私が向かった先は、傑のお墓。

途中で買った小さな花束を手土産に両手を合わせる。



「…頑固野郎のせいで大事な弟の中学サッカー終わっちゃうかもよ」



良いの?これで―――



それは自分を問い詰めるように。

額に手を押し付けて、必死に祈った。






どれくらいそうしていただろうか。
必死過ぎて段々近づく足音には全く気が付かなかった。




「暗い時間にこんな場所で…肝だめしかい?千鶴」



どこか覚えのある低音、からかい混じりの口調はいつ聞いても腹が立つ。
眉を思いっきりしかめて、嫌悪感を振り撒きながら振り返った。


「……何でお前がいるんだよ――――シルバ…」




(望んでないんだけど)

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