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荒木先輩への宣戦布告を終えた私であったがそれは一先ず置いておいて。
まだ状況を把握していない奈々、駆に説明するために一同が集ったのはFCの部室。余談であるが凄く…男子高校生の部室です…。
許可が降りたら速攻で掃除したい。


そんな私の密かな決意を横に、岩城先生は事のあらましを話し始めた。


十年以上前からの伝統である、江ノ高FC対SCの代表決定戦。大きな大会の前に行われるこの戦いに勝てば、公認クラブとして活動出来るという。

なにがなんでも勝ちたいということ、そのためには目先の目標だけではなく、世界に向けて意識を持つこと。
そして、楽しんでサッカーをしたいということ。



岩城先生の巧みな言葉に駆が引き込まれているのが見てとれた。つい数分前までFCを辞めたいと言っていた人と同じにはとても見えない。そんなキラキラした目をしているということは、もう気持ちはとっくに決まっている筈だ。



「…千鶴は、知ってたのね。FCの楽しさを」

そんな光景を微笑ましく思いながら眺めていると、ふと隣の奈々が語りかけてきた。それに反応して、私は笑みを深くする。


「うん。去年、先生と荒木先輩と兵藤先輩に会ったんだ。冗談だろうけど、誘われたの。でも私ね、久しぶりにわくわくした。」

「…私も早く会いたかったなあ。こんなに面白そうなところ中々ないよね。」


奈々が表情を緩める。私はそれに同調して、未だに先輩達からもみくちゃにされている駆へ目を向けた。
不意に、そんな彼らのじゃれあいに巻き込まれてしまった岩城先生の言葉が思い出される。


「すごいよね。世界だって。」

「まぁ、ね。…最初は怪しかったけど。」

茶化すような物言いには苦笑いしか返せない。確かにジダンが地団駄はないと思う。兵藤先輩は本当に漫才研究会の一員なのかと疑う位には。

その『世界』という言葉に僅かながらも身体を強張らせた彼女に向けて、私は静かに言葉を放つ。


「世界…か。奈々は、どうする…?」


そう問い掛けた瞬間、今まで柔らかかった彼女の周りの空気がピンと張り詰めた。私はただ黙って横目で様子を伺う。




奈々が悩んでいることは薄々気付いていた。

それはまだ、駆には打ち明けられないことで。
私には言い出し辛いこと。


本当はそんなこと気にしなくて大丈夫だよって言いたい。けれど、優しい奈々はそんな言葉納得しないだろうから。



「…ねえ奈々。私は奈々が大好きだよ。」

「ど、どうしたのよ急に?」

「んー?いやね、大好きな奈々だから、私は何があっても奈々の味方だよって。奈々の人生だもの、後悔しない選択をしてほしいのさ。」

「………」

「もしその選択をして危うくなっても、私がいるよ。ヒロインのピンチにはいつでも駆けつけるのがヒーローですから!」



おちゃらけて両手を広げ、戦闘体勢を整える。私の大切な親友が、少しでも肩の重荷を軽くしてくれるようにと願って。


「待ってるよ。前は奈々がずっと私を待っててくれたんだもん。」


考えた。彼女が安心出来るような気の利いた台詞を。必死に探したけれども、在り来たりな常套句なんてどれもそぐわない気がした。
それならばと、私が言われて嬉しかったことを伝えた。忘れた日はないよ。奈々が私を支えて、味方でいてくれた事実、幼い頃、まるでヒーローみたいに私を守ってくれた恰好良い貴女を。
奈々が私のヒーローであるなら、奈々にとってのヒーローは私でありたい。







「…頼りにしてるね、私のヒーロー?」

「任せてよ可愛いかわいいマイヒロイン!」



小さな痛みを隠すように笑う姿は見たくない。
私も奈々を支えてあげられるようになれたらいいなぁ。
できれば今は、駆よりも。
いや、いいなぁじゃなくて、なるんだ。絶対。




あなただけのリトルヒーロー
(君の笑顔がみたいから)



「あのー…すいません。FCってここで合ってますか?入部希望なんですけど」

「あれっ的場くん?」

「えっ、桜井さん!?」


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