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「じゃあまた明日ねー!的場くん」
「うん。またね桜井さん」
どうも。的場くんという、可愛らしい見た目に似合うキュートな声をしている友達一号と別れて幼なじみと合流しようとしていた桜井千鶴です。
今の文章ちょっとおかしくないかって?
そう思ったあなた、正解です。そう、合流しようとしていたんです。
お約束と言いますか、迷子なう。
HRが長引いてしまい、先に行ってサッカー部見てるねと愛しの奈々からメールが来たのが30分前。
外には出たが奈々達の姿は一向に見当たらない。携帯にかけても出てくれなくて、軽く泣きそう。奈々、あなたの千鶴はここに居ますよ!
「千鶴ちゃん?」
しょんぼりしながら当てもなく歩いていると、不意に背後から聞いたことのある声が。
「…ひ、兵藤先輩ぃぃぃ…」
「こんなところでどした?逢沢くん達は」
「すれ違ってて合流できないんで助けてください」
きょとんとした先輩に事情を話すと、快く手を伸ばしてくれた。やだ何イケメン。
「お礼はデートでいいから」
「紅林先輩って本当に見境ないんですね。何か言ってやってくださいよ堀川先輩」
「諦めた方が良い」
なんてこった、仲間にまでこの言われよう、どれだけ軟派なんだ紅林先輩。ますます奈々には近づけられないな。
喚く紅林先輩を無視して堀川先輩にマネージャーの仕事などを聞いていると、不意に「あ」と兵藤先輩が呟いた。それに反応して顔を上げれば、そこには探していた人物達と、
彼の、姿が……。
姿が……?
「………………は、ぁ?」
「えぇっ!?じ、じゃあ千鶴、ここが同好会だって知ってたの!?」
「うん。え、むしろ知らなかったの?」
「「…し、知らなかった…」」
「…兵藤先輩」
「だぁってよ、本当のこと言やみんなSCに行くだろ!?こっちだって必死なんだよ!」
驚きと戸惑いが明らかに見てとれる二人の同じ様子に苦笑いひとつ。まぁ、本気で上を目指したい人に、実は同好会でしたー、とは説明しないか。というか状況を掴ませないようわざと説明しなかった兵藤先輩、何ていうか流石っす。
遂に奈々達と出会うことに成功した私だけれども、突然の岩城先生による『正式な部活じゃありません』カミングアウトで混乱した彼女らの対応を余儀なくされていた。
あ、公太に挨拶しそこねたな。
「え…それじゃ、同好会だから、公式戦…」
「出られないねぇ」
「荒木先輩…」
「漫才一筋らしいから、パスはもらえないねぇ」
分かりやすく目をぐるんぐるんさせた駆は、ショックのあまりとうとう気絶してしまった。びっくりして駆け寄る奈々に彼を預けて、私は振り返る。
騒ぎに乗じて逃げようとしているが、無駄にでかくなった図体のおかげで見つけるのは容易だった。
「――――お久しぶりです、荒木先輩。覚えてますか?桜井です」
「…え、あー、桜井ね!はいはい。漫才研究会は歓迎するよ!」
「ははっシラ切るのも大概にしてくださいよこのインチキ腐れキング」
「す、鋭い…!君のツッコミはさながら真冬の氷柱のように鋭利で冷たいな!新しい!」
「ツッコミじゃないわ嫌味だコルァァァァァ!」
「筋あるよ、イイネ!」
「F○cebookか!」
ていうか話を脱線させんな!
思わず胸ぐらを掴んで力の限り揺すると段々先輩の顔が青ざめてきた。周りがコソコソ言い合っているけど、私の怒りはちょっとやそっとじゃ治まらない。
「で、出る…リバー、ス…っ」
「言ったじゃないですか…」
「あ?」
「私の考えを変えてくれるって…不可能を、可能にする、ファンタジスタだって…!」
面と向かっては言いたくないけど私は、あの時のあなたの言葉に、すごく勇気をもらったんです。
江ノ高に行きたいって決心させてくれたきっかけだったんです。
だから、そんなあなたが今、何かしらあってサッカーから離れているのは、正直がっかりしました。
けど、
けどね。
「やっぱりサッカー、好きなんでしょう?」
眼鏡のレンズに隠れた、瞳が揺れた。
分からない訳がない、だって同じサッカーを愛する同士だもの。
一度救ってもらった恩は、必ず返します。
あなたが傷ついて、サッカーが出来ない状態なら。
私がピッチに引きずり出してみせます。
「…ねぇ荒木先輩。私に捕まったのが運の尽きでしたね」
未だお目に掛かったことのないあなたの魔法のようだと謳われる技術、発揮しないなんて勿体ない。
何より、好きを圧し殺して耐える表情を見たくないし、あなたには似合わない。
未だにカツアゲのようなポーズのまま、私は彼に笑いかけた。
「荒木先輩の本音を隠した分厚い殻、私が砕いてみせますから。
―――覚悟していてくださいね?」
ひくり、と彼が顔をひきつらせた。
準備万端、いざ出陣!
(見さらせ私の底力)
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