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傑が亡くなって早一年。


私達は三年生になり、中学最後の大会を県予選準々決勝まで勝ち上がった。

祐介はキャプテンを立派に務めチームを引っ張っている。

駆はプレイヤーとして部に復帰したけれど、長年の努力を分からず屋な監督が認めてくれず。
ゼッケンも貰えないまま中学サッカーを終えようとしていた。


「ああああ〜ムカつく!!あンのガンコ監督め!!」


明後日に試合を控え、緊張感を抱える部活終了時。
不機嫌を顕にする私に祐介からのお咎めが下る。

「こら千鶴。失礼なこと言うんじゃない」

「だってあの人駆の何も見てないじゃん!どっちが失礼だってのどっちが!」


反論する私に祐介は何も言わなかった。
彼もどうやら同意見らしい。

怒りの理由はその試合のメンバー表について。

熊谷監督が祐介に渡したリストには、先発はおろかベンチにさえ駆の名前がなかったのだ。

国松さんに頼んでまで監督を説得してもらったのに“実践では使えん”の一点張り。
不躾な物言いに、流石の温厚な私も堪忍袋の緒がぶち切れた。


「大体私は前からあの人が気に入らなかったの!傑が居るからってちっとも練習に来やしないし?見てない人が駆の何を知ってるのさ!?
あの努力が分からないなんてその目は節穴かっ」

「…とにかく落ち着け」


『……あっんの石頭監督ぅ〜』


猫が毛を逆立てるように怒りを爆発させていると、少し遠くから私と全く同じ考えが聞こえてくる。
心の声が出てしまったかと一瞬焦るが、意外にもその声の発生源は奈々だった。


「サイテーー!!!!」



「お、今すごいスカッとした」

「千鶴、お願いだから落ち着いてくれ」


ドパァンッと小気味良い音を立てて奈々が蹴ったボールは見事監督の石頭に命中。

痛みに悶える監督を見ていたら少しだけ怒りも静まったような気がする。

けどこのままだと愛する奈々が危ない。
親友を救うため、私は咄嗟に動きだした。


「……」


激怒した様子の監督がゆっくり振り返った時、私は奈々を引き寄せ、後ろで固まっている従兄を指さす。


「監督、こいつがやりました」

「んなっ!?ちょっと千鶴さん!?」

「歯をくいしばれっ!」

「駆っ!?」


なぜ、と言う駆の嘆きがビンタの合間に届いた。
うん、勇ましい身代わりだ。

解放された彼はおたふく風邪にかかったかと見紛う頬を押さえながら帰ってきた。


「ひどいよー…千鶴〜セブ〜ン」

「ゴメンほんとゴメン駆!」

「可愛い奈々の顔が傷つかずに済んだんだからいいでしょー。大丈夫、カッコ…良かっ、たよ…ふふっ」

「笑ってるじゃないかぁ!!」


肩を震わせて笑いをこらえる私にツッコむ駆を流していると、後ろからクスクスと嫌みな嘲笑。



「駆先輩ってほんとにあの逢沢傑さんの弟なのかなー!?」

「ありえねーよな、あのキャラは。ナゴミ系?」


一年生の軽い言葉にムッとしたので言い返そうと踵を返すも、先に彼らに近寄った人物がいた。


「おい一年、なにがおかしい?」

「あっキャプテン」

「す…すみませんっ」


キャプテン、と呼ばれた祐介の固い声音に慌てて取り繕う一年生。

祐介は声を荒げることもなく、ただ淡々と告げた。


「笑って見てる暇があったら駆を見習って部活の後も練習するくらいの根性見せたらどうなんだ?」


「練習なんすかアレ?
テニス部の壁打ち用の壁で遊んでるだけっしょ?」


一時冷や汗を流していた後輩の一人は、果敢にも最上級生に口答えする。
無言で彼の意見を聞いた祐介はクルッと背を向け去っていった。


「…あの壁のボールの跡をよく見てみるんだな」

祐介が残していった言葉に疑問を持ちながらも、後輩達は壁を観察し始める。
私は何となくその様子を眺めてた。


「…ったく、こんな壁がなんだってんだよ」

「!」

「お…おい…ボールの跡、全部同じトコに集中してんぞ」


やっと気が付いたか、とため息をもらす。
駆がシュートを当てていたのは壁の角。
つまりゴールの四隅を狙う練習をしていたのだ。

毎日毎日、キツイ部活の後に。

蹴ったボールが全て狙った所に当たるなんて、相当高い技術を持っていなければ出来っこない。


「…この辺走り回って練習してたよな?」

「ペナルティエリアのちょい外くらいの距離だぜ」

「20メートル近いぞ」

呆気にとられる後輩は、揃って駆の姿を目で追う。


「…すげぇ…」

「あ、あの人…なんでゼッケンもらえねーのかな?」


「それはあのガンコ親父が駆を誤解しているからだよ」


「「「うわっ桜井先輩!?」」」


一人言に返事をしたら三人にとても良いリアクションをもらった。
そんなに驚かなくてもいいじゃない…。

「今まで君達がバカにしてたように、固定観念にとらわれて駆の努力を知ろうとしないから…。本当ならレギュラーでもおかしくないのにさ、これじゃ駆が報われなさすぎるよね」


気まずそうに視線を外す彼らに苦笑して、それから口元を吊り上げる。


「…ま、だからってそう易々と終わらせたりはしないけど」


後輩曰く悪どい表情をしていた私は密かな計画に情熱を燃やしていた。




―――メンバーに入っていないのなら勝手に入れればいいんだから!



ルークの暗躍
(怒らせると怖いのです)


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