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変わりたいと思った。

変えたいと思えるようになった。


あの人のおかげでって言うのが少し癪だけど。


でも江ノ高は、サッカーを好きなままで新しい道を踏み出せる絶好の場所だと思うから。



「…だからね、私、外部受験を」

「あー、いいんじゃねぇ?好きにしろ」

「…え?」

「あ?」


久しぶりの二人揃った夕食。
言うなら今しかないと、口から飛び出しそうな心臓を必死に飲み込み告げたにも関わらず。

私の決死の思いは、“何馬鹿言ってんだお前”とでも言いたげな、眉を怪訝にひそめた表情により一蹴された。
スーパーゴール、桜井一青選手、みごと千鶴選手の顔面に決定打を叩き込みましたー。


「何だよ不満そうな顔しやがって」

「え、や、だって…少しは反対されるかと」

「めんどくせぇ奴だな…お前が選んで決めたんだから勝手にすりゃいいだろが」


めんどくせぇ奴だな、と二回も呟いてはビールを仰いで枝豆をかじる。
私も欲しいと枝豆の皿に手を伸ばしたが手堅くガードされた。ちっケチくさいおっさんめ。


「千鶴、もう一本持ってこい」

「まだ飲むの?少しは自分の歳と相談してよね」

「宛のプリンもな」

「だーかーらー見た目に反して可愛らしい趣味してんなよぉぉぉぉぉ!!何で酒のつまみが甘ったるいんだ!ギャップ萌えの欠片もねぇよ!!」

「そうか、お前の分はいらねぇんだな」

「ごちになります」


素早く冷蔵庫からビール缶とプリンを持ってきてあげる私、なんて出来た人間だ。後ろから現金な奴め…とか聞こえたけど気にしない。

最後の一本を渡すと、豪快に飲んではプリンをつつく。それを尻目に私もデザートを堪能。
ビールに合うかは分からないけど美味いです。


「…別にな」


ぽそりと吐き出された言葉に顔を上げる。
彼は片手で缶を揺らしながら斜め下を見ていたので視線が合うことはなかった。


「お前はお前のものなんだから、俺がお前に関して決める権利はどこにもないだろ。ガキはガキらしく、悩んで失敗して後悔して、せいぜい苦しみながら成長しやがれ」

「何それ辛い…」

「辛い?馬鹿言ってんな、あんだけ周りに仲間が居るくせに」


鼻を摘ままれたような衝撃が走った。彼はアホ面、と鼻で笑う。


「周りを、何より自分を信じろ。モチベーションが下がってちゃ何事も上手くいかねぇよ」

「…うん」

「ま、お前の親父の受け売りだけどな」

「お父さんの?」


驚いて聞き返すと、彼は一瞬ハッとして自分を責めるような舌打ちをして黙ってしまう。

久しぶりに彼の口から父のことを聞いた。
私を引き取ってくれた日以来だ。もしかしたら、今まで私に気を遣っていたのだろうか。


「あのさ、」

「…いいか、俺は今酔っ払ってる。これから言うことは明日きれいサッパリ忘れてる。よって追求すんな、大人しく聞いてろ」


本日一番の飲みっぷりを見せた後、有無を言わせない口調で言い放つと、彼はようやく目を合わせる。
あまりにも真剣な雰囲気に戸惑う私はついプリンをこぼしてしまった。


「お前がどこ行こうが基本的どうでも良いんだ、俺は」


(何なのこのおっさん意味分かんないプリン返せよちくしょー)


そのムードに相反して放たれたセリフは何とも投げやりなもので、思わず怒りでスプーンを持つ手が震える。しかし次の言葉は一瞬にして私の思考を停止させた。


「良いんだよ。お前が家(ここ)に帰ってくるなら。アホみたいな顔で俺を出迎えてくれりゃ、それで良い」


狐につままれたような顔になるのは致し方ないと思う。
な、何だそれ。何だよそれ!


「も、もう一回言って!携帯に録音するから!」

「誰がするかクソガキ」

「今日は特別にもう一本飲んでいいよ!」

「魂胆が見え見えなんだよクソガキ」

「が、頑張るから!それに、私の帰る場所は一青さんが居るここだからね!」


赤い顔で喧嘩腰なのが情けないけど、今はこれが精一杯。
それでも感じ取ってくれたのか、彼は短く返事を返した。


「…ね、お父さんとお母さんのこと教えてくれない?」

「千鶴…」


悲しくなるから、辛くなるからずっと避けてきた話題。
でも今はそんな陰鬱さを少しも感じなくて、素直に知りたいと思った。
私の知らない両親が知りたい。
一青さんは二人とどんな時を過ごしていたんだろう。

彼にとっての両親とは、また両親にとっての彼とはを想像してみたい。
そう考えるとワクワクしていた。


「…俺は酔っ払ってんだ。長くなるから覚悟しとけよ」

「うん、ありがとう!」


私の返事に口元を緩めた彼が両親との思い出を語り始める。
いつもより穏やかな調子で話す彼の瞳は、とても優しい色を帯びていた。



長い雨が終わったよ
(見えたのは温かく包み込む虹色の)


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