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ずっと考えることを放棄してきた。
辛い現実から逃げて、逃げまくって。
そうしてのうのうと生きてきた代償がこれだと言うのなら、私は甘んじて受けなければならない。
「傑を言い訳にして、か…全くその通りだよね」
まざまざと現実を突きつけられた。
祐介が言ってくれなかったら私は今も気付かないままだっただろう。
あれから祐介とまともに会話をしていない。
お互いがお互いを避けているというどうにもならない状況に陥っている。
上手くいかないもんだなぁ。
一人で居るとどんどん気落ちして全く勉強がはかどらない。
外に出て気晴らしでもしようと重く感じる体を動かした。
「うーみーは広いーなおーきーいなー!」
積もりに積もった鬱憤を大海原に吐き捨てれば少しは楽になるのでは、なんて考えは砂糖より甘かった。
ザザーン…という寂しいさざ波の音と周囲の人々から浴びせられる奇異の視線しか返って来なかった。
どちくしょう、世間は厳しいな。
いいよ別に!イタリアにいたときもアドリア海に向かって叫んだし!
そんな視線慣れてるし!
「つーきーはー昇るーし日はしーずーむー!」
「ぶっは!」
明らかに悪意を含んだその笑いを怪訝に思ったのは、聞き覚えのある声だったから。
嫌な予感がして恐る恐る目を向けるとそこには見間違える筈もないシッポ髪。
しつこく漫才トリオを組もうと勧誘してきた人。
冷めた対応にも関わらず、待ってるからな、と快活に笑った人。
「運、良かったな。元気か?桜井」
「誠に遺憾ですがね…荒木先輩」
顔をしかめて可愛いげのない返事をしたのに、彼はまた笑い声をあげた。
どちくしょう、世間は狭いな。
腑ぬけた私を貫く弾丸
(彼の笑顔は“彼”とは違うのに、彼と“彼”は何かが近かった)
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