02



新しい出会いを待っている

早くおいで

桜の花弁に導かれて

僕らは待っているから



act.1


「れぇ〜ん…そんなヨチヨチ歩きじゃグランド着く前に今日が終わっちゃうよ…」

大の男を引き摺って草地を歩く女とは何て異様な光景に映ることだろう。

入学式を終えた日の放課後の醍醐味と言ったら部活見学なのに、彼は隙あらば逃げ出そうとしている。

青ざめた表情の少年は三橋廉。
そんな彼をどうにか進ませようと引っ張る少女は水無月響という。


彼女達は県外受験生であり、仲の良い幼馴染みである。
しかし今二人を取り巻く空気はとても穏やかではない。


「見るだけでもグラウンド行かなきゃ始まらないでしょーが!今帰ってもどうせ投球練習するクセに!」

「うぐぐ〜〜っ」



一向に進展しない押し問答を繰り広げていた所、背後から誰かに肩を掴まれた。
(凄く力強くて痛い!)


恐る恐る後ろを振り向くと…



「あなた達、野球部に入部希望?」




輝かしいオーラ溢れる美人が満面の笑みで二人を見つめていた。

その気迫に押されてしまい、あれだけ強気だった響でさえ呑まれて一言も発せない。

しかしこの女性から聞こえた"野球部"のキーワードにいち早く反応した彼女は、廉に否定される前に返答する。


「野球、興味ない?」

「いえ…」

「はいっ大好きです!入部希望です!」


とたんに女性の顔つきが変わり、目の輝きは一層強くなった。

肩に置かれていた手が素早く腕に回り、有無を言わさずグラウンドへと導かれる。
抵抗する廉をいとも簡単に連れていく彼女の筋力に感心しつつ、その正体は誰なんだろうと疑問に思う響。

先ほどより奇妙な光景になるけれど、当初の目的だった野球部へは近付いた。



遠目に盛り上がったマウンドが見え、何人か生徒が見受けられる。



(ここでなら、廉がちゃんと野球できるかな)



その時響の心の大半を占めていたのは、廉とは対称的な"期待"の二文字。


何故かは分からないが、この高校に来た時からずっと"ここなら大丈夫"という気がしていたのだ。



(どんな人達なんだろう、どんなチームになっていくのかな)



早まる心音に引かれるように唇は弧を描く。





どこまでも続く地平線に吸い込まれていく青空。
芽吹きを伝える風の香りと舞い上がる桜。

それら全てが目新しく感じ、まるで門出を祝われているみたいだ。




「もう二人来たよー!!」



女性の意気揚々とした声を受けた新入生が一様に視線を投げ掛けた。

(うわあの人目付き悪ッ)





(彼らと彼女の三年間が、今始まった)







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