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「おーい、マネージャー!
スプレー頼む!」


「はいっ直ぐ行きます!」



「あ、先輩!洗濯物なら私が干しておきますから」


「あら、ありがと!」




俺が彼女について知ったこと。

それはスゲー可愛くて、マネージャーとしてめちゃくちゃ敏腕だってこと。



四話



千鶴ちゃんが転校してから一月が過ぎた。
今ではすっかり皆に馴染んだように見える。


同じクラスで同じ部活で。
しかも傑さん達の従妹で祐介と幼なじみっておいしい設定の彼女に興味を持たない訳がなかった。


ここしばらく彼女を観察していて分かったのは、その気配りの良さ。

真面目な性格によるものか、仕事を覚えたら自主的にやってるし全く手を抜かない。


最初は傑さん目当てで入ってきたのかと思ってた。(従妹だから仲良いし)(実際そんな目的の子もいる)

けれどそれはここ数日の働きを見ればひどい勘違いだったのだと思い知る。


「千鶴ちゃーん!!」


 がばっ   ひょいっ


「中塚君、どうしたの?」

「…見事なスルースキル」


たまたま目に入った彼女の後ろ姿にいたずら心が踊り、お得意のセクハラアタックを仕掛けようと小さな背中へ飛び込む。
と、後ろに目がついてるんじゃないかと錯覚する程華麗に避けられ俺は固い地面に突っ込んだ。

そして何事もない風を装って尋ねてくる彼女の冷静さに完敗の親指を立てる。


「いや、何を真剣に書き込んでるのかなーってさ!」


しかしセクハラ大王として日々女子マネから制裁を受けている身は簡単にはへこたれない。
さっと冷たい土から起き上がって彼女の隣に座り本題に持ち込んだ。


「ああこれ?中塚君も見る?」

そう言って彼女は手にしていたノートをこちらに寄せる。
距離が縮まって沸き上がった不謹慎な気持ちを押さえながら覗いたのは、何やらたくさんの数字の羅列。


「んーどれどれ…パス成功率と…シュート数?」

一番上に書かれていた題名を唱えれば、『正解っ』と彼女が笑う。


「これも仕事の内だって聞いたからやらせてもらったんだ」

「え、でもめんどくさくねぇ?ずっと試合観てなきゃじゃん」

「そこが楽しいんじゃん!」


俺だったら自分が出てない試合なんか観ててもつまらない、そう顔にすると思いもかけず彼女は声を張った。


「上手いプレーがあったら自分に生かせるし、分析力だってつくじゃない。
人から学ぶものって多いよ」

「…千鶴ちゃんってさ」

「うん?」

「サッカー、好きだよな」


俺に語った彼女の表情はとても生き生きしていて、彼女がこの部活に入部した本当の理由を理解した気がする。(不純な動機ばかり考えてごめんな)


彼女は傑さんに似ていると思った。


好きなんだ  きっと

ただただ純粋に  サッカーが好きなんだ


その確認のような問い掛けに、隣のマネージャーは真ん丸な瞳をぎゅっと細めて元気な返事を返した。




「もっちろん!大好きだよ!」




(見習ってみようと思いました)




(中塚)

(へ、ななな何スか傑さん、今日はまだセクハラしてないッスよ!?)

(…今日は…?そうじゃなくて。さっきのゲーム、中々良い動きだったぞ)

(……え、)

(ディフェンス上達したじゃないか)

(…っ!!あざまっす!!千鶴ちゃーん、俺やったぜーーー!!)


(?何かよく分かんないけどおめでとー!)


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