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すっかり暗くなった夜の公園で、私と奈々は駆を待っていた。


茂みに隠れながら私は目の前の親友を見つめる。



「…私、初めて夜の練習に来たけど…ずっとその姿でやってたの?」


「そ、そうよ。悪い?」


彼女―――宇宙人の覆面を被った奈々はぎこちなく視線を反らした。



「いやぁ…視界狭そうだし良い訓練にはなるよね、うん!」


「思いっきり棒読みじゃない。言っておくけどこれはか、駆が昔くれたの!私がこんなマスク買うわけないでしょっ」


「(あー可愛いな)うんうん、分かってるよー」


「もうっ千鶴!」


必死に言い訳をしてくる奈々が可愛くて緩んだ頬のまま彼女に擦り寄る。
束の間の触れあいに和んでいると、一つの人影が現れた。



『はぁーー、結局ここに来ちゃった…。ま…いいやリハビリなんだし。未練がましいこともないよね』



「!来た…」

「千鶴は待ってて。私が行くから」


ボールを軽く弾ませやけくそに蹴った駆に向かっていく奈々を見送り、二人を見守る。



「なっ!?あ…あんたは…」


突如の奈々の登場に駆はひどく狼狽していた。
正体を尋ねるも無言で挑発してくる奈々にイラついた様子の駆は声をあらげる。


「いい加減にしてよ!兄ちゃんじゃなかったらどこの誰なんだよ!!
なんのために僕にからんでくるんだ!!」


しかし私は駆のこの言葉に正直開いた口が塞がらなかった。


ダッと奪ったボールで仕掛けていく宇宙人マスク。


「!くそっバカにしやがって!!」




(ば、お前は本物のバカ野郎だぁぁぁぁぁぁぁあ!!)


そう叫びたくて仕方なかった。
え、あの子は真剣に傑だと思ってたの?
傑と駆の身長差がどれだけあるか分からないの?

気付け宇宙人マスクとお前の身長がほぼ同じなこと位!!


鈍感過ぎる従兄に怒りを隠せないでその場に座り込む。
何だか駆の将来がものすごく心配だ。
詐欺とかに引っ掛かる典型的なパターンですよそれ!



「来いっ!!一対一だっ!!」

その声に立ち上がって見ると、奈々扮する宇宙人マスクは駆の左脇にボールを寄越した。

確か以前も同じことをしたら、彼は無理に腰を捻って右で受けたらしい。
左を使うのを恐れてだろうがそれでは一瞬で奈々にやられてしまう。

けれど今回は違った。


「うおぉぉぉぉおおおーーっ!!」


((え?))


何と駆はあれだけ避けていた左足を構えたのだ。
その姿はまるで傑に見えて、私の動きが止まった。


「正体を…見せろぉーーーーっ!!!!」


凄まじい勢いで放たれたシュートにハッとし、慌てて駆け出す。


「危ないっ奈々!!」


「きゃああああぁっ!!」


「奈々!!」


「え?千鶴!?」


ボレーシュートは奈々を掠めていき、私は倒れかけた彼女を支えた。


「奈々っ大丈夫!?怪我は!?」

「ありがとう千鶴…平気よ」

「ご…ごめんついムキになって!大丈夫だった?ていうか千鶴、奈々ってもしかして…」


謝りながらやって来る鈍感従兄を下から睨み上げると、一気に彼は青ざめていく。


「…もし奈々に掠り傷一つでも付けてたら顔面にボールめり込ませる所だったぞバカ野郎」

「ひっ!?」

「千鶴、本当に大丈夫だから。……駆」


今にも掴みかかりそうな私を制して、奈々は覆面を外した。
彼女のブラウンの綺麗な髪が夜空に棚引く。


「う…うそ…、セ…セブン〜〜!?」

「気付くの遅すぎだろ!」

「ごめんね駆、黙ってこんな…」


私と駆が間抜けなやり取りをしている間も奈々は複雑そうな、最初よりぎこちない表情をしている。


「宇宙人マスクがセブン…てゆーかなんで!?ねぇ…なんでこんな…」

「それより分かってる?」

「な…なにが?」


戸惑う駆に奈々は諭すような口調で答えた。


「今…駆




左足でシュートしたのよ」



「ものすごいボレーシュートだった…まるで――――」


奈々は私を一瞥した。
私も奈々と同じで困惑が渦巻いている。

…そう、あれはまるで彼のような―――


「ぼ…僕が左足で…左で打ったの?今のシュート」


打った本人も無意識だったらしく驚きを見せていた。



(…傑、なの?)


私の中を駆け巡る例え様のない感情に胸が詰まりそうになり、駆から目を離す。

壁に跳ね返ったボールが風に吹かれて静かにゆらゆら揺れていた。



(何を確かと言えば良い)

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