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鎌倉中央病院――――。


意識を取り戻した駆を見舞うため私たち四人は集った。


「…で、もうシャキッとしてるんだよね。駆のヤツ」

「うん、起き上がれるくらいまで。お医者さんもびっくりの回復の早さだって」

「でもまだ知らないんだろ?
なんて声かけてやっていいかわかんねーよ」

「だな…」



奈々たちのやり取りを聞きながら私が思うのは駆のことばかり。

駆は傑が亡くなったのを知らない。
恐らく今日耳にするであろう辛い事実を、果たして彼は受け入れられるだろうか。


一抹の不安を抱え、重い足取りで病室へ赴く。



「あ、そうだ。奈々、私その花束花瓶に生けてくるよ。病室を往復するの手間だし」

「そうね…でも私も一緒に、」

「いや、俺がついて行くよ美島さん」


奈々が抱える花を見て出した提案は何だか堂々巡りになってしまい、思うように進まない。
心の中で小さく悔やんで、打開策を出す。



「花瓶持ってくるのに二人も必要ないでしょ?みんなは先に行ってて。奈々に会えれば駆も喜ぶから」


笑顔で押し通すと彼らは渋々引き下がった。
けど私も早く駆に会いたいのは同じだ。
急いで戻ろう、と今来た道を早足に引き返した。




****



『うそだぁーーーっ!!』


目指していた目的地から駆の尋常ではない叫びが聞こえ、やはり不安が的中してしまったのだと気付く。

一目散に扉を開くと、女医さんらしき女性に駆は平手打ちを食らい、乾いた音が響いた。





「そうやって暴れて―――お兄さんにもらった命を台無しにするつもり!?」




(まさか、心臓のことを…!!)


その女性の言葉にみんな疑問符を浮かべていたけど、意味を知る私は焦って彼女に駆け寄る。


「や、止めて下さい!駆はまだ起き上がったばかりです!」

「「「「千鶴(ちゃん)!?」」」」



――それはみんなの前で言って良いことじゃない――っ!


そう思って見た彼女は、
何故か薄く笑っていた気がした。
いきなり私が現れて四人が驚いていたのに対して、そぐわない表情は彼女への不信感を抱かせる。



「駆っ」


ガチャッと開けられたドアから駆の両親が入ってきて、私たちの視線はそちらに注がれた。
おばさんが泣きそうな顔で駆を抱きしめる。


「ごめんね駆。言えなかったのどうしても…。だから峰先生にお願いして…」


瞬きせず聞いていた駆は、もう暴れなかった。


「ごめんなさいね、やっぱり私たちの口から言うべきだったわ」






「母さん…兄ちゃんが…死んじゃったの?
ほ……ほんとに…」


唇をわなわなと震わせ、やっと事実を受け入れた駆は、母親にしがみついて大声をあげて泣き出す。


同じように震えていた私の手を、痛いくらいギュッと握ったのは祐介だった。


思わず祐介を見上げれば、千鶴、と小さく呼ばれる。
触れた手の熱が彼の存在を確信させて、不思議と震えも治まっていった。

すると力を弱めて優しく包む大きな掌。
繋ぎ返して、室内に反響する駆の悲痛な声を聞きながら立ち尽くした。




(無力な自分が心底嫌いだ)












「…やはりもう少し後にした方がいいと思います。あの話をされるのは」

「そうでしょうか…」

「はい。正直申しあげて精神的にどんな反応を示すかまったく読めません。プラスに働くことも考えられますが最悪の場合錯乱してしまうケースも考えられます…」

「そうでしょうね…」




病室の外で駆の父親と峰が隠れるように会話するのを偶然聞いてしまった人物がいた。

そしてその時少女は、千鶴が頑なに嫌がっていた核心に触れることになる―――。





「なにしろ尊敬してやまなかった兄の心臓を移植されて―――生き延びたんですから」


少女…奈々は驚愕に目を見張った。


「(えっ す…傑さんの心臓を移植…!?千鶴はそれを知って…?
そんな…うそでしょ!?)」

複雑な気持ちの奈々が視線を投げ掛けた二人。
二人がそれに気付くことはなく、駆の嘆きだけがこだましていた。




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