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お父さんとお母さんがいなくなった



傑もいなくなった



神様はあとどれだけ私の大切な人を奪えば気が済むのかな













『…しかしひとつだけ―――弟さんを救える方法があります』


亡くなった傑の心臓は駆に引き継がれた。
奇跡的に手術は成功し、駆は一命を取り留める。

眠り続ける駆の側を頑なに離れようとしなかった私を迎えに来たのは祐介だった。


「…あの事故があった日から一睡もしてないんだってな」

「ん…」


一歩一歩が重くいつもの倍歩くペースが遅い私に合わせてくれる祐介の問いに生返事しか出来ない。


自分でも不思議な位眠くないのだ。

もしかしたら、私は眠りたくないのかも知れない。



眠って目が覚めても、傑がいなかったら。



嫌でもその事実を受け入れなくちゃならないから。

だから私は、眠ることを恐れているんだ。

これはまだ悪い夢を見てるだけなんだって。








(馬鹿な、私)


そうやって現実から逃げようとする己を自覚しているのに止めようとしない、弱い自分に心の中で嘲笑。


両親が亡くなった時も、私は逃げ続けた。
でも、傑が前を向かせてくれたから。
私はまた笑えるようになった。






―――じゃあ、今はどうすればいいの?



―――私はどうやって前を向けば…











「千鶴!」


ハッと我に返ると、難しそうに眉を歪ませる祐介と自身の家が見えた。

いつの間に着いたんだろう。

そんな記憶でさえ曖昧になってきたのが怖くて、祐介の顔も見ずに鍵を差して玄関を開ける。


「お、送ってくれてありがとう。心配しなくてもちゃんと睡眠はとるから―――…」




じゃあね、と言う前に影が射し、私の力ではない誰かによって家の中へ押し込まれた。
いや、抱き込まれたという表現の方が正しいか。


でもその正体は一人しかいない。






「…ゆう、すけ」


「何で泣かないんだよ…」

「―――え」


驚きながら彼を呼ぶと、怒りを含んだ声音で呟かれる。
言葉の意味が理解できず短く発したら、彼はより腕に、言葉に力を込めた。





「そんなに認めたくないか?
傑さんが死んだこと」

「――――――っっ」


反射的に体が強張り、祐介を押し返そうとするけど全くびくともしない。

耳が、目が、感覚が、その全てを否定する。





「お前が逃げようとするなら俺が言う」

「い…や、」


「いいか、傑さんは事故にあって死んだ」

「やだ…っやめ」


「いないんだよ、お前が求めてる傑さんは、もういないんだ!」

「っ」


わざと耳元に突き付けられ、私にはもう抵抗の余地がなかった。

それを察した祐介は体を離し、両手で私の頬を包んで正面から覗き込む。
私の瞳には、泣き出しそうにクシャクシャになった彼の表情が映った。


「嘘じゃない。夢でもない。
……現実なんだよ、千鶴」




分かってた



「今のお前を見て傑さんが喜ぶと思うか?…違うだろ。俺、何度も言ったよな」


でも私は臆病者だから



「お前が泣きたい時も笑いたい時も、俺がお前の側にいるって」



一人じゃ泣くことも出来ないの



「そんな単純なことまで俺の前で我慢するな」

「…ぅ…っ」



祐介の顔が滲んで見え、目が溶けそうなぐらい熱い。
それが涙だとぼんやり気付いた時、私は彼の腕の中に。
今度は抗わなかった。




思いきりシャツが私の流す涙に濡れても彼は、ただ黙って抱きしめて背を撫でていてくれた。

その温もりが涙腺をさらに刺激して、寂しい、苦しい、辛い、悲しい。

思い出さないようにしていた気持ちが一気に溢れだす。


でも、それで良いんだと。

彼が言ってくれたから。




私はがむしゃらに抱きつき久し振りに子供みたく泣き叫んだ。





(だから泣きます)




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