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夢を見た
すごく すごく幸せで
残酷なまでに幸せだった
でも大丈夫だよね?
だってこれは夢なんだから
「寝覚め悪いー…」
嫌な夢で起きてしまった。
時計を見れば普段の起床より一時間ほど早く、まだ朝日は昇りきっていない。
「…でもどんな夢だったっけ」
内容は綺麗さっぱり抜け落ちているけれど、非常に苦しかったのは覚えている。
「まぁいいか。今日は忙しいから気にしてらんないし」
あまり小難しいことを考えたくはないので、短く自己完結して準備に取りかかった。
****
身支度も家事も終え、登校までの時間をサッカー雑誌で潰していた最中。
ふいに携帯が震えて通話を促す。
「はい」
『おはよ千鶴』
「傑?おはよう…」
相手を確認するのを忘れてボタンを押すと、昨日の夜振りに彼の声がした。
朝方だというのに、いや、今の傑は近年稀にみる上機嫌で少し気にかかる。
『なぁ千鶴、俺今日スゲー良い夢見たんだ、最高の』
「へ、ぇ…どんな?」
何故か胸がツキンと痛み、相槌がつっかえた。
でもそれを知らない傑は弾んだ声音で私に話す。
『日本代表になってワールドカップで優勝する夢!
駆が俺のラストパスでゴールして決定打になった』
『それでな、ベンチの所には同じサムライブルー着た千鶴達がいて…俺と駆が皆に向かって優勝杯を掲げるんだ』
「それは正に私達の夢だねぇ」
傑の最高の夢に私や奈々も存在していたのが嬉しくて、つい顔が綻ぶのを我慢出来ない。
『だろ?だから俺、意地張るのは辞めてちゃんと駆と話し合おうと思う』
「…そっか。私も説得しようと思ってた」
『…昨日レオがテレビで言っててさ。今の日本に足りないのは決定的な仕事が出来るFWだって』
「…別にシルバなんかに指摘されたくないし」
憎き相手の名を聞いた途端、唇を突き出してあからさまに態度を変える私を傑が苦笑いするのが分かった。
『そう嫌ってやるなよ。
事実得点力に欠けてるんだ。
…日本にはエリアの騎士がいないからな』
「ピッチの王様の信頼に応えられる勇猛果敢な騎士、ストライカーか…」
『ああ。駆が目覚めてくれれば全国は…いや、世界だって狙える』
「私もそう思うよ。
じゃあ今日は皆で駆の説得大会だね」
そんな風に呟けば、スピーカーから微かに笑いが洩れてくる。
傑の調子が良くなっているのを感じ、自分の事のように嬉しくなる筈なのに。
胸の痛みは引いていくどころかどんどん増していく。
鋭い刃物で刺すような感覚は息苦しささえ催した。
『……千鶴、笑わないで聞いてくれよ?
お前がいてくれて本当に良かった。俺を助けてくれてありがとな』
―――――――ズキンッ
「っ――――!」
今までとは比べ物にならない激痛が走り、思わずその場に膝をつく。
でも傑には悟られたくなくて呻く声を必死に堪えた。
『千鶴にはどうしても言いたくてさ。本気で思ってるんだからな?
今度改めてお礼するよ。
それじゃ、また学校で』
私の中で鳴り響く警告音に、嫌な予感が沸き上がる。
「待って、すぐるっ―――!」
咄嗟に呼び止めた声は外線が切れた音に掻き消されてしまう。
私の唇からは乾いた音が漏れだし、呼吸が困難になってきた。
「(こんな時に過呼吸なんて…!)」
どうして今、持病が起こったのか分からない。
動かない体に鞭打ち、うずくまって治まるのを待つだけの無駄な時間が憎らしい。
長い苦しみに耐えながら、私はふと今朝忘れた夢の内容を思い出した。
そうだ、あれは…
お父さんとお母さんがいなくなった時の夢だ――――
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