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一人ボールを蹴りグラウンドに佇む彼のため息は、後悔にも憂いにも取れた。


「だから素直になれって言ってるのに」


急に現れて足元のボールを奪っていった私に驚きもせず、苦虫を噛み潰した表情を崩さない傑。

軽くリフティングをしながら、敢えて何でもない風を装って告げた。


「でもさ、いつか伝わるよ。必ず
だって兄弟だもん」



大好きなサッカーという固い絆で結ばれている彼らに伝わらない筈がない―――


ボールを傑に戻し言外にそう示せば、受け取った彼は少し笑った。


「…だな」

「落ち込み終わった?なら早くミーティングしよう!キャプテンいないと始まらないよ!」

「ああ。……千鶴」



並んで歩き出して、言った彼は本当に嬉しそうだった。




「あいつスゲー頑張ったよな。
ホントよくやった」


「…私じゃなくて本人に直接言ってあげなさいってば」


呆れ気味に返すと黙り込んでしまう様子に、まだまだ道のりは長そうだ。と遠くを眺めた。


****



『マネージャーのおめーにそこまで言われたくないわー!』

『ぎゃぁぁーーーー!今のは祐介だろー!?ギブギブーーーっ』




「…わぁ、哀れ駆…」

「たく…」


部員達の流れに戻ると、お馴染みの三人組が和気あいあい(?)と目立っているのが見えた。

明らかに理不尽な攻撃を受ける駆に同情するけど、傑は思いっきり白い目をしている。
そして毅然と彼らに近づいていった。



「なにやってんだお前ら」


「!?あ…キャプテン」

「駆しっかりしろー」

「千鶴!」


突然の私達の登場に、公太や祐介が声を上げる。
けれど傑は地に伏せる弟に目もくれず、ぷいと前を向いた。


「佐伯と中塚はミーティングだ」

「「は…はい!!」」

「マネージャーは紅白戦のデータまとめて持ってこい」

「…分かりました」


さっきまで微笑みながら駆を称賛してたのに、皆の前だと途端にクールな主将を演じる彼。
そんな様子を見て一言耳打ち。





「ずっと思ってたんだけどさ、傑ってツンデレだよね」

「………」


ぐりぐりぐりぐり


「い、イテテテっちょ、拳骨、しかも骨のとこ痛ッ」


どうやら禁句だったみたいでした。


****


データをまとめとけ、と頼まれても私は途中から見ていたので詳しい情報は得ておらず。
同じ使命を預かった駆と手分けして奈々を探すことにした。


「あー真面目に痛かった…。
本当に容赦ないよな傑」




「あ、千鶴…」


未だ悲鳴を上げるこめかみを押さえながら歩いていると、前から涼やかな声がして探し人がこちらに走ってくるではないか。


「奈々ぁー!あのね、紅白戦のデ」

「千鶴も一緒に来て!」


「へ?ど、どこに!?」


満面の笑みで抱き着こうとするも、真剣な顔の彼女がものすごい力で私を引っ張っていく。
急な展開に私は何の抵抗も出来なかった。




「な、奈々ちゃーん?一体どちらに向かっているんでしょう?」

「傑さんの所よ!駆を試合に出してもらえるよう説得するの。千鶴も手伝って!」

「ええええええ」


何やら意気込んでいる彼女の目的を知り驚愕するが、彼女は歩みを止めない。




うん…それは無理だろう、多分




頭の片隅で確信めいた予感を浮かべていると、いつの間にか最初に駆達と別れた場所へ戻ってきてしまった。


「キャプテン」


奈々よ、悪いことは言わないから止めておけ







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