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「千鶴姉ちゃんってスグ兄とどうなの?」




「………何が?」



あの後、『もう遅いから泊まっていきなさい。良いわね?』
とこちらの意思はハナから聞いていないおばさんからの(強制的な)ご厚意により私は美都の部屋に一泊させてもらう事になった。
(洗濯物とか明日の授業とか問題はあるんだけど)
(押しに弱い自分ドンマイ)



お風呂も入り寝るのみとなった所で美都にかまされた質問。

未だに意図を理解していない私に、美都は頬っぺたを膨らませて再度尋ねた。



「だぁかぁら!スグ兄と付き合ってるかって聞いてるの!」


「はっ!?な、ないないそんなの!」


あまりに的外れな内容に、首が痛くなる程否定する。

不満そうな美都が何か言う前にすかさず口を挟むのも忘れない。


「そんなの傑に失礼でしょうが!傑にはもっと美人でスタイルと包容力抜群な大人のお姉様が似合ってるよ!」

「あんだけイチャついてて良く言うよね〜。で、本音は?」

「嘘偽りない本音です!」

「…まぁそういう事にしといたげるよ。私歯磨きしてくるね」


これ見よがしに肩をすくませる彼女は部屋から出ていった。
つまんなーい、とか言われたけどお姉ちゃんは知りませんよ。


(いや確かに好きって聞かれれば好きだけど家族的なものだし…。でも美都みたく端から見ればイチャついてるように見えてるのかな…。私はスキンシップのつもりなのに)



「はっ!もしやこれがカルチャーショックと言う奴か…!?私が海外にいる間に奥ゆかしき日本の美徳を失ってしまったのかも…」





「起きてるか?千鶴…」



「っ異文化コミュニケーション!?」



「…」

「待って今のは不可抗力なの自分でも変な叫びだったって自覚してるからやめろそんな目で見るな!!」


若干水気が残る髪を掻き上げ考えている中、突然それは襲ってきた。

何とも悪い間で現れた傑にびっくりして奇声をあげた瞬間、まるで痛い子でも見たかのような目線をくれやがった渦中の人。




「…お前って本当に残念な奴だよな」


「おいどこを見てるんだ。頭か?頭の事を言ってるのか?」


羞恥もあってムキになる私をものともせず、彼は手招きをした。


「まぁいいから、ちょっと来い」


****


導かれるままについて行ったのは再び傑の部屋だった。


「え、駆…?」


窓から外を見つめる彼を追えば、その視線の先にはエナメルを担いだ駆の姿が。


説明を求めても口を閉ざす傑を不審に思いながら駆の行方を眺めていると、以前奈々に明かされた話を思い出す。




…いくら駆だからと言っても夜の公園で奈々と二人っきりとか






「…ちくしょう羨ましすぎる」

「あのなぁ…」


ギリリ、と奥歯を噛んだら“いい加減セブン離れしろ”とチョップをくらってしまった。

でも無理。
奈々は私の女神様だもん。


ていうか、何でこの兄弟の気持ちは通じ合わないのか疑問だ。

口下手な傑だから仕方ないのかもしれないけど、駆は一回彼のブラコン具合を知るべきだと思う。


弟が走っていった方向をじっと追う兄は、今何を考えているんだろう。


「…素直に言えれば良いのにね」

「……」


拗ねた風にそっぽを向く一個上の彼に苦笑いを浮かべながら。


「傑も大概不器用で残念だよ」


「…ほっとけ」





帰宅した駆の明るい表情を見て、私達から安堵の笑みが生まれるのはもう少し先。



(その時私は気付いてない振りをした)
(胸の内を渦巻く不明瞭な“不安”に)


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