Fw:本文「君の一票」世良


 扉を開けると。

「ふーん」

 そこは厳寒ブリザードでした。言っておくけど、冗談ではない。某有名な文学作品でもない。そこは絶対理解して欲しい。誰が何を言おうと、私には現実以外の他のモノになんてあり得ないんだから。





LOOK ME!!






 それは数ヶ月前のことだ。

「人気投票?」
「だからオレに入れるんだよ。いいね」

 ……は?いきなりなに言ってんの?
 そんな顔をしていたのだろう。反論は認めない。どうなるかわかってるよね?……実際、その言葉にロクなことがないからだ。右京に逆らった日には、この日が命日である。
 そんな私たちを見かねて、来客が人気投票の趣旨を教えてくれた。高校サッカー担当の記者、##NAME2##さん。なんでも、チームメイトが選ぶ尊敬するサッカー選手!という企画なのだそうだ。

「……わかった」

 入れたらいいんでしょ。そういう意味合いで返事をしたら、彼の冷たい表情が綻んだ。 一方で鷹匠さんは我関せず、佐伯や早瀬さん、生島さんは苦笑していた。国松さんは頭の上に?を浮かべている。鈍感っていいなー。##NAME2##さんは「よかったね」という風に笑顔だ。それ以外の部員たちは右京の厳寒ブリザードの餌食になったのか、部室の端に倒れていた。ご愁傷様。






 そんな日があったなと日は過ぎ去りつつ、数ヶ月後。

 (……あーあ)

 また同じことをしている。右京の厳寒ブリザード。制服の上にコートを着ていても寒いのだ。よほど何かあったに違いない。ちょうど一ヶ月後にはすでに桜が咲いているというのに。
 やっぱり鷹匠さんは我関せずだし、佐伯を始め、早瀬さんと生島さんは苦笑している。さすがに今日は##NAME2##さんがいないけど、国松さんが少し顔をひきつらせているくらいで、やっぱり厳寒ブリザードの餌食になっているその部室と部員の様子は相も変わらず、というような言葉が正しい。

「どうしたの?」

 何かあったに違いない。誰に聞けばいいのか迷っていたら、これまで我関せずだった鷹匠さんが雑誌を渡してきた。それを受け取る。これだ、と開いてくれたページの記事に合点がいく。

「あー……なるほど」

 つまり、人気投票の結果に右京は納得がいかないのだ。3位以下である彼の取り扱いが小さすぎる。仕方ない部分もあるけどね。
 八つ当たりされた部員たちにご愁傷様、と手を合わせると佐伯が「それはちょっと……」と微妙な視線を合わせてきた。微妙であるからにして、同じような気持ちなんだろうけど。不謹慎だと言いたいんだろう。鷹匠さんは彼らを一瞥しただけだ。けど、口角はつり上がっている。何か楽しいことでもあったのかな。佐伯が携帯を開いた。少し驚いて、鷹匠さん、と呼ぶ。

「どうした」
「……姉が」
「##NAME1##?」

 何かあったの?よくわからなくて、きょとんとしていたら、部室のドアが勢いよく開いた。

「バカ匠、ここで会ったが百ねn……さぶうぅうう!!!」

 誰?しかし、闖入者はそれどころではなく騒ぎ始める。

「この雪山ような寒さって……なんなの?」

 なんなのって……右京の魔術ですが。え、ちょっとブリザード強化しないでよ。私の心を読まないでよ。
 でも鷹匠さんは楽しそうだ。

「よく来たな!」
「先ほどはどうも」
「どういたしまして」
「違うよ。そして一発殴らせろ」
「断る」
「それも断る」

 威嚇しながらのにらみ合いに10秒。それを見かねたもう一人の来客が呆れたように息を吐く。

「二人ともやめないか」
「よう。飛鳥も来たのか」
「##NAME1##を放っておけるわけがないだろう」
「そうか?」

 うちの核弾頭と仲良さげに話す人……見覚えのある他校生。

「姉さんも鷹匠さんも落ち着いて」
「……ゆーたんの頼みなら仕方ないわね」
「ゆ、ゆーたん?!」

 謎の闖入者が呼んだ友人の名に衝撃を覚える。

「あぁ……自己紹介がまだだったわね。私の名前は佐伯##NAME1##。よろしく」

 肩の上で切りそろえられた、弟と同じ明るい髪色の彼女。弟である佐伯が説明を補足する。

「オレの姉で2コ上。でこっちは……」

 ……えーと。少し躊躇いつつ紹介を始めようとするのを感じ取ったのか、もう一人の客人が、全体を見渡した。

「オレは飛鳥享。こうやって会うのは初めてだな」

 確かに。試合で顔を合わせたことはあるけど、こうやって会うのは初めてだ。それぞれ自己紹介をすれば、少しは落ち着いた。

「それで何の用だ?」
「え、あんたを殴りに来た他になにがあるのよ」

 ……この人鷹匠さんの何なんだろう。

「仲いいんですね」
「悪えn「親友だからな!」何嘘ぶちかましてんだバカ匠!」
「本当のことだろ?」
「あり得ない。絶対絶対うそ!」
「照れ隠しか。ツンデレだな」
「自分の都合のいいように脳内変換するなこのドSめ……!」

 佐伯の姉と鷹匠さんの間で火花が散る。右京の魔術もとけていくからいい……やばい。そんないらないよブリザードの集中攻撃なんて!

「さっぶ!」
「雪崩もあるな。」
「……」

 来客たちの会話に心の中で謝った。ごめんなさい、さっきのブリザードは私のせいだ。雪崩というのはこの厳寒ブリザードの被害者だろう。ある意味屍だ。雪崩のように積み上がっている。この光景も、右京の魔術も私はすでに慣れたからいいけどね。心頭を滅却すれば火もまた涼し。その反対なら身につけた。
 とりあえず、鷹匠さんと##NAME1##さん(佐伯と区別が付きにくいからこう呼ぶことにした)がどのような関係で、過去に何があったのかはわからないけれど、確かに仲は良さそうだ。ちなみに飛鳥さんは##NAME1##さんの右手をずっと握っている。どういうことかはすぐに理解できる。
 右京の魔術は本人以外どうしようもない。人数もそこそこ集まってきたし、どうせならブリザードで倒れなかった者で何かしたい。なら、何をしようか。そう思ったとき、鷹匠さんがおもむろに口を開いた。

「飛鳥さ、サッカーしようぜ」
「そうだな。久しぶりにいいかもな」

 え?どういうことだろう。

「アンダー代表だとゆっくりできないしさ」
「中学の頃のようにやろうか」
「決定だな」

 明日は模試ということもあり、今日は部活が休みだ。3年生は自由登校。なんとなく足が向いたサッカー部の部室。他の部活がないから他校生が混ざっても大丈夫だろう。幸い、飛鳥さんはジャージもスパイクも持ってきていた。

「それじゃ、またあとで」

 ##NAME1##さんと荷物を持って外に出た。もともと葉陰の方でサッカーをするつもりだったけど予定を変更したのよ、と聞いた。その予定変更をした理由が、右京の厳寒ブリザードの原因でもあった……とりあえず、鷹匠さんにしてやられたのでやり返しに来たんだそうだ。そういう話をしながら女子更衣室へ案内をしていた。今いる正規のマネージャーは私だけだから細々としたことはやらなくてはいけない。##NAME1##さんが手伝うといってるから、言葉に甘えることにした。

「あ、祐介」

 途中で佐伯が後ろから追い抜いていった。##NAME1##さんが呼び止める。

「姉さん。今から行くところあるから行ってくる」
「気をつけてね」
「姉さんも。帰りは飛鳥さんに頼んだから」
「サンキュ」
「また明日ね」

 手を振って見送った。そして、更衣室に入って
 さて、仕事を始めますか。と動き出したはいいものの……やっぱり寒かった。

 (まだやってる……)

 何がって、右京の厳寒ブリザード。

「そんなに悔しかったの」
「……」

 彼は無言で笑った。満面の笑顔。これで騙される人は多い。そんな人はサッカー選手としての右京を見ているだけで、右京自身を見ているわけではないのだ。だから本当は笑っていない。仮面をかぶっているだけだ。心の奥は見下しているのかもしれない。そんな彼ら(実際は彼女の方が多い)に右京も強い関心を示していない。

「右京は王様よ。堂々としていてよ」
「……その王様は皇帝に負けてるけど?」

 意地悪ね。確かに皇帝の方が立場的に強い。ブリザードだって不器用な彼の弱音なんだよね。
 でも、でもね。

「言っておくけど」

 今の彼にきちんと伝えなきゃいけない言葉がある。

「右京が入れろって言われなくても、私は入れたわよ。私の意思で」
「!」

 もう馬鹿だな。それくらいで自分を見失わないでよね。

「それじゃ、君はオレのことだけ見ていなよ。他の男を見るなんて許さないから」

 あれま。些細な言葉が告白となった。でもいいわ。答えは一つしかないから。

「もちろん!!」

 私自身の意思でかけられた、右京の恋の魔法なのよ。





―――――――――
あれ、最後右京じゃない!!!!
そんな人気投票にまつわるスピンオフ!

右京は実は弱音を素直に吐けない不器用だったんですね!新発見!!!
だからって魔術……って!!

あえて名前のない彼女。
最後は乙女に書いた本人が悶絶してます。





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