Fw:本文「君の一票」飛鳥1


 外は冷え込み、コートにマフラーや手袋などの防寒着が手放せない。何か呟こうとすれば、無意識的に寒い、としか言葉にしていない。
 そんな冬まっただ中のある日の出来事だった。

「……人気投票?」

 鎌倉学館サッカー部の部室で素っ頓狂な声があがった。

「……あれですよね」
「好きな物などに投票するという……?」

 佐伯と早瀬の言葉の解釈に大人――顔なじみの記者は満足そうにうなずいた。

「小規模企画なんだけどね。出版社の方で何人か適当に選んで投票してもらおうかなと」

 今の3年が入学した頃からの付き合いの若手の記者。楽しいでしょ?なんて笑顔で満ちあふれていた。












 季節はうってかわって3月。三寒四温だという不安定な天気だけども、少しずつ過ごしやすくはなってきている。
 最近は受験にまみれていた日常もなくなり、正真正銘の春を待つばかりだ。制服を着るのもあとわずか……片手で足りてしまう日々に寂しさをかみしめたり、思い出を辿ってみたりしながらも、どこはかとなく過ぎていく時間に幸せをかみしめていた。
 そんな葉陰学院の3月末日。

「えっ、ほんとだ!!」
「だろ?」

 サッカー部の部室で3人の生徒がいた。そのうち2人の男子生徒が女子生徒の反応をほほえましく見ていた。

「私のかわいいゆーたんが鷹匠と並ぶなんて!よくやった!」
「おい」
「そっちか!」

 呆れた声など露知らず。彼女は雑誌を抱えて握りしめている。狭くなかったらくるくると回っていたところだろう。それほど幸せな、恍惚とした表情だった。

「あぁっゆーたん。もうかわいいしっかり者のさわやかなカッコいい男の子になっちゃうなんて。お姉ちゃん嬉しいよ!!さすが私の弟!!かわいい!!」
「「……」」

 ……あーあ、はじまった。そうばかりに遠いをする白鳥。真屋は重くため息をついた。

「……あいつだろ?」
「夏の大会の県予選の決勝戦の……」
「「鎌倉学館一年MF佐伯祐介」」
「ポジションはボランチだったよな」
「あぁ……」

 顔を思い出すとまたため息がでた。サッカーを通じて他校に友人がおり、しっかり者という彼のの話はよく聞く。だがしかし、目の前にいる彼女はしっかり者以上によく「かわいい」と連発する。本当のところ、どうなんだろうか。

「……それよりさ」
「……どれだけ好きなわけなんだ」
「……いつも大会前になったら憂鬱になってるし」
「「……」」

 考えてみる。彼女がどれだけ"弟"が好きなのかを。

「……ブラコンだよな」

 これまでの彼女の言動や表情から導きでた白鳥の結論に彼女は反応した。

「黙らっしゃい!!」
「ああ。そう思う」

 ……地雷だったようだ。部室内に声が響く。

「うなずくなぁぁぁ真屋!ゆーたんのかわいさを知らないからそんなことがいえるのよっ」
「あーはいはい」
「ほんとにわかってないでしょ!ブラコンだけじゃ説明できないんだから」

 少し顔をむくらせながら佐伯祐介の姉――佐伯##NAME1##は携帯をとりだした。そもそもブラコンを認めるのか。それはさておき。弟が載っているページからやや視線を動かした。そして彼女は少しだけ黒く微笑する。

「……それにしてもざまーみろっての核弾頭めっ」
「……なにかあったんですか佐伯さん」

 携帯電話に耳を当てながら……電話するらしい。そんなところにやってきた一年の蝦夷。彼女は今の状況を把握できない後輩に説明しようとしたが、そこにコールがつながる。

『もしもし?##NAME1##姉さん』
「ゆーたん!元気してる?」
『してるよ。今から部活。いきなり電話してどうしたの?』
「あのね!……」

 彼女が今片手に持つ雑誌の名前を弟に告げると彼も用件に理解した。同時に蝦夷は真屋から説明を受ける。いつの間にか来ていた2年生の鬼丸と大月が雑誌を見て感嘆をもらす。

『今みんなで見てるよ。まさかオレが2位だなんて……いいのかな』
「私は嬉しさでいっぱいだよ。自分の力に驕らず、努力しているところを見てくれる人がいるよ。だから胸を張りなさい」

 会話の内容を全て聞き取れないのが残念だ。彼女の穏やかな表情から人気投票の結果を喜んでいるようだ。嬉しさを隠しきれなくて電話したんだな。部室内にいる全員がそう感じていた。

『……ありがとう姉さん』
「さっすがゆーたん!いい子に育ったねぇ!」
『ははは』

 微笑ましいかな姉弟愛。表情から読みとる彼女に目を向けた。そんなとき。


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