加築せらのさまへ



いつもは本当に静かな放課後の図書室。
しかし今はテスト前であるためか、学習目的の生徒がシャーペンを走らせる音が響き隠れた存在感を示していた。

かくいう私もその数ある中の一人なのだけれど、やはり長時間問題集と向き合うのは疲れるもので。
休憩と称して筆記用具を置き、読み古した愛書を取り出した。

うん、やっぱり嫌な勉強より好きな読書の方が集中出来る。
流れるように文字の世界へ入りかけた時、幸か不幸か私を現実に引き戻した人物が現れた。


「試験前にずいぶん余裕じゃねぇか、##NAME1##」

「…別に?ただ瑛と一緒に勉強したかったから待ってたの」

「そんな泳いだ目で俺を騙せると思うなよ」


ふと差した影の正体を見上げれば、何をしてそうなったのかすくすく伸びた身長に厳つい面で私を見ている恋人、もとい鷹匠瑛が。
読書を咎められ咄嗟の言い訳をするも、彼には無駄な抵抗であった。
どかっと無遠慮に隣へ腰掛けた音がペンの無機質な音を掻き消すが、特に気にする人はいないようだ。

みんな物凄い集中力だと関心する一方、隣の彼が勉強出来るようスペースを空ける。


強豪校として名を馳せている鎌学サッカー部は、その名に見合うだけの練習量だ。
特にキャプテンと言う立場で莫大な部員数を纏め上げる瑛に掛かる負担は並みの部員の比ではない。

そんな彼に恋人の私がしてあげられる事と言えば、あまり我が儘を言わない事や勉強を手伝う位。
別段成績が悪い訳ではないが、練習が堪えているのか授業中に夢の世界へ旅立ちがちな彼。
まぁ、将来はサッカーを生業にするのだろうし必要ないのかもしれないけれど。
ノートを見せたり、こうしてテスト前に一緒に居られるのは嬉しいから私は真面目に勉学へ励んでいるのだ。



「…よく考えたら凄く不純な動機」

「あ?何か言ったか」

「いいえー?私の瑛に対する愛は道徳をも超えるんだって思っただけ」

「疲れてんのかお前」

「そうかも。勉強し過ぎで頭パンクしたのかな」


情愛を示したつもりだったのに思い切り怪訝な顔を向けられ少しショックを受けた。

ちぇ、可愛くないの。

内心私がいじけているのを知る由もない彼は黙々と課題に取り組み始めた。
さすが運動部は集中力が半端ない。



「##NAME1##、ここはどう訳すんだ」

「ああ…そこは『念ず』の意味が我慢する、だから『とても眠たいのを我慢して』って読むといいよ」

「サンキュ」


手短な会話を終えると再び問題文に向かい合う瑛の横顔を眺めてみる。

イケメンだ、普段の暴君さが綺麗さっぱり隠れてしまうほど知的に見えるなんて、これだから男前は得だよなぁ。

無遠慮にじろじろ見つめていたのが気に入らなかったのか、彼は眉をひそめて私を睨んだ。


「…んだよ」

「いや、知的な瑛も良いけどさ。やっぱり生き生きとサッカーしてる姿が一番瑛らしくて好きだな、と再確認してた」


一応周囲に気遣って小声で言ってみたが、彼にはバッチリ聞こえる距離だった為に呆ける表情が間近に映った。
おやまぁ笑える。

声が漏れそうになるのを口に蓋して押さえ込むと、瑛は急にボソリと呟いた。


「前から思ってたんだけどよ…もっと我が儘言って良いんだぜ。無理して我慢させるのは心持ち悪ぃんだよ」

「は…?」


一瞬何のことだか見当もつかず私まで呆けてしまった。

しかしそれが瑛なりの気遣いだと分かると、意外な優しさに今度こそクスリと笑いがこぼれる。
彼がキャプテンに就任してからは今まで以上に多忙な日々だった。
二人で会う時間など殆どないに等しく、瑛は文句を言わない私に無理をさせているのではと心配しているらしい。


本当に、バカな人。




「てめっ笑ってんなよ、これでも俺ぁ真剣に…」




「『論はないぞえ惚れたが負けよ どんな無理でも言わしゃんせ』」


またまた目を丸くさせる彼にしてやったりとにっこり笑う。
続けざまにもう一言告げれば、彼もくつくつ喉を鳴らして口角を上げた。


「『諦めましたよ どう諦めた 諦められぬと諦めた』」

「は…心配するだけ無駄だってか」

「当然。少しは私を信じなさいよ」

「悪かった。にしても都々逸の唄を引用するなんてお前らしいな」

「あれ、知ってたんだ?」


瑛はそう言って私のカバーの掛けてある愛書を指した。

私は古典、特に和歌が好きな少し変わった趣味を持っている。
しかし彼にとっては予想通りに苦手科目であるので都々逸の存在など知らないと思っていた。


訳を尋ねても一向に口を開く様子のない彼に、冗談混じりでじゃあ私の事どう思ってる?と聞いてみる。
平たく言えば勉強に飽きた暇潰しだ。

ふと周りを見渡すと、下校時間も近いからか他に生徒は残っていなかった。
司書の先生が早く帰れと言わんばかりに私たちにチラチラ視線を寄越している。


「ヤバい時間だ。瑛、帰ろう」

「…##NAME1##」

「ん?」


自分でしたにも関わらず先程の質問はすっかり頭から抜け落ち、瑛に片付けを促す。
黙って支度をしていた彼は、一瞬だけ私の耳元で唄を詠んだ。



(…ああもう本当にバカな人)


サッと私の手を掴みズカズカと歩き出す愛しい人に引っ張られながら、赤い顔のにやけを直すのに必死だった事を彼は気付いていただろうか。




「『嘘も言えない ほんとも言えぬ お前が好きとしか言えぬ』」



いとしいとしで紡ぐ戀
(惚れて惚れられなお惚れ増して これより惚れよがあるものか)



−−−−

加築せらの様へ捧げる相互御礼です!

遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした…!
しかも無駄に長くてすみません…。
名前変換少ないですね…弁明の余地もありません。

頂いた素敵小説に比べたらとんでもない駄文ですが、感謝の気持ちを込めて精一杯書いたつもりです。
お気に召して頂けたら幸いですが、苦情も返品も書き直しも受け付けます!

この度は相互リンクをして下さり本当にありがとうございました!
どうぞこれからもよろしくお願い致します!


11/05/14


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