9999キリリク


玉章番外・未来設定









「いらっしゃーい」

「お邪魔します」

「いらっしゃい林檎ちゃんっ!」

「…リンゴな…俺じゃなくて、リンゴ…」


鍵がかかっていなかった玄関の扉を開くと、恋人兼幼なじみが出迎えてくれた。

しかし##NAME1##が笑顔で飛び付いたのは、母さんに持たされた手土産の果物。

これが今回の訪問の目的でもあるから仕方ないんだけれど。
相変わらず期待を打ち砕くのが上手い奴だ。



「ありがとう祐介!これでパンのお供に困らないよ。まぁまぁ上がって!」


そんな笑顔でお礼を言われたら文句も引っ込んでしまうのを分かってやっているのだろうか。

いや、分かっていないからこんな無垢な笑顔なんだろうけど。



長年の経験から諦めを学んだ俺は、勝手の知れた家の敷居を跨いだ。






「…あ」

「どしたの祐介。メール?」

「んー、母さん達遅くなるから夕飯は自分で何とかしろって」



##NAME1##の煎れてくれた紅茶をお供に話し合っていた所(八割サッカー、二割美島さんの話だった)、不意にズボンのポケットに入っていた携帯がメールを受信した。
内容はさっき言った通りで特に驚くこともなかったのだけれど。



「え、じゃあ祐介今日一人じゃん。うちで食べていきなよ」



孤食、ダメ、絶対!と日常的に孤食生活の人間から叱られた。理不尽だ。
思っても##NAME1##と一緒に居られる時間が増えたことの方が嬉しくて言われるがままに従った。




恋心を抱いて十年以上。

紆余曲折を経てやっと思いが通じ合ったは良いが、幼なじみとして側にいた時間が長すぎて恋人らしいことを何一つしていないのが悩みの種だ。


恋人とは名ばかりの、単なる幼なじみの延長なんじゃないかと自信をなくす時もある。
果たして俺は##NAME1##に男と認識されているのか。

長所だけど小憎たらしい天然を存分に発揮する腕の中の恋人を見下ろした。


そう、腕の中。

大事なことだから二回言った。



「…##NAME1##」

「んー、ここのディフェンスラインが上がった時が狙い目か…」



全く聞いていない。

俺が後ろから抱き込んでも、テレビに繋いだビデオに録画されている他校の試合分析に夢中だ。


##NAME1##は興味のあることには物凄い集中力を費やす性格であり、その間周りは一切見えないと言う厄介な一面を持つ。

いや、夕飯までご馳走になった俺が言える立場ではないと分かっているが。

だけど##NAME1##、無反応はないだろ。


細い髪を掬って指先で遊んでみても動じない。
信頼されていると喜ぶべきなのか、相手にされなくて悲しむべきなのか。


ムッと反感を覚えた俺は、画面に釘付けで無防備な##NAME1##の耳元で低く囁いた。



「―――好きだよ、##NAME1##」



それから約一分後だった。##NAME1##が動き出したのは。



「……ああ…うん、どうも。そうだ祐介、リンゴ剥こうか。お茶も用意するよ。うんそうしよう」

そう矢継ぎ早に言っては腕から離れようとする彼女の耳や首筋が色づいている。
意外な反応に目を瞬かせるが、##NAME1##が逃げないようしっかり抱き締めた。

すると今までは何の抵抗もしなかったのに急に体を強張らせて焦り出す彼女。


「ちょい、祐介さん、離っ」

「嫌だって言ったら?」

「ふざけんなてめぇこらぁぁぁぁ!」


照れて暴れる##NAME1##の肩に顎を乗せて、前に腕を回して固定すれば空気の抜けた風船みたいにだんだんと大人しくなっていく。
代わりに体温が上昇し続けていた。


くつくつ喉の奥で殺しきれていない笑いがもれる。


「##NAME1##、熱いな」

「なら離せって!」

「それはダメ」


##NAME1##とこうしてるの好きだから、と甘えるように呟くと彼女はそれきり黙ってしまった。
拒否せずにいてくれることと、回した腕から伝わる早い鼓動に安心して目を瞑る。


すると一瞬で静寂が鼓膜を通り抜ける。
薄目で見れば##NAME1##がリモコンでテレビの電源を切ったのが確認できた。



「も…心臓もたないことすんなばかぁぁぁ!こっちは一杯いっぱいなんだよぉ!」


次に視覚したのは、火が出そうなほど赤い困り顔。
明らかに俺を意識している様子に胸の内がくすぐったい。


「…じ、じ、自分ばっか好きだと思ってたら大間違いだからね」

「え…?」

「知るかっもう二度と言わん!」


そう小さく口にしてそっぽを向いた##NAME1##の心音は、熱は、今の言葉をはっきりと裏付けていて。



(…幸せ、だな)

緩みっぱなしな相貌を抑えきれなかった。





「##NAME1##、好きだよ」

「…私だって祐介が好きだよ」


はにかんで弓なりになった##NAME1##の瞳には、幸せそうに微笑む自分が映っていた。



世界が羨む恋をしよう
(こんなに素敵なことはない)



−−−−

9999hitを踏んで下さった方に捧げます!

連載で未来設定、との事でしたが如何でしょう?
勝手に高3くらいのつもりで書いてしまいました、すみません…。

甘いというか気持ち悪いですね。

爽やかな佐伯くんでなくて申し訳ありません!
連載では不憫な役回りですが、ちゃんとくっつくとベタ甘になると思います。


いつもと違う二人を書けて良かったです!

リクエストをして下さり本当にありがとうございました!
とても楽しかったです。

お気に召さなかったら苦情も書き直しも喜んで受け付けます。


お持ち帰りは9999hitを踏んで下さった方のみご自由にどうぞ!


11/04/07


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