日向


私にとって世界とは、と考えてみる

というか世界ってなんだ

広く一般に定義されている大陸以外を示すのなら世界とは一体何であろう

空間か?地面か?海か?空か?はたまた化学物質か?

世界とは一体何なのだろう



「んな小難しいこと知るか!それよりとっととオペレーション終わらせろぉ!」

「うるさいアホ日向。てかこれオペレーションってより只の雑用だろうが」

「口より手を動かせ!そうでも思わなきゃやってらんねーよ!」


日向の叫びと同じく乱雑に置かれたライフルがガシャッとコンクリートの床で音を立てた。
(ギルド地下でそれ作った人に謝れ。チャーさんにも)


穏やかな日差しが眠りを誘う屋上。
なのに私と日向の横には山のように積まれた武器各種が。

こんな良いお天気なのに真っ昼間から武器磨きとか何が楽しいんだ。


前回のオペレーションで全く(強調)役に立たなかった日向は見事ゆりのお怒りを買ってしまい、この様な雑用を押し付けられ今に至る。


『この武器が戦線に於いてどれだけ重要か分かるわよね?
一つでも乱暴に扱ってみなさい…死よりも恐ろしいお仕置きが待ってるから』



端から見てた私もあの時既に死を覚悟した程ゆりの笑顔は怖かった。
“惚れ直すぜゆりっぺ…”とかほざいてた野田は取り敢えず死ねば良いと思った。
日向も同じ回想をしていたのか、慌ててライフルを拾い磨き直す。


「いやぁごめんな!いっつも俺達に力貸してくれてんのに粗末にしたりして…」

「ていうか無機物に謝る前に先ず無理やり道連れにされた私に謝罪しろよ」

「つれない事言うなよー葵。長い付き合いだろ?」

「近寄るな諸悪の根源が。親しき仲にも礼儀在りだ」

一向に反省の色を見せない唐変木に苛立ちは募るばかりで、ちょっかいをかけてきた手を振り払う。


「…なぁ。葵がお堅いのは元からだけどさ、最近冷たすぎじゃねえ?」


唇を突き出して抗議する声に胸がドクリと一鳴りした。

―――まさかバレてしまったか?


手元に集中する事で平静を装うが、相手は更に詰め寄って来る。


「気のせいだろ。私はいつも通りゆりに甘く、その他に厳しくをモットーに過ごしているぞ?」

「お前どんだけゆりっぺ好きなんだよ!違くて、何か俺だけ異様に距離が遠いだろ」


今度こそ動揺を隠しきれず作業を止めてしまった。


「…図星かよ」と沈んだ日向の言葉が聞き取れた。


小さいため息を吐いて片手で前髪をかき揚げる彼は、不機嫌というよりは切なそうな表情をしている。


「何かお前の気に障ることしたなら謝る、だから理由を教えてくれ」


分からないことに謝るな。そう怒りたかったがこの場の雰囲気がそれを許してくれなかった。


「…日向にとって世界とはなんだ?」

「え…」


呆ける彼を横目に膝を抱え込む。
体育の授業に励むNPC達を眺めながら重たい口を開いた。

「かつて私の思う世界は丸い地球だった。
その認識だけで十分だった筈なのに…。
ここに来て、皆と過ごしていく内に私の中の世界という認識は変わり始めた」


ここまで話して一旦止める。
ずっと胸に秘めてきた事実を告げるべきか否か―――
何も言わずに私の話を聞いてくれる日向を見て、フッと笑う。
それは諦めにも似た嘲笑だったかもしれない。



「SSSの皆もそうだが、ある男との関わりがいつしか私の全てになっていたんだ…。

その男がお前だ、と言ったら笑うか?日向」


茶色の瞳が揺れ動き、焦りを表していた。
ああやっぱりな、どこかで予測していた結果に自嘲する。

「滑稽だろ?地球と言う大規模な世界からたった一人の人間て矮小な存在が私の世界になったんだ。
簡潔にすると、私はお前が好きなんだよ」


一度口にしてしまえば流れるままに本音が出るが、もう日向の顔は見れなくて背を向ける。

色気もへったくれもない一世一代の告白はあまりに呆気なく、かつ実らないまま終わってしまった。
覚悟していたものの、実際に受けたダメージは大きく視界が滲んだ。


「…変な事言って悪い。けど、分かったらもう私に近付かないでくれ。
これ以上お前と居たらきっと私は消えてしまう」


いっそ今消えてしまいたい、そんな願望が脳内に浮かんだ折、日向は遂に沈黙を破った。


「……嫌いだ…」

本人から言われるとまたキツイものがあり、とうとう涙が頬を伝う。



しかしその瞬間目の前を日向の腕が交差して、強く抱きすくめられた。


「ひ…なた?」

「嫌いだ…そうやって勝手に自己完結するお前も、自分を追い込もうとするお前も」

自分の存在を主張するように痛い拘束は、不思議と振り払えなかった。


「嫌いだよ、…俺から離れてくお前なんて」


文字通り、日向の腕に閉じ込められた私は自分の耳を疑った。
夢であって欲しい反面、現実を求める気持ちが抑えきれないでいる。


「…ならちゃんと好きって言ってくれないと伝わらないぞ?」

「だって言ったらお前消えんだろ」

苦し紛れに絞り出した声はあっさりと一閃され、しかも大当たりだった為に行き場を無くす。


ふいに日向はくすりと微笑み、耳元で囁いた。

「だったら望め、俺に未練を残せ。俺の側に居たいって…。
そしたらいくらでも愛を叫んでやんよ」

「アホ日向……そんな軽率な発言すると一生成仏出来やしないぞ…」


後ろ向きで良かったと思った。
顔は涙でぐしゃぐしゃになっているから。


「上等じゃねーか、消える時は一緒だ。来世だって解放してやんねーかんな。覚悟しとけよ?」


でもきっと二人とも笑っていると思う。
体の緊張を解き、彼の方に体重を預けた。


「上等だ…ずっと側にいてもらうからな…っ」

「ああ……好きだよ葵。愛してる、これからもずっと…」


互いの手をしっかりと繋ぎ合って、静かに唇を重ねる。


やっと私の世界は輪郭を取り戻した様だった。





(私を救うのは青空に輝く太陽の日当)





AB!より日向夢

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