白石with四天宝寺


※似非方言です、ご了承ください。間違っている個所はご指摘願います。
※ネタとしてぜんざいP設定あります、ご注意を。






2月16日―――バレンタインと言う一大イベントに隠れてしまう微妙なこの日は、何を隠そうあたしの誕生日である。

別に気にしてないし。
リア充爆発しろとか思ってないしね。
滅亡しろとは常日頃祈っているが。


「いや余計質悪くなっとるやん!」

「な、何で読めた!?謙也って読心術の使い手!?」

「アホ!思いっきり声に出とったわ」


スビシ、とご丁寧に手の振りまでつけたツッコミをくれたクラスメイト。
慌てて口を塞いでも時既に遅し。
謙也は苦笑混じりにあたしの頭をぽんぽん撫でた。


「そない荒れんとき。折角これからお前の誕生会すんねやから」

「…うう…」

そんな荒んだあたしを気遣ってくれたらしい男子テニス部レギュラー陣は本日、誕生日パーティーを開いてくれると言う。
全く良い奴らである。
今ほどマネージャーをやってて良かったと思った瞬間はない。

今日のあたしはオサムちゃんによって部活を強制的に不参加にされたので、図書室で暇を潰していた所に謙也のお迎えが来て今に至る。
今までの経緯を考える程、足が重たくなってきた。
…今更ながらすごく申し訳ない事してない?


「葵?どないしたん」

「な、何かごめんね。皆に気を遣わせちゃってるし、部活の時間減らしちゃったし…」


部室の前まで来て急に足が動かなくなる。
扉に手を掛けようとした謙也もピタリと止まってあたしを振り返った。
沈黙が痛いよ謙也くん、あんた待ち時間嫌いでしょ、気まずいよ何か喋んなよ放送委員のクセに!

とうとうあたしが耐えきれなくて先に口を開いてしまった。


「け、謙也」

「…アホ、アホやなぁ自分」

「は?ヘタレに言われたくな…」

「俺らの本心、今からじっくり分からせたるわ」

「う、わっ」


呆れた感満載の謙也があたしの背を押し、開け放たれた室内につんのめる。
すると真っ暗だった部屋中いっぱいに破裂音が響き、身体が跳ね上がった。


『ハッピーバースデー!!我らがマネージャー!』


パッと明るくなった途端に広がったのは笑顔、笑顔の山。
驚きのあまり弾けたクラッカーの残骸が顔にかかるのも気にならなかった。


「葵ーーーっっ誕生日おめでとさん!今日はワイが葵のためにたこ焼き作るでぇ!」

「き、金ちゃん」

「葵はん、これ儂が修行先で見つけた御守りや。貰うてくれると嬉しいんやけど」

「あ、ありがとう。銀さんからだとめっちゃ効き目ありそうだね」

「葵、いつも忘れんとってくれておおきにな」

「わ、アロマポプリだ!いいの?健ちゃん」

「俺からはトトロストラップたい。今度葵と一緒にトトロば探しに行きたかー」

「あたしで良ければ是非ともだよ千歳くん!」

「俺らからは勿論!」

「葵ちゃんのためだけの特別お笑いライブやで〜」

「心の底から笑かしたるからなぁ、覚悟しぃや葵!」

「小春ちゃん、ユウジくん…」


その衣装で既に腹筋崩壊しそうですが。
とかは笑いをこらえるのに必死で言えなかった。


「先輩らほんまキモいっすわ。後ろつっかえとるやろ…。
葵先輩おめでとうございます。先輩に新曲作ったんで後で聴いたって下さい」

「…え、ええ!?ぜんざいPの新曲が!?やばい嬉しい…!」


あり得ない待遇の良さに戸惑いを隠せないでいると、謙也が後ろからやってきてニカッと笑った。


「分かったか?俺らは皆、雪のこと祝いたいから集まったんや。遠慮なんかされたら虚しいやろ、心から楽しめっちゅー話や!」

「お、忍足先輩マジ眩しいッス…!」


感動のあまり涙を滲ませて皆を見渡し、これ以上ない位の笑顔でお礼を告げる。


「あ、ありがとう!!もうみんな大っ好き!!」

「おん!因みに俺からのプレゼントは厳選した消しゴムやで!どや!」

「「「それはないわぁ…」」」

「何でやねん!?」

「ないわ、有り得なさ過ぎや…空気読め謙也さん」

「財前おまっ…敬語ぉぉぉぉぉお!!」



あたたかい大好きな人達に囲まれて、ますます口元が緩む。
恵まれた仲間を持って幸せだと全世界に自慢したくなった。




****





その後誕生会は大いに盛り上がった。
暴走する金ちゃんを止める健ちゃんの奮闘や、小春ユウジのコントは抱腹絶倒ものだった。
謙也がイジられて、財前がちゃっかりムービーに撮っていて。いつもの四天宝寺らしいばか騒ぎ。



でも、居ないの。
この大騒ぎを保護者の様にまとめてくれる人が。
一人、あたしが一番祝って欲しかったあの人が。


それだけが小さなわだかまりとなって、胸の奥にこびりついていた。



「…い、せんぱ…、葵先輩?」

「っ財前…?どしたの?」

「先輩、嘘が下手っすね。物足りひんって顔に出とりますよ」

「そ、そそそそそんなまさか滅相もない!何言ってんのぜんざい!」

「おもんないボケやめろや」

「すみません」


毒舌後輩はいつの間に隣に座っていたのか、しかも的を得た事を言ってくるので随分焦った。
ボケと違うんだけどなぁ。

明るくしようとしても、つい沈んでしまう。

どうして居ないんだろう。
あたしもしかして何かやらかしてしまったんだろうか。
怒ってるのかな、だから先に帰ったとか…!?


「…先輩、きりーつ」

「は、はいっ?」

「ん、ええ子。ほな列を乱さずついてきて下さいね」

「え、あたし先輩…と言うか列ってあたししかいないけど」


…無視ですかそうですか。

突然立ち上げさせられ、引かれるままに外へ連れ出された。
真冬の冷風が凶器となって素肌に牙を向く。
え、何これ新手の先輩いじめ?


「ちょっと待って財前、外に出るなら防寒着しなよ!あたしはともかくあんたは寒がりなんだから」

「あ、ええんです。先輩届けたら俺すぐ戻るんで」

「本当にいじめなのか」

「ちゃいますって」


あんなぁ先輩。と前を歩く財前は肩越しにあたしを見る。


「俺、ちゅーか俺達は、さっきみたいに自分より仲間を心配しよる先輩が気に入っとるんです。せやから、大切なあんたには幸せになって欲しいんすわ。



なぁ。ホンマもんのサプライズはこれからやで、せーんぱい?」


柔らかく、けど悪戯っぽく笑う財前に唖然としていると、そっと前を歩かされた。
流れるままに着いた場所は馴れ親しんだテニスコートで、入り口には見知った人物が立っている。
とくり、鼓動が大きく鳴る。



視線が、絡まった。


「し、らいし?」

「遅いわ、葵」


会えないと思っていた、一番望んでいた彼が、ふわりと口元を綻ばせる。
名前を呼ばれただけで心臓が暴れるなんて、あたしは相当な白石好きだ。


「…ていうか、何で眼鏡?白石ってコンタクトだったっけ?」

「ちゃうけど、やっぱり似合わん…?」

「いや全然!似合い過ぎて直視できないくらい素敵ですはい!」


何故か掛けていた黒縁眼鏡を指摘すれば、白石はそのアイテムを弄りながら不安げにこちらを伺ってきた。
文句のつけようがないイケメンですご馳走様。
ていうか可愛いからやめて、ほんとカッコ可愛いからやめて!
嘘ですやっぱやめないで下さい!


興奮で失神してしまいそうなのを抑えながら白石を見れば、『さよか、喜んでもらえたなら良かったわぁ』と照れ笑いを浮かべていた。
ヤバい発狂する。
何でそんなイケメンなんだ白石蔵ノ介!


「俺ほんまはこういうコスプレみたいなん苦手なんやけど、葵が好きやって聞いたから買うてみた」


誰だか分かんないけどGJ!
見知らぬ人に胸中で親指を立てる。


「葵、誕生日おめでとう。それでな、プレゼントなんやけど」

「え、いいよそんな!もう皆から勿体ない程貰ったし、白石の眼鏡姿が見れただけで十分プレゼントだもん」

「…そんなんでええの?」

「あわよくば写メ撮らせて欲しいなー、なんて…」


おずおずと携帯を取り出す、がその腕を掴まれた。
ぐい、と引っ張られ重心が傾き、暖かさが身体を包む。
何だっけ、この良い匂い。
…そうだ、白石の匂いじゃん。


「―――――好きや、葵がめっちゃ好きや」

「し、白石さーん?」

「アカン…この日の為に完璧な計画立てとった筈やのに、本人前にしたら何も出来へん…。折角みんなが協力してくれたんに」

「おーい戻って来て、置いてけぼりにしないで」

「と、とにかくな!」


あたしは白石の胸に顔を押し付けられる形になっていて彼の表情は見えなかった。

熱い、動悸が、息切れが、目眩がする。
誰か薬を…この恋の病に効く薬を下さい大至急!


けれど彼の心臓はあたしと同じ位心拍が速くて、いつもの彼らしくない、ある意味彼らしい慌てっぷりに安心して小さく笑いが溢れた。


「誕生日おめでとう、葵が産まれてきてくれて、俺と出会ってくれてホンマに嬉しいんや」

「し、しら、白石?」

「プレゼント…」

「へ」

「…白石蔵ノ介をプレゼント、ちゅーのは、どうですか…?」


いや何故に敬語、とか。
そんな捨てられた猫みたいな目で覗き込んでくるな、とか。
お前は誰に何を吹き込まれたんだ、とか。

ツッコミたい事は色々あるんだけども。


「…嘘でした、は無しだよ?」

「おん」

「返品なんてしてやらないからね…?」

「おん、当たり前や」


ちゅーかされたら泣くで、と眼鏡を外した白石が柔らかく微笑みかけ、労るような手つきで若草のマフラーをあたしに巻く。
うん、素顔の白石が一番好きだ、なんて再確認した。



「白石、白石大好き。人生最高のプレゼントだよ!」



そう言って抱きつけば、“最高、はまだ早いで?来年も再来年もずっと圧倒させたるんやから”
なんて未来の約束を無邪気に告げたものだから。


言葉では表せない感激と感謝がちゃんと君に届くように。


強く強く、しがみついた。



世界でひとつ、君だけの。
(離さないでね愛しい人よ)

(二人で手を繋いで部室に戻ったら)
(全員があたたかく迎えてくれて)
(幸せ者だなぁって、泣きたくなるほど嬉しくて)
(嫌いだった誕生日が大好きになった)



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友人の誕生日プレゼントに送りつけました。
友人も四天宝寺も大好きですおめでとう!



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