志摩柔造+α
※似非方言です。間違っている箇所はご指摘願います。
「なぁ葵…」
「黙りよし!柔兄なんか知らん!」
平穏なる志摩家に怒鳴り声が轟いた。
大方の根源は四男坊と末っ子のじゃれあいだったりするのだが、今回はどうやら違うようだ。
「葵、そない怒らんと機嫌直しぃ」
「っ誰のせいや思てん誰の!」
いさかいの正体は志摩家次男にして次期当主である柔造と、末っ子廉造の双子の妹である葵だったのだ。
温厚な性格の葵がこんなにも怒りを露にするのは極めて珍しく、彼女を溺愛している柔造がほとほと困り果てているのも貴重な光景。
盛大に足音を鳴らし廊下を進む葵を追いかける柔造には妹の態度が全く分からない。
分からない限りはとにかく理由を聞き出そうと前方を行く妹の肩を掴んで振り向かせる。
「葵、俺何かしてもうたか?理由が分からんと謝るに謝れん」
「…この、ニブチンが!!」
「ぐ!?」
柔造が俯く葵を覗き込んでそう言うと、その口から想像もつかない罵声が飛び出し無防備な柔造に頭突きを喰らわせた。
兄は予想だにしなかった痛みにうっすら涙を浮かべて妹を見る。
すると彼女は柔造以上に涙の膜を張り、顔を真っ赤にさせて彼を睨んでいた。
「な、どないしたん葵!?」
「じゃあかしい!柔兄なんか蝮姉とイチャイチャしとればええねん!」
「?何言うて…」
「私との約束より蝮姉とのデートを優先する位やもんな!」
「は?何で知っ…いやデートちゃうし!」
実はこの二人、前々から出掛ける約束をしていたのだ。
柔造大好きな葵はその日が来るのを楽しみに待っていた。
しかし当日、柔造は急な任務が入ったと詫びもそこそこに仕事へ行ってしまった。
仕事なら仕方ない、と兄を思って寂しさを我慢していた。
のだが。
「しらばっくれんなや!仕事帰りの柔兄らが可愛らし小間物屋に居るのを同じく仕事帰りの金兄が見かけとんねん!」
「(あンの金髪チャラ男…余計なこと言いよってからに!!)
誤解や葵、俺の話を…」
「構へんよ別に!柔兄がそないなら今度から金兄とデートしたるし!?柔兄なんぞもう知らんっ」
そう言い放って柔造の手を振り払おうとする葵に焦りを覚えた彼は、咄嗟の行動で懐に彼女を収めた。
けれど大人しくなったのは一瞬、当然暴れる訳で。
「放しぃ柔兄!金兄の所に行くんやから…」
「それはあかん」
「何やのん、柔兄は良くて私はあかんの?そんなんおかしいわ!」
「おん。ホンマ勝手やな。でも俺が葵を他の男と一緒にさせたないんや。というか最後まで聞きよし」
頭を撫で続けてやっと静かになった葵へ、袂からシンプルだが綺麗な作りの簪を取り出し手渡す。
まんまるな目をパチパチさせている妹の様子に微笑み、真相を話した。
「この間はすまんかった。蝮にはこれ選ぶの手伝うてもろてん」
「……貰って、ええの?」
「おん。葵によお似合うとるさかい、今度はそれつけて出掛けようや」
呆気にとられて自分を見上げる妹に優しく告げると、彼女は相貌をくしゃくしゃに崩す。
「…っ柔兄ぃぃぃぃぃ!!好き!いっちゃん好いとうよ!!」
「俺も好いとう。せやから葵、嘘でも金造とデートなん言うたらあかんぞ」
滅茶苦茶焦ったんやから…と深い溜め息を吐いた柔造に感極まった葵が抱きつき、兄弟達に見られて妹争奪戦になるのはもう少しのこと。
Sweetest Kitty Sister !
(たくさん世話をやかせておくれ)
(あーーーっ柔兄ばっかズルいやんか!俺かて葵愛でたい!)
(黙りよし金造ォ!お前のせいで危うく葵に嫌われる所やったんじゃ!葵に近づくんやない金造菌が伝染りよる)
(なんやと!?葵に懐かれとるからって調子乗るんも大概にせぇ!)
(廉造、これ柔兄がくれたんよ!似合う?)
(おー、かいらしいなぁ。よう似合うてはる。やけど葵、ここは危険やから向こうでお茶にしよか。坊と子猫さんも居るさかい)
−−−−
おかしい京都弁には目を瞑ってやって下さい。
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