アンバランス・ロマンス


※似非方言です。間違っている箇所はご指摘願います。





ピンク、桃色、桜色


一般には綺麗なものや可愛く無垢なものに形容される色彩。

だがその実、少し使い方をかえればいかがわしい表現にもなり得る表裏一体なカラー。


そうそれは正しく彼そのものではないか。
…とか思ってみたり。




「春はどこも志摩くん色だねぇ」

「…どないしはったん唐突に」


私達は今、ただでさえ巨大な正十字学園のだだっ広い敷地を奥行き十分な馬鹿でかい教室から眺めている。

ホント無駄に大きいな、この学園。
建設費用とかどれ位かかったんだろうと気になったが、隣から“葵さん?”と呼ばれて思考を一時中断させられる。



「何?」

「いや何やてこっちのセリフやん。確かに俺の頭はピンク色してはるけど」

「桜って志摩くん色で綺麗だよね」

「ホンマに?葵さん俺のこと綺麗や思うてくれとるん?嬉しいわぁ」

「あ、あそこのリア充志摩くんオーラ満開でムカつく」

「…葵さんは俺を上げて落とすんが上手やね。ていうか会話する気ないですやろ」



葵さんのいけず…とアヒル唇で床に沈んでしまった志摩くんを一瞥してまた外を眺める。

桜や地面に生える草花、まだ真新しい制服の生徒たち、見渡せど見渡せど春色で。
その全てが隣でいじけている脳内ピンク頭の彼に直結してしまう自分に辟易した。


ああもう訳分からん、苛々する。


「私、春は嫌い。どこかしこもピンク色だし」

「素敵な色やないですの!なんたって俺のイメージカラーやし?」

「それが余計に腹立つの」



出会いに別れがあるように、春は切ない嘘を吐く。


一見優美な桜の根元には死体が埋まっているという逸話のように、春の裏には得体の知れないものがある。



綺麗だけれど、綺麗だから、奥に隠されているものが怖い。



「志摩くん、私は志摩くんが怖いよ。ムカつく。うざい」

「そんな殺生な…!ひどい言われようやんなぁ…」

「もし私に向けられるその笑顔が裏の顔だったら。そう思うと凄く怖いよ」


穏やかな春風が私達の間を通り抜け、この場にそぐわない花の香りを残していく。
驚きの表情を浮かべた彼は、見間違いかもしれないけれどほんの少し瞳に陰りを宿していた。

その様子にたじろいでいると、彼は急に立ち上がって目線を私に合わせるように屈んだ。



「な、志摩くん?」

「よぉ見て下さい」


焦る私に構いもせず、彼は真剣な眼差しで外を指差す。
次いでその跡を追えば、眼前に広がるのはやっぱり変わらない春爛漫。


「あんな、そんなマイナス面は皮肉大好きな日本人が後付けしよった屁理屈に過ぎないんや。
一般論やのうて、葵さんはどう思たん?
桜を、俺を見て、一番最初にどう感じたん」


至近距離で尋ねてくる彼の眼が私を射抜く。
時折ちらつく人工的な桜色に強く心臓が拍動した。


「…分かんないよ、志摩くん全然わかんない。
綺麗だとも思うしムカつくとも思うし、全部ぜんぶ本当なの。
なんなの、志摩くんのこと考えると、気持ち悪い」


しかめっ面でそう吐き捨て、窓枠に掛けた手を握りしめる。
苦しい気分が紛れる事はなかった。
すると人肌の温もりが私を包み込む。
背に回された腕は当然志摩くんのもの。


「葵さん、それ気持ち悪いちゃうよ。
恋しいいうんよ。
…あかん、俺嬉しくて死にそうですわ」


恋、意外な程にあっさり片付いてしまった。
そっか、私がこんなにも怖がってたのは全部、彼が好きだからなのか。



「言うておきますけどね、嘘の笑顔する相手にこんな事する程俺はサービス精神あらへんよ。その辺は肝に命じて下さい」

「…っうん…信じるよ。私、志摩くんがずっと好きだったみたい」

「みたいて…何や心許ないわぁ」

「う、いや、す、…好きっです!」


落ち込む彼に遅い弁解をして抱き締め返す。
どもってしまった告白を情けないと思ったのは一瞬。
額に当てられた唇の感触を放心状態でなぞる私に、彼は活き活きとした笑みを向けた。



「世界で一等愛したはるよ、葵さん」


風によって運ばれた桜の花弁が人工ピンクの髪にふわりと乗る。

…うん、やっぱり綺麗だ。

一人納得して口元を引き上げ、取ってやるのを先送りにして暫し二つの春色を楽しんだ。



(二人合わせて丁度良い)




−−−−
初青エク初志摩くん!
京都弁は脳内補修でお願いします。

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