祐介1
※本誌ネタばれです、ご注意を
名門鎌倉学館を破り見事県大会優勝、悲願の全国大会出場を果たした江ノ島高校サッカー部のテンションはこの上なく絶好調であった。
今はマックで二次会の様なお祭り騒ぎを繰り広げている。
嬉しそうに互いの功労を称え合う先輩方を他所に、私の中には些細な不安が居座っていた。
(祐介…大丈夫かな…)
その心配の種とは、今日の対戦相手だった私の幼なじみの事。
彼がピッチを去るとき一瞬見せた憂いの表情が忘れられなくて、飲みかけのシェイクが溶けていくのにも気が付かなかった。
「こら石崎ーっ祝いの場で湿気た面してんじゃねーっつの!」
「そーだそーだ!呑めや歌え、今日は無礼講だぞ!」
「あ、荒木さんマコさん重いです…。ていうか二人してどこの酔っぱらいですか」
いつしか口数の少なくなっていた私を気にしてか、単に皆からフラれただけか(多分後者だ)イエローカードコンビが背後にのし掛かって、前のめりになってしまう。
「にゃにおう?先輩に対してその口の聞き方は何だ礼儀知らずめ!」
「言ったれアラーキー!」
「あはは、夜も近いマックで飲み屋のテンションみたいにドンチャン騒ぎしてる先輩に言われる筋合いありません。織田さんが大目に見てるからって調子乗らないで下さい?」
「「ふ、二人揃って……退場ーっっ」」
少し苛立って絶対零度の笑みであしらうと、華麗に百八十度回転して逃げていく。
八つ当たりしてしまった事を過ぎてから後悔し、人の輪を外れて壁に寄り掛かった。
しかし一人になればそれだけ思い出されるのは祐介の姿のみ。
取り除こうとしても簡単には消えてくれず胸がずきずきする。
「また能面みたいな顔しやがって…そんなに鎌学に勝ったのが気にくわないか?」
「荒木さん…」
再び現れた不機嫌な彼の問いに首を勢い良く振る。
「誤解をさせてしまってすみません、江ノ島が優勝した事は本当に嬉しいんです。嘘じゃありません。ただ…」
「鎌学の…いや、祐介か?」
「そんなに分かりやすかったですか?」
「それもあるけど…お前の幼なじみ愛ハンパねぇし。駆や美島への態度見てたら丸分かり」
言い当てられたのにびっくりしたけど、理由を聞いて苦笑いしか出来なかった。
「生まれた時からの長い付き合いなもので。どうしても気になっちゃうんですよ」
「それだけじゃねぇだろ」
やけに尖った言い方のセリフに視線を向けると、更に機嫌を悪くした荒木さんが私を見つめていた。
「お前がアイツを気にするのは、アイツが幼なじみだからってだけじゃねぇだろ」
「どういう…」
「アイツばっか追い掛けるな、今のお前は江ノ島サッカー部のマネージャーなんだぞ」
分からない
彼が怒ってる訳も
彼の言葉の意味も
分からない
解りたく、ない
「気付けよ…俺はお前が、…石崎が」
♪♪♪〜〜
私達の間だけ静まりかえっていた空間に聞き慣れた着信音が鳴り響き、彼の発言を中断させた。
壁に頭を預けて脱力している姿にどうしたものかと悩んだが、取り敢えず一言断ってから通話ボタンを押す。
「もしもし」
『柚子ちゃん?』
「えっ…おばさん?」
思いもよらぬ人からの電話に人目も忘れて大声を上げる。
着信相手はまさかの祐介のお母さんだった。
「ご無沙汰してます…はい、ありがとうございます。はい…
え、まだ帰ってきてないんですか!?」
その内容も驚愕的でまた声を荒げた。
祐介が家に帰っていない。
普段なら連絡の一本も寄越すのに、今日に限ってそれがなく携帯に掛けても繋がらない様で、電話越しのおばさんはほとほと困っている。
『柚子ちゃんなら知ってるかと思ったんだけど…どこに行ったのかしらねぇ』
「おばさん…分かりました、私が探してきます」
『いいの?そっちでお祝いしてるんじゃ…』
「大丈夫ですよ!心当たりもあるんで、すぐ見つけて連れ戻してやりますから」
二言三言交わして通話を切ると、その手を隣の彼が掴む。
「噂をすれば…か。行くなっつったらどうする?」
「ふざけないで下さい、補導される前に見つけなきゃなんですから」
からかう様な口調は、探す相手が祐介であることに目敏く気付いている。
「なら答えろ。お前にとって祐介は何だ?」
何で今そんなことを聞くんだ、と半分キレかけたけど迷う暇なく即答した。
「ほっとけない大事な幼なじみです!」
「…ま、その認識のままなら今は勘弁してやる」
意味の分からない言葉と共に解放された手首は僅かに赤くなっていた。
「ほら、急ぐんだろ。早く行けよ、王子様が待ってるぜ?」
「言われなくても…あ、そういえばさっき言い掛けてた事って何ですか?」
すっかり溶けて味の薄くなった私のシェイクを奪い(ちょ、おいしくないですよそれ・・・)、それを飲みながら手を振って追い払う仕草をする彼に問う。
少しの間考える素振りをしてから、彼はこう言った。
「全国優勝したら言うから待っててくれねぇか?」
笑ってくれた彼に安心して、こっちも笑顔で頷いて踵を返す。
切り替えた脳内は祐介を探す事で一杯だった為に、背後の呟きは耳にも届かなかった。
「ちゃんと言うから…まだアイツのものにならないでくれよ…」
嘘つきな王様は姫を想う
(どうか自分に振り向いて、と)
○
21巻と本誌読んだ勢いでw
もし連載するならやりたいお話です。
次回に彼は出ます。すみません!
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